他人をジャッジしたくない

昨日、こんなツイートをした。


栗城さんとは、先日エベレストで亡くなった登山家の栗城史数さんのことだ。

私は、栗城さんのことをあまり存じ上げない。登山は好きだけど、登山家には疎いのだ。

だけど、もし私が栗城さんのことをよく知っていたとしても、「否定」や「肯定」という言葉は使わないだろうな、と思う。

私は、他人に対して否定も肯定もしたくない。

他人を否定するのはおこがましい。だけど、他人を肯定するという概念も、ややおこがましくはないか。

私は、他人に対して

「俺は認めないけどね」

あるいは

「俺は認めてるよ」

といった言い回しをする人を見ると、ちょっと笑ってしまう。

え、何様ですか?

否定とか肯定とか「できる」立場なんですねぇ。ははぁ、お偉いんですねぇ。ひょっとして神様ですか?

神様でもあるまいし、自分以外の人間を否定や肯定できる権利を、私は有していない。

もちろん、他人に対して「好き」や「嫌い」を感じることはある。

けれど、善悪や正誤、優劣といった価値基準で他人をジャッジすることを、私は良しとしない。

それは、私の矜持だ。

◇◇◇

否定か肯定ではなく、単純に「好き?」と聞いてくれれば、引っかからないのに。

「栗城さんのこと好き?」と聞かれれば、

「好きとも嫌いとも思ったことない。あまり知らないから。でも、映像とか見たらファンになる可能性はある」

と、ありのままを答えられる。

「好きか嫌いか」は私の個人的な感情であり、栗城さんの価値をジャッジすることにはならないからだ。

私は、自分を主語に置いた言葉だけを語りたい。

「私は○○が好き」と「○○は正しい」はイコールではない。

同様に「私は△△が嫌い」と「△△は悪いものである」もイコールではないのだ。

◇◇◇

もちろん、質問者の意図は理解している。

私は10年間を山小屋で過ごし、山岳事故というものが身近にあった。山岳事故で知人を2人亡くしているし、遭難者と接したこともある。遭対協(遭難対策協議会)の友達から話を聞くこともある。

だからこそ、「登山業界の人間から見て、栗城史多の実力(あるいは評判)ってどうなの?」「やっぱり無謀だったの?」と聞きたいのだろう。

それはわかる。わかるけど、やっぱり私は

「その場にいたわけでもないのに、他人の登山(あるいは人生)にわかったようなことを言いたくない」

と思う。

私が山岳事故について思うこと(啓発や問題提起)と、栗城さんの山行を絡めて論じたくないのだ。

◇◇◇

以前、とある飲み会の席で、50代の永瀬さん(仮名)が

「俺はLGBTなんて認めないけどね」

と言った。

私は、ちょっと笑ってしまった。

他人を否定(あるいは肯定)する行為のおこがましさに気づいていない鈍感さが、滑稽に見えたのだ。

私は、LGBTに該当する友人たちの顔を一人ずつ思い浮かべた。

Tさん。A美。Rちゃん。F君。S君。Kスケ。

どの人も、永瀬さんに認められなくても

「え、別にいいですけど……w」

って苦笑いするだろうなぁ。

どの人も、見ず知らずのおじさんに否定されたところで、痛くも痒くもないだろう。

私だってそうだ。私はうつ病だが、もし永瀬さんに

「俺はうつ病なんて認めないけどね」

と言われたとしても、

「さすが、永瀬さんともなると、人間を認めたり認めなかったりしちゃうんですねぇw よっ、神様!」

と思うだろう。

そういうことってないだろうか?

一見、当事者が「それは差別だ!」と憤りそうな場面でも、怒りよりも「偉そうなこと言っちゃってる人」の滑稽さ(あるいはドヤ顔)に笑ってしまうのだ。

そして、私自身が永瀬さんを「低く見ている」ことに気づく。

私が「もし永瀬さんに認められなくても、痛くも痒くもない」と思うのは、「永瀬さんごときに認められなくても」というニュアンスを含んでいる。

「他人をジャッジしない」を矜持としている私だって、永瀬さんをジャッジしているではないか。

◇◇◇

他人をジャッジするという行為を自分に許すと、「他人からジャッジされる」ことも受容しなければいけなくなる。

多くの人は、他人から「あんたの生き方を認めない」などと言われれば、反発するだろう。

「口出しするな!」
「あなたに言われる筋合いはない」
「あなたに認められなくて結構。それを決めるのは私です」

と、激しく、あるいは静かに、怒るだろう。

だけど、「他人からジャッジされたくない」という人も、日常の中でナチュラルに誰かをジャッジしている。私だってそうだ。

他人をジャッジしてしまったとき。

すぐさまそのことに気づいて自戒できる瞬発力を持っていたい。

いいなと思ったら応援しよう!

吉玉サキ
サポートしていただけるとめちゃくちゃ嬉しいです。いただいたお金は生活費の口座に入れます(夢のないこと言ってすみません)。家計に余裕があるときは困ってる人にまわします。サポートじゃなくても、フォローやシェアもめちゃくちゃ嬉しいです。