紀州のドンファン妻 須藤早貴さん 一審裁判員裁判無罪で思うこと
久々のnote
俺はこの事件、ぶっちゃけ黒に限りなく近いグレーだと思っている。
多分、弁護団もそういう認識はあったと思う。
それでも刑事裁判はグレーを黒にしてはいけない。裁判員と裁判官がその前提（日本では長らく忘れられていたが）を貫いたことを、とても立派に思う。
それから、黒に限りなく近いグレー、９９．９％有罪判決を取れる確証のない案件を、ちゃんと起訴し、できる限りの立証を尽くした検察もとても立派だと思う。
これがあるべき姿でしょ。
もちろん、最後まで被告人のために働いた弁護団の、グレーを黒にできないという主張を貫いた弁護活動も、諦めて迎合しなかった須藤さんも立派だと思う。
唯一いただけなかったのは、過去の男女トラブル、夜の世界でよくあるカネの話を掘り返した警察か…（笑）
日本の司法が最近、海外の圧力を受けて”まとも化”している。
日本の刑事裁判は変わっている。
無罪判決なんてほぼありえない。
起訴イコール有罪で、もっといえば逮捕イコール犯罪者だ。
実際には、逮捕されても起訴されないケースは半分前後ある。
俺も６回逮捕されたが、起訴されたのは３件だった。
警察検察とべったりの記者は、ちょうちん記事で、
“犯罪者、警察が摘発したり！！”と書くが、不起訴になると小さく”～で逮捕の男性、不起訴。理由は明らかにされていない。”と申し訳程度に書くだけ。
刑事司法の世界では、無罪判決は許されない。という雰囲気をメディアや世論も含め、皆で作ってしまっている。
その歪みは、大きく３つの場所で是正されるべき状態になっていると思う。
１，検察が限りなく黒に近いグレーを起訴して裁判にかけられない。
無罪判決はそれを起訴した検事、起訴を決裁した地検幹部、公判検事のキャリアの評判を傷つけ、人間関係をギクシャクさせる。だから検察官はクロだろ・・・と思っても、裁判で有罪を９９．９％取れないなら起訴しない。
逆にシロかもな・・・という迷いがあっても、証言で固めたり、被疑者に有力な前科があったり、黒い人間関係があれば、有罪を９９．９％取れるから起訴してしまう。
最近、再審が決定した福井の女子中学生殺害事件が後者のケースだ。
俺も不起訴になった事件のうち、１件は限りなくクロに近いグレーだった。
起訴されたら共犯者（少年なので裁判をせずに少年院へ行った。）も証言していただろうし、有罪だったと思う。
けど俺がケータイを人に貸してたとか、共犯者が提出したトーク歴を、このアカウントは何人もログインしてるから、俺じゃないとか言ってはぐらかしたから、99.9％の確証がなくて不起訴になった。
後日刑事は「これは絶対クロ。お前も分かってるだろ？（笑）検事はやる気がないから最初からそう言って欲しい。」と言った。
警察としては、公判維持が可能という前提で資料を作っていたそうだ。
こういうケースは留置場にいた１年４か月の”人質期間”で数えきれないほど見聞きした。
いつか「ルポ留置場」を書きます。
いくつか例をあげると、３０KgのMDMAを密輸したおじいちゃんは、金に目がくらんで外国語の裏サイトで密輸のキャッチを引き受けた。
中味は知らされてなかったが、薬か銃だと思っていたらしい。
けれど捜査では自分は何も知らないと言った。英語のメールには”荷物”を受け取ってほしいと。
荷物が何かしらのブツだと推測できる履歴があったが、国内においては単独犯で、他の証言もないため不起訴となった。
コカインの使用で逮捕されて、誰かが飲物に入れたと否認して不起訴になった人もいた。
一方、今回起訴された3件のうち１件で、俺は事件を認識せずに、知人から車を調達し貸した。
まあ何かしらの事情があるのだろうとは思ったが、事件を知ったのは実行が終わって、モノが運ばれてる段になってからだった。
しかし、自称共犯者（他の２件の実行役）が俺から誘われ、指示もされたと証言し、指示役がこの事件を俺と俺の地元の不良（暴力団関係者・調書では実名）が持ってきた、と証言した。
具体的に俺がその暴力団関係者と電話しているシーン、セリフまで創作して書いたので、起訴され有罪となった。
こちらのケースも似た様な話はたくさん見聞きした。
先ほどのおじいちゃんと同じ、密輸の事件。覚せい剤３０kgのキャッチで逮捕された人は、職場の後輩とのトーク履歴に「”シロ”やってる人いないの？」と残っていたのを「○○さんは覚せい剤のことをシロと呼んでいました。」と調書にされた。ちなみにトークは事件より半年前。
捜査側は彼を売人のように扱ったが、通常、この規模のキャッチは捨て駒で、売人が直接関わることが多いとまでは言えない。
しかし彼は起訴された。
１５年～２０年の懲役を受けているかもしれない。
またコカインの使用で逮捕され、「バイアグラに混ざっていた。」と一風変わった主張で否認したものの、起訴されたナイジェリア人もいた。
不起訴の前出の人物は前科のない学生だったが、彼は覚せい剤で服役したことがあった。
彼は部屋で祈り、神は何が真実Truthか知っている。それでいい。これは神が与えた試練で、自分の信仰心が薄れていたのを戒めているだけ。と同房の俺にもあくまでやっていないと言った。
検察が99.9％のプレッシャーで起訴すべき事件をかなり見逃しているのは、実は日本の司法で一番の闇ではないかと思っている。
逆に合理的な疑いがあっても、証言や手持ちの物証でいけると思ったら起訴し、有罪になってしまう。
これも問題だけと、こっちは検察よりも裁判所に大きな責任がある。
本来検察は、公益の代表として、黒に近いグレーは裁判にかけ、司法に判断させるのが役割だから。
２，裁判所が “進行” ”処理” のことばかり考える
かつて判事として数多くの無罪判決を出した人が、「１０％くらいは無罪がある。」と言った。俺はちょっと考えが違っていて、体感では”３％”だ。
この３％には否認事件の無罪だけではなく、被疑者が弁護人のすすめや、自らの判断で迎合して認めている事件の無罪も含む。
刑事事件のほとんどは被疑者も認めていて、１日２日の期日でベルトコンベア式に有罪が決まる。
これも含めて３％というには、かなり多い数字だと思っている。
ここに先述の”本来”起訴すべきグレー”を起訴して、立証に失敗するケースも含めたら、５～１０％に落ち着くんではないかと考える。
現状0.1％以下と北朝鮮・中国並みとなっているのは、裁判所の関心が裁判の進行と処理スピードだからだ。
彼らは99.9％神話を信じ、つまり検察を信じ、いかに早いペースで案件を処理するか考えているし、これが評価基準となって出世に影響する。（黒木亮「法服の王国」に詳しい）
彼らは月初の持ち事件数と月末を比べ、減っていたら”黒字”増えていたら”赤字”と言う。
高裁でひっくり返るのもまずいので、判決書ではいかに検察の主張から、後につつかれない形の法律構成で有罪をキレイに形づくるかを重視する。
俺の裁判員裁判での左陪席（左が若手で判決を書くことが多い）の質問は、どれも事件の本質ではなかった。
当時法律を司法試験のテキスト（伊藤塾 呉明植シリーズ）で猛勉強していた俺は、すぐ、あぁ、ここが法律構成的なポイントなんだと思って、少し意地悪に返した。
検事が事件を選別する事実上の一次審を担い、人出不足の裁判所が処理スピードで競う。
”無罪”はタブーで直接キャリアに関わる検察だけでなく、上級審でひっくり返される恐怖や世論に迎合したい判事までをも縛っている。
けれどもこの仕組みで、実は弁護士も助かっている。
３，否認しても弁護士に迎合を勧められる
一度起訴されてしまえば９９．９％有罪。このシステムでは、番越しは被告人ができるだけ早く社会にでられるよう、迎合を勧める。
否認すると、わざとかと思える程裁判が長くなる上、ほとんどの場合、保釈も認められない。
有罪が確定して実刑になると、それまでの収容期間の一部を未決拘留日数として刑期から差し引く。
この制度には大きな欠陥があり、まず裁判長の匙加減で０日にも９０％にもできる。
俺は若かったからか８割引いてくれたが、1年かかった否認裁判で4か月しか引いてくれなかったという人もいる。
さらに仮釈放の計算が”持ち込み”で行われる。持ち込みは未決拘留日数を引いた刑期で、俺の場合、懲役8年－未決拘留1年6か月（78か月）となる。
通常仮釈放の計算は％で行われ、良くて２５％（４分の１・4ピン）といわれる。
俺のケースで４ピンは一部施設を除いてあり得ないものの、試しに計算すると、８年の４分の１、２年ではなく、６年６か月の４分の１、１９か月半になる。
そもそも未決拘留日数で２割（４か月）損しているが、仮釈の計算でも最大４か月半損する。これが俗にいう人質司法の本質で、殺人などの否認事件では４年間”人質”というのも珍しくない。
未決拘留日数を4分の３もらっても１年は消えてしまう。
99.9％の呪縛が背景にある限り、弁護士は迎合するよう説得するという戦術を取らざるを得ない。さらに踏み込んで悲しいことを言うと、こうして早く裁判を終えることが、弁護士の利益にもつながる。
刑事事件で逮捕される人の多くが貧乏なので、国選弁護人を選任する。
国選弁護人はボランティアのような建前で、弁護士会・法テラスなどが関わり、「１件○○万円＋起訴までの接見回数×〇万円＋交通費などの実費＋起訴後の接見回数×〇万円」の経費が支給される。
起訴前と起訴後では額が大幅に下がるとも言われ、否認事件で公判の打ち合わせを何度もするより、逮捕拘留段階・起訴時点で説得し迎合して、早く裁判を終え、手持ちの案件を増やす方が”良い”というわけだ。
俺もこうして迎合した。
99.9％神話というのは刑事司法に関わる人達によって、日本の刑事司法にシステムとして内在させられてしまったものだと言える。
そしてそのことを疑わない一般の人や有罪や無罪で揺れて、後から名誉棄損で訴訟になるのが怖いマスコミの利害によって、”ニッポン”に土着してしまっている。
少し前、デンマークで日本の海上保安庁が指名手配している反捕鯨活動家が拘束された。
しかし本人や支援者が日本の刑事司法には人権や独立の概念がないとして、引き渡しに抵抗していて、デンマークの司法当局は今日に至るまで引き渡しをしていない。
そればかりか北欧やイギリス、西欧では日本の刑事司法が叩かれている。
カルロス・ゴーンの脱出劇にしても、これ以上日本の刑事司法に圧をかけられるくらいなら、いっそ逃げてもいいから解放しよ・・・という判断が働いた可能性は十分にあると思う。
少し話はそれるが、今、国際刑事裁判所という大機関のトップは日本の検事だが、彼女の”政治”を理解しない原理主義的な言動は、完全にアメリカ国家の逆鱗に触れている。
その姿勢は俺なんかからすると、ああ、日本の検察官の倫理だなあと思えてしまう。
今後こうした様々な”外圧”がかかれば、国際司法の分野で日本人の登用が減ったり、日本の外交が説く、”法の支配”が中国や北朝鮮の使うそれのようにとられたり、”人権”が鼻で笑われたりするかもしれない。
いや、既にそうなっているか・・・。
ようやくそのことを”なんとなく感じた”のだろう。
世界の流れには抗えない。
日本の刑事司法が少しずつ”まとも化”していると思える出来事が増えている。