背中は押せるけど。#24
あのとき、わたしが「それ」を選んだ理由を、説明できる人なんて誰もいないだろう。わたし自身にすら。
目の前に現れた新しいクライアントである梨花を見た瞬間、記憶が蘇った。春の夕暮れ。小さな駅前の喫茶店で、わたしは決断を迫られていた。
「彼のこと、どう思う?」
年上の親友が向かい側で静かにコーヒーをかき混ぜながら言った。
「いい人だと思うけど」
そう答えたわたしの声は、まるで他人事だった。
「いい人かどうかじゃなくて、好きかどうかを聞いてるんだけど」
まっすぐな視線に、小さな