悩みを抱えている人は謎の二択を作り出す
Twitterで使える「質問箱」というサービスがある。
質問箱を設置している人に匿名で質問できて、質問された人はそれに答えることができる。その質問と回答は、第三者もTwitterで見られる。
ある有名ツイッタラーさんは、質問箱に寄せられた人生相談によく回答している。
以前、「受験が辛い」という女子高生からの相談があった。受験のプレッシャーに押しつぶされそうで、もう学校に行くのもしんどい、という内容だった。
そこに「このまま頑張るか死ぬしかない」といった一文があった。
……。
なぜ「頑張る」と「死ぬ」の二択なんだろう?
相談された方も指摘していたが、「頑張る」と「死ぬ」しか選択肢がないなんてことはない。
だけど、思いつめている人は視野が狭くなっているので、謎の二択を作りがちだ。
この相談者以外にも、そういう人をよく見る。
◇◇◇
謎の二択に捉われて、他の選択肢を見つけられないときは、対義語を意識するといい。
「頑張る」の対義語は「頑張らない」
「死ぬ」の対義語は「生きる」
これらをベクトルの両端に置いてみる。
すると、4つの選択肢ができる。
A 頑張る・生きる
B 頑張る・死ぬ
C 頑張らない・生きる
D 頑張らない・死ぬ
BとDは成立しない。死んだら「頑張る」も「頑張らない」もないからだ。なので、ひとつにまとめて「死ぬ」という新たな選択肢を作る。
すると、こうなる。
A 頑張る・生きる
C 頑張らない・生きる
E 死ぬ
先の高校生にはAとEしか選択肢がなかった。
だけど、実際にはCの「頑張らない・生きる」という選択肢もあるのだ。
では、具体的にどのような「頑張らない」があるだろうか?
先の高校生の例でいえば、
・受験をやめる
・志望校のランクを落とす
・受験はするけど、「浪人しても死にはしない」と思ってみる
などが挙げられる。
固定観念に捉われなければ、もっと多くの選択肢を挙げることができるはずだ。
こういうことを言うと必ず「でも、受験をやめたら将来が……」などと言い出す人がいるだろう。
だけど、死ぬよりはいいんじゃないだろうか。
それに、現時点での彼女の問題は「何を選択するか」じゃない。「本来あるはずの選択肢が見えていない」ことが問題なのだ。
選択によるメリット・デメリットを考えるより先に、まずはすべての選択肢を洗い出してみる。実現可能かどうかなんて度外視して、とりあえず思いつくままに羅列してみるのだ。
選択肢は、2つしかないよりは、10個あるほうが安心できる。多ければ多いほど、将来を悲観せずに済むのだ。
◇◇◇
今年の2月頃からメンタルの調子を崩し、3月には料理ができなくなった。
「気持ちが落ち込んで……」とか「料理する気力がない」ということではない。もっと、物理的に困難になった。
冷蔵庫を開ける。中にある食材を見る。冷蔵庫を閉めた瞬間、もう中にあった食材がわからない。
「忘れる」のとは少し違う。そもそも、記憶されていない。目では見ているのに、情報が脳に届かないのだ。
私は馬鹿になってしまった……と落ち込んだ。
そんなとき、東大卒でうつ病になった人のコラムを読み、「うつになるとIQが下がる」ことを知った。
合点がいった。東大卒の人ですら、うつのときは通常時よりもIQが低くなり、仕事に支障をきたすという。もともとIQの低い私が馬鹿になってしまうのは当然だろう。
うつのときは、馬鹿になる。
「馬鹿な人がうつになる」わけじゃない。どんな人でも(それこそ東大卒でも!)、うつ状態のときは思考力・判断力が低下するのだ。
これは「精神的に弱っている人」にも言えることじゃないだろうか。
先の受験に悩む高校生は、「病気」ではないのかもしれない。だけど、精神的に弱っていることはあきらかだ。
辛辣な表現になってしまうが、彼女は受験のプレッシャーにより、普段よりも少しだけ馬鹿になっているのではないだろうか?
彼女も、心が健康なときであれば、「頑張る」「死ぬ」以外の選択肢に思い至ることができるのかもしれない。
だけど、心が弱ると謎の二択に捉われてしまうのだ。
◇◇◇
「○○か死ぬかの二択」になっている人は、それだけ追い詰められている。
まずは「今の自分は、普段の自分よりも馬鹿になっているのかもしれない」と自覚して、ゆっくり休んだらどうだろう。
ゆっくり休んだら、マジックで十字を書く。
ベクトルの両端に対義語を書き入れれば、見えなかった選択肢が見えてくるはずだ。