4年間「いつか書く」と言って書かなかったものを書いた。
ありがたいことに、第二回cakesクリエイターコンテストに入賞した。
私は、山小屋で働いた経験を書いたエッセイ・小屋ガール通信を14話応募していた。
このコンテストは、入賞すればwebメディア・cakesで連載ができる。
担当の編集者さんと話し合った結果、応募作と同じ「小屋ガール通信」を連載することになった。現在、連載に向けて原稿を書き進めている。応募作も加筆修正して掲載していくらしい。
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たびたび書いているけど、私は23歳~33歳まで山小屋従業員だった(途中2年間抜けている)。
で、これもたびたび書いているけど、私は25歳頃まで作家を目指して新人賞への投稿を続けていたけど、結果は良くて二次選考止まり。夢破れ、結婚後は夫と長旅に出た。
帰国後、30代になった私は古巣の山小屋に戻った。その頃から、一度諦めたはずの夢への未練をガンガン意識してしまうようになった。
山小屋で、キャベツを千切りにしたり、客室の掃除をしたり、布団を干したりしながら、「文章書きてー。そんで、それを仕事にしてー」と思っていた。
「小屋ガール通信」の構想を思いついたのはそんなとき。2014年のことだ。
いつか、山小屋の仕事や日常、恋愛、人間模様などを書きたい。できれば、連載したい。タイトルは「小屋ガール通信」がいいな。挿絵は夫に描いてもらって……と妄想していた。
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当時の私は、「小屋ガール通信」の原稿を書いて、山雑誌に持込みするつもりでいた(持込みの概念は「バクマン。」や「重版出来!」で知った)。
しかし。
「いつか書く」と言いつつ、日々の忙しさにかまけてまったく書かなかった。
そのうちに、山小屋では人事異動で責任あるポジションになり、忙しくなってしまった。
また、下界(山以外)にいるときも、たまたま本を出せることになったり(本名で出したもののまったく売れなかった)、ライターを目指して文字単価0.5円の無記名記事を書いたりと、目の前のことに忙しい。我が家は夫もフリーターなので生活費を稼ぐのにいっぱいいっぱいで、持込原稿を書いている場合ではなかった。
……というのはただの言い訳だ。その状況でも、やっている人はやっている。
そんな自己嫌悪に陥り、気づけば2018年。「小屋ガール通信」の構想を思いついてから4年が経っているのに、まだ一行も書いていない。
そんなとき、cakesクリエイターコンテストを知り、見た瞬間に応募することを決めた。
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4年前に考えていたとおり、タイトルは「小屋ガール通信」。挿絵は、イラストレーターを目指す夫に描いてもらった。
ちなみに、夫のアカウントはこちらです。
実際に「小屋ガール通信」を書いてみると、めちゃくちゃ楽しかった。
山小屋で出会ったみんなの生き方、悩み、幸せ、選択。山小屋での日々。思い出しながら書いていると、うっかり山に帰りたくなった(私は今年から山小屋を辞めた)。
書いている途中、なぜかやたらと山小屋のスタッフ仲間からLINEが来た。
今年も山小屋にいる人。山小屋をやめて、新しい土地で新しい仕事に挑戦している人。
フィリピンでマラリアにかかったとか、一流企業に就職したものの僻地に飛ばされたとか、県警に合格したとか、休暇で○○岳に行ったとか、山小屋で出会ったスタッフ同士で入籍したとか。
みんなから送られてくる近況を見て、何度か泣いた。どの人生も、ばかみたいに愛しい。
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noteに小屋ガール通信を投稿した。
すると、登山をする人から
「そうそう、こういう山マウンティングしてくる人いるよね~」
「ヘリってこんなに手間かかるんだ。そりゃあ山小屋の売店のものは高くなるはずだよなぁ」
といったコメントをもらえるようになった。
また、スタッフ間の恋愛の話、将来への不安の話などは、山小屋に興味のない人も共感してくれた。
山が好きな方に読んでもらえるのも、もちろん嬉しい。だけど、「山に興味のない人」にも、読んでほしい。
獣医学部のことを何も知らない私が「動物のお医者さん」にハマったように、山に興味のない人が読んでも楽しめるものを書きたい。
そして、小屋ガール通信をきっかけに、登山や山小屋に興味を持ってもらえたらいいな。そういう気持ちで書いていた。
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cakesコンテストの授賞式で、「山小屋という特異な体験を買われての入賞」だということがわかった。
実は、応募するときに
「山小屋の話なんてニッチすぎて需要ないかも……」「恋愛とか生きづらさとか、もっと多くの人が共感するテーマのほうがいいかな」
と不安になることもあったので、安堵した。
これは、媒体がcakesだったから、というのも大きいと思う。媒体によっては、やっぱり「山小屋というテーマは共感度が低くて数字が取れないからダメ」とか、思われたかもしれない(他の媒体をあまり知らないので想像だが)。
また、選評で「星を見に行ったときに飲んだお茶からバニラの香りがしたとか、そういう匂い立つような描写が良かった」と言っていただけたのも嬉しかった。
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「いつか書く」と言って書かなかった4年間のことを、実は結果オーライだと思っている。2018年だからこそ書けた話もあるからだ。
たとえば、この話は昨年あったエピソードなので、4年前には書けなかった。
やらなかった怠慢について「今はそのときじゃないから」などと言い訳するのはかっこ悪い。
だけど、結果的に「このタイミングで良かったこと」はあるんだろうな、と思う。