cakesコンテスト授賞式で得たこと
ありがたいことに「第二回cakesクリエイターコンテスト」に入選し、6月30日のcakes note フェス内で行われた授賞式を見てきた。
この記事には書かなかったけど、選考基準についてのお話がとても興味深かったので、あらためて詳しく書こうと思う。
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cakes編集部の4名(今回のコンテストの審査員)が登壇する。
まずは、【note賞】。プロジェクターに入選作品のタイトルと作者名が映し出される。
■新宿純喫茶/ミヤギトオルさん
■写真をもっと身近に感じて欲しい。iPhoneで写真を撮るのが楽しくなるnote./takumi YANOさん
■おもち日和.180502/吉本ユータヌキさん
■きつねとたぬきといいなずけ#21/トキワセイイチさん
■39歳父の竹修行奮闘記 第六回「0.01mmの世界で竹を剥げ」/竹遊亭田楽さん
■4/30 週刊まえだー/週刊まえだーさん
壇上の4名の方が「この作品のここが良かった」という選評をする。
すべての作品にコメントしていくわけではなく、いくつかピックアップして解説していた。
特に話題になっていたのは「週間まえだー」さん。
これは、作品というよりは、やっていることそのものが受けていた。
ごく普通の一般人・まえださんの日常を追う架空の雑誌「週刊まえだー」の表紙だけが淡々と更新されているのだ。
しかも、2016年10月から毎週更新されているのに、cakes note フェスの時点ではフォロワーが10人くらいしかいなかった(今見たら50人くらいになっていたが)。
どういうモチベーションだよ……。
審査員の選評は、「突き抜けた狂気」「これを我々にどうしろと……」「もしかしたらフォロワーが少ないことも魅力のひとつかもしれない」「当たり前みたいに何の説明もなくやってるけど、そもそもまえださんって誰だ」など。
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次は【佳作】。
■#9 にーに先生 「今やれ。今。」/夏目にーにさん
■つま先立ちのサンちゃん/たなか れもんさん
■近未来立ち飲み屋まんが 陋巷酒家(うらまちさかば) その1/丸岡九蔵さん
■オナニーしてたらオカズのペットになっちゃった(ネーム)/油 虫太郎さん
■noteを始めた理由。/switch 山田スイッチさん
■イラストレーターだけど農業始めてみた 第1話「ハロー米フレンド」/パウロタスクさん
■突然の妊娠報告はカマキリが解決する/本人さん
■スペイン巡礼800キロの旅~ロンセスバジェスからララソアナへ〜/中島悠里さん
■スタバの男女とサラリーマン(コンテスト用再投稿)/山里 將樹さん
■彼氏の秘密/波丘煌生さん
■《飛行機のトイレ完全攻略ガイド》機内ラバトリーの使い方解説します。/suzukyuinさん
■文明と地図を考える その2/mokosamurai / もこ侍さん
■やらなくていい家事だなんて、知らなかった。/机上の空論城さん
■クソジジイダイエット:21日目。/ワタナベアニさん
個人的に好きな作品がたくさんあったのだけど、この場では「縄文人と弥生人のBLを書きたい」と綴った山田スイッチさんが話題をかっさらっていた。
「縄文人の俺が弥生人のアイツに土器土器するなんて……!」というパワーワードが映し出され、なぜか音読までされる。
この作品の中で、山田さんは
「自宅庭に竪穴式住居を建設した」
「巨大ストーンサークルを造った」
「土偶のゆるキャラとして活動」
といった経歴を書かれている。
存在そのものが圧倒的なオリジナリティ。
ご本人の個性が作品に強く反映されているので、仮に誰かがうわべだけ真似したら絶対にすべるだろう。
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【入選】はひとつずつ発表されたけど、ここではまとめて紹介する。
■鬼の子 #01 /ながしまひろみさん
■ノリでお薬を食べさす/キリ@イラストレーターさん
■【1】青森のいなかのばあちゃんがただ死ぬだけの漫画/あべ ぴより(漫画)さん
■写真展が終わって。/幡野広志さん
■これが遺品になるなんて/嘉島唯さん
■オザケンとバニラティー~小屋ガール通信/吉玉サキ
ながしまひろみさん、キリ@イラストレーターさん、あべ ぴより(漫画)さんの作品が漫画。幡野広志さん、嘉島唯さん、私の作品がエッセイだ。
審査基準について、まず「読者を意識して書かれていること」が挙げられていた。
これは、コンテストの応募要項によくある「日本語で書かれたもの」「○○字以内」「未発表作品に限る」などと同じくらいの大前提だと思う。
それを聞いて、ある友人に言われたことを思い出した。
高校生のとき、私は小説を書いていて、それを出会ったばかりのある友人に読ませた。そのとき彼は、
「お前の文章には場所があるよ。少なくともサキともうひとり、読んでる人が座れるくらいは」
と言った。
「お前は『私のことわかって』『私のこと好きになって』って気持ちが強い人間だから。正直、お前の文章なんて押し付けがましくて読めたもんじゃないと思ってたよ。意外と、読む人間のこと考えてるんだな」
ずいぶん辛辣な物言いだけど、その通りだ。
私はそれから、文章を書くときは「読む人が座る場所」を意識するようになった。
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あとは、審査基準として以下のことを挙げていた。
①特殊な環境に身をおいていること
②圧倒的な文章力
③お役立ち情報
④突き抜けた狂気
これは、「①~④をすべて兼ね備えろ」という意味ではない。
「①~④のいずれかがある作品」という意味だろう。
本屋さんのエッセイ(エッセイ漫画含む)コーナーに行けば、どの本もこの①~④に該当する。
私の応募作は「元山小屋スタッフが描く山の日常」なので①特殊な環境に身をおいていることに該当する。
「特殊な環境」というとなんだかすごいことに感じるけど、たぶん、「ちょっと変わった体験」「ちょっと変わった性質」でもいけると思う。
海外に住んでいるとか、高学歴とか、すごい貧乏体験があるとか、絶対数の少ない職業とか、特定ジャンルのオタクとか。雨トークの「○○芸人」のくくりみたいなイメージ。
私の場合は「山小屋」というネタがなければ賞はもらえなかっただろう。あと私は「年の差夫婦」「バックパッカー旅」「うつ病」「不登校」「夫が無職」といったカードもある(最後のカードは早くなくなることを祈っている)。
もし私が「恋愛」「友情」といった普遍的なネタで書いたら、落選していたと思う。
じゃあ普遍的なネタはダメなのかというと、そんなことはない。
②圧倒的な文章力があれば、普遍的なテーマで書いていても充分に読み応えのある作品になる。
嘉島唯さんはこちらに該当するだろう。幡野広志さんは①と②を兼ね備えていると思う。
④突き抜けた狂気は、週間まえだーさんや山田スイッチさんがこれに当たる。
だけど、これは狙ってやるとすべると思う。
すでに「どうしても広めたい、大好きすぎるものがある」「何のメリットもないのに淡々と続けていることがある」「狙ってないのに変わってると言われる」といった人なら、いいかもしれない。
でも、突き抜けてる人って自覚がないから、自覚した時点でちょっと熱量が下がる気がする。
その点、計算してやるなら③お役立ち情報だろう。
何らかの実践的なノウハウを持っている人は強いと思う。
私はノウハウをほぼ持っていないので「意外と知られていない、山小屋に持っていくと便利なグッズ」「山ガールにうざがられずに連絡先を聞く方法」くらいしか書けない。とてもじゃないけど連載途中でネタが尽きる。
あと、ノウハウって意外とかぶる。
実践的なノウハウを持たない人が有益っぽいことを言おうとすると、だいたいインフルエンサーがすでに同じことを言っている。意図的にパクっていなくても、読者が「○○さんのパクリだ」と騒ぐ可能性は高いだろう。
料理人が料理について書くとか、そのくらい深い引き出しを持っていないと連載が続かないと思う。
◇◇◇
もうすぐ連載が始まる。
締め切り、スランプ、ネタ切れ……と怖いことばかりだけど、読者が楽しんでくれる文章を書きたい。
せっかくいただいたチャンスなので頑張ります。