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「守備の人」から「打の人」へ。打率飛躍のイーグルス辰己、昨シーズンまでとはここが違う!

「残念そこは辰己」というハッシュタグが、少し前からイーグルスファンの間で流行っているらしい。センターを守る辰己のところに打球が飛んだら最後、それはアウトになる。守備のうまい辰己をほめたたえた言葉だ。
それを企画にした球団が、辰己応援エリアを作り、「残そ辰」タオルまで作ったホットワードである。

元々守備に定評があった辰己は、2021年にゴールデングラブ賞を受賞し、名実ともに「守備の人」となった。

この「守備の人」という辰己につく枕詞、元々チームメイトの則本が発したものだが、実は半分皮肉でもある。
打撃はよくないけど守備はいい」という主旨なのだ。

それもそのはず、「トリプルスリーをとれる逸材」と複数球団競合の末獲得したドラフト1位のゴールデンルーキーは、入団以来打率が低迷している。

辰己入団以降打率(NPB公式記録より)

大学時代に築いた成績と、おそらくその自信からくるビッグマウス、そして生粋のコメディアン気質にすっかり魅了され、ドラフト指名直後から注目してきた私も、「守備の人」としての活躍は正直思ってたのと違う、という目で見ていた。

本人はどう思っているんだろう、と気になっていたが、彼がファンに見せる姿はいつも明るい。球団公式YouTubeではおどけたシーンを集めて「辰己劇場」と称されシリーズ化されるほどのムードメーカー。ヒーローインタビューでは相変わらず見る者を笑わせてくれる姿に、きっと気持ちを切り替えて、前向きに頑張っているのだろうと思っていた。

けれどそれは違った。彼は苦しんでいたのだ。

これまで表に出さなかった辰己の苦悩

それを知ったのは、地元のテレビ番組。『なおちゃんねる』という、渡辺直人コーチがイーグルスの選手と対談する企画に、辰己が登場した時、彼はこう言った。

「ドラフト1位で指名されたときがピーク」
「野球大好きなんですけど、嫌いになりそうな時期があった」
「野球ってこんなキツイんやって、仕事になった時に」

普段見せるおどけた表情からは想像できないような言葉の連続。

「野球バカ」と自称するほど野球好きの、辰己が。
野球を嫌いになりそうになった、という、衝撃。

それほどまでに悩み、苦しんでいたのか、と。

チームやファンが抱く、打撃への期待は、もちろん知っていただろう。
その期待に応えられない自分と、何よりも、自分が思っていたような結果が出せないことが、辛かったのだろうか。

驚いたが、そんな風に過去を振り返る辰己を見て、私は、逆に今季の辰己が楽しみになった。
なぜなら、そう語る辰己とそれを聞く直人コーチの間には、しっかりとした信頼関係が見えたからだ。

今シーズンの辰己は、一人じゃない。

大学時代に目を見張るほどの成績を残し、自信もあっただろう、今まで練習も自己流でやっていたそうだ。「自分で思う通りにやって、それでだめでクビになるならそれでいいと思っていた」と本人も言っていた。

それでも成績は伸びない。
そこに手を差し伸べたのが、直人コーチだったらしい。

二人でじっくり話す時間を取った後、春季キャンプから今に至るまで、試合後も欠かさずに二人で練習を行っているそうだ。
それが功を奏したのか、今季、5月の打率は.341をマークしチームトップ。

さらに、シーズンの通算打率もチームトップに躍り出た。(記事執筆現在)

2022年イーグルス打率順位(規定打席以上・6/17現在・球団公式HPより)

まだシーズンは半分以上残っている。
これからこの好調を維持できるのか、辰己の正念場になる。
去年だって、オープン戦からシーズン序盤は、とてもよかったのだ。
開幕スタメンで一番に抜擢。第一打席、初球をたたき、2021シーズンNPB第一号ホームランを飾ったほどだ。

でもそこからが続かなかった。
今シーズンも、5月だけの「時の人」で終わってほしくない。
誰よりも本人がそう思っているだろう。

いや、きっと今年の辰己なら大丈夫だ。
今年の辰己には、困った時に頼れる人がいる。

今まで自己流で頑張って結果が出ていた自信やプライドもあっただろう。だからプロに入ってもそれを貫こうとしたのかもしれない。
だが、そうやってがむしゃらにやってきても、結果が出ないこともある。

そんな時は、誰かに助けを求めればいいんだ。

それを覚えた今季の辰己は、強い。

件の対談で、直人コーチとの信頼関係が垣間見える瞬間があった。
今年の目標を聞かれたとき。
「出塁率3割5分」と答えた辰己はその後、「低いすか?」と直人コーチに聞いていた。
「大丈夫?」と確認する辰己の顔に一瞬不安が見え、「大丈夫」という直人コーチの言葉を聞くとそれは安堵の色に変わった。

それほど直人コーチを信頼しているのだと思った。プロの厳しい環境に揉まれて、一時自信をなくしたかもしれないが、今また、直人コーチの手を借りて、はいあがろうとしている。
自信に満ち溢れていたときとはまた、違った輝きがあった。

だからきっと大丈夫だ。
守備機会では「残念そこは辰己」
打順が回れば「残念次は辰己」
そう言われる存在になる日は、近い。




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