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最新刊「時空改変戦艦〈大和〉」プロローグ公開
2024年12月18日に最新刊が電波社さまより発売予定です。
上下巻同時発売です。
上巻のプロローグを先行公開します。お楽しみいただければ幸いです。
時空改変戦艦「大和」【上】イージス艦出撃! 米艦隊撃破
時空改変戦艦「大和」【下】四六センチ砲撃! 中共海軍壊滅
ヴィクトリーノベルズ 価格(税込み)各1,100円
電波社公式webにての紹介記事
時空改変戦艦〈大和〉
吉田 親司
目次
上巻 イージス艦出撃! 米艦隊撃破
プロローグ 時空破壊
第一章 消失点の虎狼
第二章 時間犯罪者の饗宴
第三章 チャイナ・シンドローム
第四章 日米空母の受難
第五章 バトル・オブ・ジャパン
エピローグ 時空監察軍
下巻 四六センチ砲撃! 中共海軍壊滅
プロローグ 航空母艦という呪縛
第一章 トラック沖大海戦
第二章 チャイナ・クライシス
第三章 バイバイ・アメリカ
第四章 大和の挽歌
エピローグ 永遠の終わり、無限の始まり
プロローグ 時空破壊
1 群島消滅
――昭和一八年一二月七日
中部太平洋に浮かぶ島嶼の周囲は、観測者の視線を釘付けにする鮮やかなビリジアン・ブルーで染め抜かれていた。
華麗かつ流麗な自然美の極致である。およそ戦乱とは無縁に思える安寧の地だ。
だが、人類という種は地球全土を戦場にせんと望む生命体である。彼らの野心は無尽蔵であり、一切の例外はない。この島々もまた戦火に見舞われる瞬間が刻一刻と近づいていた。
トラック諸島――直径約六五キロという世界屈指の環礁に浮かぶ島嶼である。
合衆国から〝太平洋のジブラルタル〟という異名を奉られた点からもわかるように、そこには帝国海軍の軍艦たちが犇めいていた。
時に昭和一八年一二月七日。真珠湾攻撃から二年が経過しようとしていた日の午前八時――この群島は未曾有の怪奇現象に天変地異に見舞われたのである……。
*
連合艦隊司令長官の古賀峰一大将は一五メートル内火艇――通称〝長官艇〟と呼ばれる小型船に乗り、夏島錨地に停泊中の艨艟へ向かっていた。
遠近感を違わせる巨艦が眼前へと迫ってくる。言わずと知れた〈大和〉である。圧倒的なまでの存在感は、見る者に不沈艦の印象を与えずにはおられまい。
しかしながら古賀の心は晴れなかった。旗艦に定めた〈武蔵〉と同型艦であり新鮮味に薄かったというハンデはあったが、それにも増して彼の心を鈍らせていたのは、戦艦という愛すべき眷属の終焉に立ち会っているという絶望感であった。
前任者たる故山本五十六元帥が布哇攻撃で実証したように、戦争の趨勢は大艦巨砲から航空機万能の時代へと移行しつつあったのだ。
砲術の大家の古賀も、それを認めるしかないと自覚できてはいた。
だからこそ一一月に強行した〝ろ号作戦〟においては主力を航空機としたのだ。
虎の子の機動部隊――第一航空戦隊の空母〈翔鶴〉〈瑞鶴〉〈瑞鳳〉の艦上機を一機残らずラバウル基地へと転出し、ブーゲンビル島へ押し寄せる連合軍上陸船団の撃破を試みたわけだが、戦果は芳しくなかった。
逆に被害がばかりが目立った。各基地航空隊と合算し三〇〇機以上を投入したものの、実に半数以上を失ってしまったのだ。連合艦隊が企図した機動防御は失敗に終わった。
もとより合衆国とは物量では敵わない差が存在していた。古賀もそれを自覚していた。GF長官に就任した際、彼我の戦力を入念に検討した結果、もはや勝算など三割以下しかないと周囲にもらしていたほどである。
この状況で活路を見い出すには損害を無視し、ありとあらゆる戦力を総動員するしかない。戦場はマーシャルまたはギルバート方面。連合艦隊を磨り潰す覚悟で艦隊決戦を行い、アメリカ海軍に多大な出血を強いるのだ。さすれば米国市民の間に厭戦気分が広がり、終戦への道筋が見えてくるだろう。
それが日本海海戦という成功体験の呪縛であり、捨てきれぬ夢であったとしても、古賀には他に選択肢などなかった。早朝から〈大和〉へ向かっている理由は第三代艦長に就任した大野竹二少将と次期攻勢の打ち合わせを欲したからであった。
大野艦長は航海畑の出自でありながら、戦略眼にも秀でた人物であった。自腹でイギリス留学をした経験もあり、米英の内情にも詳しい。投了に近い終戦を模索するにおいて、知恵を拝借したい人物であった。
そして〈大和〉は一二日に内地に向けて出港する予定だ。この機会を逃せば、次はいつ話せるかわからない。
長官艇は〈大和〉の右舷艦尾に接舷した。古賀はすぐにラッタルを駆け昇ろうとするも、五八歳という年齢がそれを許してくれなかった。乱れた呼吸を整えつつ、やっと上甲板へとたどり着くと大野艦長自らが出迎えてくれていた。
「長官。わざわざの来艦していただき恐縮です。お呼びくだされば私のほうから旗艦に伺いましたのに」
四九歳の大野竹二は大人としての雰囲気を携えた偉丈夫であった。顔立ちは軍人というよりも、銀行家のそれを連想させる。過去の戦争だけではなく、未来の戦争にも備えられる戦略眼の持ち主であると古賀は高く評価していた。
「いや、それが〈武蔵〉は出港してしまってね。昼過ぎまで春島の沖合で対空戦闘訓練を実施する予定なのだ。小澤中将の乗る軽巡〈大淀〉も一緒にね。私がいても邪魔になるだけなので、こうして出向いたというわけさ」
大野は表情を厳しくして言う。
「対空戦闘訓練……やはりトラックにも米軍機が来襲すると?」
「遅かれ早かれだ。ここは帝国海軍の真珠湾だからな。アメリカが復讐戦を挑む舞台としては満点だと思う。大規模空襲のあと、戦艦の艦砲射撃で要地を潰し海兵隊を上陸させる。トラック諸島はガダルカナル島を凌駕する激戦地となろう」
「それはどうでしょうか。戦例から判断するに、敵将マッカーサーとニミッツは守りの堅いところを無視するはず。来るとしてもトラックは空襲で無力化を図るのでは?」
「うむ……〝攻めて必ず取る者は、其の守らざるところを攻むればなり〟か。孫子の兵法を活用しなければならぬのはこちらだというのにな。アメリカ人にお株を奪われてしまうかもしれぬのか」
「呉鎮守府へ帰投と同時に〈大和〉は対空火器の強化に入ります。両舷の二番と三番副砲を撤去し、高角砲と機銃を増設する案が艦政本部から寄せられていますので、応じるつもりです」
大艦巨砲の信奉者であった古賀にとり、それは面白みのない改造案だった。
しかしながら現実は現実として受け入れるしかあるまい。戦争のメインキャストは戦艦から航空機へとバトンタッチされたのだから。
そして……古賀峰一もまた太平洋戦争のメインキャストから降りる瞬間が唐突に訪れた。
予兆も前触れもなかった。
天の一角が臙脂色に染められた。妖気を孕んだ光輝に目線を奪われた古賀と大野は、思わず瞳を閉じた。なにか得体の知れない感触が総身を包み、それが瞬時にして駆け抜けていったかと思うと、猛烈な寒気が押し寄せてきた。
赤道に近いトラックでは師走でも充分に暑い。古賀は夏冬兼用の防暑服、後に第三種軍装として正式採用される軍服に身を包んでいたが、体感温度はまるで内地に戻ったかのようだ。口から出る息が白いことから、絶対に気のせいではない。
「長官! あれを!」
大野艦長が青ざめた表情でカタパルトの彼方を指差す。そこには海軍兵学校と所縁のある者なら確実に記憶に留めている緑の山肌があった。
「あれは……灰ヶ峰ではありませんか!?」
見間違えではなかった。それは標高七三七メートルと呉ではもっとも高い峻嶺に他ならなかった。
だが、ここはトラックだ。目立つ高山など存在しない南溟の島である。なぜ灰ヶ峰に酷似した山肌が手を伸ばせば届く距離にあるのだ?
驚くのはまだ早かった。古賀の耳は奇怪な羽音を捉えた。元来の色味を急速に取り戻しつつある虚空の一角から、見たこともない飛行物体が接近してきた。
野球ベースを思わせる形と大きさで、四角では回転翼が勢いよく旋回している。無人の模型飛行機らしい。
低空を飛行してきたそれは不意に速度を落とすと〈大和〉の第三砲塔の脇に着艦した。
もしや爆発物かと警戒した古賀だったが、訝しく思う暇すらなく、それは再び宙へと舞い上がった。あとには硝子にしか思えない板状の物体が残されていた。
そして、奇妙な物体から唐突にこんな日本語が流れ始めたのである。
『連合艦隊司令長官の古賀峰一海軍大将、応答を願います。繰り返します。古賀峰一大将、どうか電話に出てください』
促された古賀が一歩進むと、大野艦長がそれを諫めた。
「長官。お下がりください。危険すぎます!」
「いや……危害を加える気ならとっくに爆発しているだろう。相手はこっちを知っている。ならばこちらも相手を知らなければ話になるまい」
掌に乗る大きさの硝子板を拾い上げてみると、裏面は合成樹脂で作られているのがわかった。これが電話だと?
「私が古賀だ。そちらの正体を知らされたし」
途端に硝子の色味が切り替わるや、驚くべきことに人物の動画が映し出された。それも白黒ではない。総天然色である。いったい、どんな仕掛けなのだ。こんなのはドイツにもないだろう。
『自分は油谷刻夏2佐。連合自衛隊発足委員会の共同室長を務める者です』
見たこともない軍服を着込んだ美麗な人間だ。男とも女ともわからぬ相手は、丁寧な日本語で、こう語りかけてきた。
『まず最初に陳謝いたします。あなたたちに今回のような異常な体験を強いたのは我々なのです。電話では埒があきませんから自分はこれより直接謝罪にまいります』
「当方は、状況が依然として把握できていない。ここは何処だ? 我々になにをしたのだ?」
『何処ではなく何時かと訊ねていただきたい場面です。灰ヶ峰にはもうお気づきでしょうか。ここは呉――正確にはかつて呉が存在していた地域。しかしながら、昭和一八年一二月七日ではありません。いまは令和一五年一二月七日なのです』
「令和などという元号は聞いたこともないが」
『昭和の次が平成、平成の次が令和です。西暦に換算すると二〇三三年です』
「お前は未来から来たとでも言うのか?」
『いいえ。あなたがたを未来に力尽くで招聘したのです』
「それが世迷い言ではないと仮定して、どうしてそんなことをやらかしたのだ?」
油谷と名乗った軍人とも民間人ともつかぬ奇怪な相手は、懇願するかのような声を出した。
『令和の日本を救っていただきたいのです。そのために戦艦〈大和〉が必要だったのです』
2 軍港消滅
――令和一五年一二月七日
広島県呉市は、過去も現在も(そして恐らくは未来も)軍港としての役割を課せられた港湾都市である。
この街が持つ重要性と利便性は歴史と地政学によって入念に裏書きされており、現実を無視する無知蒙昧な輩でない限り否定することは無理だ。
二一世紀も約三分の一が経過した現在――令和一五年一二月七日早朝にあっても、その現実にはいささかの相違もない。
湾内には海上自衛隊の護衛艦が集い、国内外で生じる不測の事態に睨みを利かせている。
そして……朝霧を切り裂くように出港していく大型護衛艦の姿があった。
DDG‐188〈やまと〉である。
昨年完成したばかりの新造艦だ。全長は二一〇メートル、基準排水量二万二〇〇〇トン。空母を除く水上艦艇としては世界最大のサイズを誇る。公式には単に護衛艦と称されるが、媒体によっては超大型汎用イージス艦と記される例も多い。
(……命令とはいえ、今回のソーティは辛すぎる。連合自衛隊発足委員会の面々はなぜか嬉々とした調子だったが、連中はどうにも好きになれない。この〈やまと〉を生贄に差し出せとは……)
苦渋の表情でそう思い悩むのは初代艦長の蔵山数成1佐であった。
現在四九歳とベテランの域に達した彼は、ふそう型の二番艦〈やましろ〉でも艦長職を経験しており、操艦に不安はなかった。
しかし、この任務はあまりにも不条理であり、異質であった。先行きには不安しかない。それが蔵山の表情を歪ませていた。
「艦長……畏怖とは部下に伝染するもの。そんな顔を見せないでいただきたい」
透き通るような声音が航海艦橋に響いた。振り返ると予想したとおりの人物がそこにいた。
「水谷2佐……貴様は戦闘指揮所に詰めているんじゃなかったのか?」
連合自衛隊発足委員会の共同室長という地位にいる怪しげな奴だ。航空自衛隊出自でフルネームは水谷刻冬。その顔立ちは女と見間違えるほどに端麗であり、軍人特有の厳つさは皆無であった。自他ともに認める醜男である蔵山にとって、あらゆる意味で疎ましい相手だ。
「刻駕計画は完璧に遂行中であり、もはや自分がCICで成すべき任務は完了しました。ここから肉眼で一部始終を見届けたいのです」
機械的なまでに淡々と語る水谷2佐は、口調を違えずにこう続けた。
「ところで次世代型超高速増殖炉モンジューから連絡はありましたか」
「阿多田島の原発か。順調に稼働中との定時連絡が来ているぞ。灯台の跡地に設置した特殊装置とやらの駆動にも問題はないそうだ」
「それは重畳。刻駕計画の成否は阿多田島の時空回帰砲――ネオ・ディメンション・レールガンの出力にかかっておりますから」
そう呟いたあと、水谷は右舷前方を見据えた。フネは江田島の北側を抜け、厳島を眺める位置にまで到達している。彼方には阿多田島の影までも確認できていた。
「それにしても無念です。もし本艦が原子力駆動であったなら、長崎から同型艦〈むさし〉を呼び寄せ、対消滅砲撃で一切合切を終わらせられましたのに」
「まさか。やまと型に搭載が予定されていた口径四六ミリのレールガンではパワー不足だな。原子炉を搭載していても同じことだろう」
「いいえ。発電量に余裕があれば設計時からより大型のレールガンを装備できたはずです」
蔵山艦長は嘆息してから、悔しさを込めた声を出した。
「それをやろうとして中国様を怒らせてしまったのだ。周辺国への配慮のため、当初は予定されていた原子力機関は断念するしかなかった。北京の連中には〈やまと〉という艦名すら侵略の決意に聞こえたらしい。連中は恥知らずにも廃艦を要求してきた。ウクライナの例を挙げるまでもなく、やはり核を持たぬ国は弱いな……」
「いいえ。本当に恥を知らないのは、それに唯唯諾諾と従った政権与党です。それも遣り口が最悪でした。せめて中国政府に膝を屈したことを正式に公表し、そのうえで〈やまと〉を解体するのであれば理解もできますが、事故に見せかけて処分せよとは。あんな連中に議席を与えた国民も同罪でしょう。師村副総理は最後の最後まで反対してくださったようですが」
「いまさら犯人捜しでもあるまい。すべては遅きに失した。これが〈やまと〉最後の航海になろうとは。そして俺が最後の艦長だとは……」
「いいえ。蔵山数成1佐には今後も〈やまと〉の艦長として采配を揮っていただきます。それこそ連合自衛隊発足委員会の総意です」
「まるで意味がわからんぞ。本艦は阿多田島の沖で総員退艦し、時空回帰砲とやらで自沈させる。それが刻駕計画の全貌だろう」
「カバーストーリーを信じてくだったようですね。これは重畳。艦長まで騙せたとあっては、今回の作戦は防諜が完璧だったようです」
「貴様……なにを考えている?」
「考える段階など終わりました。行動するときが来たのです」
「いったい何事だ!?」
「慌てる必要はありません。別に世界初の試みというわけでもないのですから。一九四三年十月にアメリカ海軍がフィラデルフィア港で同様の実験を実施しています。都市伝説だと切り捨てるのは簡単ですが、我々は一定の成果はあったはずだと解釈しています。ああ……時間ですね」
やはり、予兆も前触れもなかった。
天の一角がダーク・レッドに染められた。魔物めいた光線の襲来に、蔵山は思わず身を固くした。悪寒をともなう感覚が全身にまとわりついたかと思うと、猛烈な熱気がやってきた。
瀬戸内に位置するとはいえ、師走の呉はかなり冷え込む。蔵山は黒を基調とした冬制服と呼ばれるユニフォームに袖を通していたが、体感温度は真夏のそれだ。額には早くも汗が浮かび始めた。そして周囲はなぜか暗く、朝焼けにも似た色調が東の空を染めている。
『こちらCICの副長紗良砂緒2佐。通信システムに障害発生。衛星とのリンケージが切断されたもよう。再接続を試みておりますが、まだ反応がありません』
航海艦橋に流れた報告に、水谷が訊ねた。
「呉基地との連絡はどうなっていますか?」
『第四護衛隊群司令部とは無線が通じています。ただし、向こうも混乱しているらしく、まともな情報が入ってきません』
蔵山艦長は強化硝子越しに左後方を凝視した。そこには呉らしき街の光があった。周囲の島々にも異変はないようだ。
だが、見えてしかるべき物体が見えない。呉であれば聳えているるはずの灰ヶ峰がない!
常に沈着冷静なはずの水谷が、そわついた声で口早に言った。
「大至急、天測をさせてください。大凡で構いませんから、緯度と経度を弾き出すんです。自分の計算が正しければ北緯七度二〇分、東経一五一度五〇分のはず」
信じ難い予測の数字に、蔵山は左舷艦橋ウイングへと飛び出し、空を仰ぎ見た。そこには、日本からは絶対に見えない星座が煌めいていた。
南十字星だ。
異常事態を察知した蔵山が艦橋へ取って返すと、水谷が艦内電話の受話器に怒鳴っていた。
「そうです。大黒神島のスカイ・ワープ社にすぐ連絡を。事前の打ち合わせどおり、情報収集衛星の打ち上げを依頼してください。それと並行してGPS衛星の準備も急がせるのです。ストックしてあるクロノス・ロケットの在庫を使い切っても構いません」
意味不明な、それでいて悪意が如実に介在する台詞に、蔵山は怒気を隠そうともしなかった。
「貴様……こうなることを予期していたな。連合自衛隊発足委員会はなにを企んでいる!」
電話を切ってから、水谷は応じた。
「刻駕計画は順調に遂行中です。すべては当初の予定のままに……」
「ここは何処だ? 〈やまと〉になにをした?」
「何処ではなく何時かと訊ねていただきたいものですが、疑念にはお答えしましょう。南十字星をご覧になったのであれば、もうお気づきのはず。ここは呉ではありません。かつて帝国海軍が中部太平洋における根拠地としたトラック諸島の跡地なのです。
そして日時ですが、令和一五年一二月七日ではありません。昭和一八年一二月七日です」
無気味すぎる断言に、蔵山はさらに詰問した。
「お前は〈やまと〉をタイムスリップさせたとでも言う気か?」
「本艦だけではありません。呉および岩国基地のすべてを力尽くで過去に連れ戻しました」
「それが嘘八百でないとして、なぜてそんなことをやらかしたのだ?」
すると水谷は、場違いなまでの悲しげな声で、こう懇願したのだった。
「昭和日本を救い、戦後史を書き直すためです。そのために〈やまと〉が必須だったのです」
これ以降は本編にて
お楽しみくだされば幸いです。
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よろしくお願い申し上げます!
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