cakesの連載が書籍化されること(無職だった1年前から今日までのこと)
※この記事は2019年に書いたものです。
タイトルの通りだけど、cakesで連載している『小屋ガール通信』が書籍化される。
タイトルは『山小屋ガールの癒されない日々』。平凡社より、6/19発売だ。
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イラストは高橋由季さん、書籍デザインはアルビレオさんに担当していただいた。書影がすごく素敵で気に入っている。
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ところで、1年前以上前から私のnoteを読んでくれている方はご存知だろうけど、1年前の今頃、私はライター志望の無職だった。
それからどんな経緯で出版に至ったのか。
それを書いたら、ちょっと長くなってしまった。参考になるとは思わないけど、cakesで連載したい、書籍を出版したいと思っている人に、私の場合の話を伝えられたら幸いです。
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ちょうど1年前の今頃、cakesクリエイターコンテストの応募作として『小屋ガール通信』を書いていた。
創作のモチベーションは単純に「山小屋ってこんなところなんだよ!」と多くの人に伝えたい、ただそれだけだった。
思い描いていたのは『動物のお医者さん』の山小屋版。山小屋を舞台にした、1話完結のコメディだ。
『小屋ガール通信』はコンテストに入選し、7月からcakesで連載させてもらうことになった(ちなみにライターデビューは6月に別の媒体でしていた)。
cakesは、週間連載、隔週連載、不定期連載が選べる。私は週間を選んだ。
担当編集のイザワさんと打ち合わせをし、ネタを出して、第10話くらいまでのネタを決めた。そして、3話分の原稿を用意してから連載を開始した。
第一話はスマニュー配信もあり、たくさん読まれた。後輩にペンネームがバレる、というアクシデントもあった。
しかし、わりと早い段階で壁にぶち当たった。「山小屋ってこんなところなんだよ!」だけではPVが取れなかったのだ。
歩荷とかヘリとか、そういう「山小屋感」の強い記事はあまり読まれない。
当初は、「山の仕事や暮らし系(山小屋感高め)」と「人間関係や生き方(山小屋感低め)」を半々くらいでやるつもりでいた。
けれどだんだん、山小屋感低めのネタが中心になっていった。そっちのほうが断然読まれるからだ。それはそれで私の書きたいことだし、書いていて楽しい。
また、連載当初はコメディ色が強かったけど、だんだんと主義主張を盛り込んだコラム風のものが多くなっていった。他の媒体でも書かせてもらう機会が増えたことで、私が「読者にとって有益なこと書かなきゃ病」に罹患したのだ。
そんなふうに変化しながらも、楽しく連載を進めていた。
よく「週間連載って大変でしょ?」と言われるけど、私は他の仕事がほとんどない状態でのスタートだったので、〆切が大変だとは感じなかった。
ただ、どうにも書けなかったり、ネタが思いつかなくて困ることはたびたびある。編集のイザワさんの助言により、なんとか毎週書くことができている。
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連載開始から5ヶ月が経った12月。
イザワさんが「まだ本決まりではないんですけど、平凡社さんから書籍化の打診が来てます」と教えてくれた。
平凡社は山に関する書籍を多く出している出版社だ。
私は、平凡社から出ている鈴木みきさんの『私の場合は、山でした! 女一匹フリーター、じたばた成長物語』にめちゃくちゃ背中を押された過去があるので、勝手に運命を感じた。
その後、イザワさんと平凡社の編集さんとで打ち合わせをした。
平凡社の編集さんは登山をする人で、前から『小屋ガール通信』を読んでくれていたと言う。
これは謙遜ではなく本当にそう思うのだけど、私は「山小屋」というフックがなければ、cakesコンテストも取れなかったし出版もできなかったと思う。文章表現や感性で評価される書き手もいるけど、私はそうじゃないので、「これについてなら書ける」というジャンルがあってよかった。
打ち合わせのとき、本のコンセプトを提案された。
「登山者をターゲットに、本屋さんの登山コーナーに置かれる本にしたい」とのこと。現状のcakes連載より、山小屋の仕事や暮らしを深く掘り下げる内容だ。
心の中にちらりと、「それだと、私のnote読者さんで登山しない人は読んでくれないかもな」という気持ちがよぎった。
だけど、web記事ではなく書籍として出すことの甲斐について考えたとき、山の暮らしや仕事に焦点を当てる方向性は正しいと思った。
ライフスタイルについて書いた本はたくさんある。だけど、山小屋について思いきり深掘りした内容のエッセイは、とても少ない。
それなら、世の中に出回っている数が少ないものを書いたほうが、それを求めている人のためになる。
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年が明けて、今年の1月下旬。平凡社さんから、「会議の結果、正式に出版が決まりました」と連絡が来た。
この時点で、cakesに掲載した『小屋ガール通信』の原稿は26話分。そのうち5話は、書籍には収録しないことになった。
これだけでは本1冊には足りない。つまり、残りの原稿はこれから書くのだ。
発売日はもう決まっていて、そこから逆算したスケジュールによると、あと1ヵ月半で10記事ほど書かなければいけない。これは、書くのが遅い私にはけっこう大変なことだった。
これから書く原稿(書籍に入れる原稿)の内容を話し合う。今まではイザワさんと相談して決めていたけど、書籍に入れる原稿なので、平凡社の編集さんも交えて打ち合わせした。
その結果、クマ、台風、山ファッション、お酒事情……などのテーマで書くことが決まった。
いずれも、今まで避けていた「山の仕事や暮らし系(山小屋感高め)」の記事だ。
これらはcakesに掲載したけど、案の定PVは低かった。だけど、久しぶりにディープな山小屋の話を書けて、すごく楽しかった。
また、最初から書籍にだけ入れるつもりで書いた原稿も2本ある。これはもう、cakesではボツになるレベルで「山小屋感満載!」な内容にした。
結局のところ、私は文章表現フェチだから、自分にとって不本意な内容じゃない限りは、どんな切り口でも書いていて楽しいのだ。
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3月の上旬にすべての原稿が出揃った。何度も推敲し、書籍の編集さんに赤を入れてもらって修正した。
4月になると、初稿のゲラ(紙に印刷されたもの)をいただいた。校正さんが、言葉の誤用や表記揺れに細かく赤を入れてくれている。プロの仕事ぶりに脱帽した。
私もゲラを読んで赤入れする。何度も推敲している原稿なのに、紙に縦書きで印字されたものを見ると、すごく違和感がある。改行と読点が多すぎるし、一文が短すぎるのだ。
ちなみに、私が「持ち運べるサイズのノートパソコンを持っていない」と書いていながら日記に「カフェで仕事した」と書いているのは、紙と赤ペンで仕事していたから。
初稿のゲラに赤を入れて提出。しばらくすると再校のゲラが来て、それも直したいところがたくさんあった。
この期に及んで、まだこんなにも直すところがあるのか……!
なんとか赤入れを終えて、書籍にまつわる私の仕事は終了した。つい1週間前のことだ。
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この本を作るにあたって、私はものすごく自分の意見を言った。
たとえば表紙のイラスト。最初は女の子が笑顔だったのだけど、図々しくも、「ちょっと戸惑ってる顔」に変えていただいた(わがままを聞き入れてくださった高橋さん、ありがとうございます)。
「新人のくせにこんなに自分の意見を言うなんて、私って生意気だなぁ」と自分で引いた。だけど、「こうしたい!」と思ったことは、言わずにはいられなかった。
編集さんは、私の意見をかなり聞き入れてくれた。きっと、私の我の強さに圧倒されて、言いたいことを飲み込んだ場面もあったのではないだろうか。
おかげで、これ以上なく満足のいく本が出来上がった。
私は、「山が好きな人向けの本」だと思う。
けれど、すでにゲラを読んでくれた関係者の方々に、「これは登山をやらない人でも楽しめる本です!」と言っていただけた。
きっとそうなのだろう。私は、自分のことはあまり信用していないけど、この本に携わってくれた皆さんのことは信用している。
本を作ってみての感想は、よくある言葉だけど、「自分だけのものじゃないんだな」と思った。書籍は携わる人が多い。書籍の編集さん、cakesの担当さん、イラストレーターさん、デザイナーさん、校正さん、営業部の方々、PR会社の方……。
本作りをしていた5ヶ月間ずっと、「売れなかったら私の責任だ」とプレッシャーに押しつぶされそうだった。
……と過去形で書いたけど、何も過去になっちゃいない。なんせ、発売は1ヶ月近く先のことだ。
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本を作っている最中は、自分の責任とこだわりで頭がいっぱいだった。
けれど、本作りがひと段落した今、少し心境が変わった。
本は作り手側のものではなく、読者のものだ。
幼い頃から、私は何度も本に救われてきた。学校でうまくいかないときも、会社をズル休みしてしまった日も、山小屋でクタクタになっている夜も、いつだって本を読んでいるときだけは現実から離れられた。
それは、それらの本の著者ではなく、「私の」体験だ。大切な、私だけの。
『山小屋ガールの癒されない日々』も、誰かにとってそんな「体験」になるかもしれない。私の知らないところで。
そんなことがあったら、私はたまらなく嬉しくて、急にすべてが報われたような気がして、正気を保てなくなるかもしれない。
それはきっと、私がずっと望んできたことだ。
こんな長い記事、読んでくれてありがとうございます。