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母の根源


「毒からの解脱」という本を出しました! 初小説! 良かったらどうぞ!

「奈々美さんは彼氏とか出来たことがあるの?」

それはカン高い声の、いわゆる「上位グループ」と言われる人達の集まりのリーダー格の
美人の女性から声をかけられた。普段は挨拶すらもして貰えないのに。

「...いいえ」想像通り重々しい声が自分から出た。

「そうですよね、凛子さんは慶応大学に進学予定の男性とお付き合いされてるとか!」
「まあ、凛子さんにぴったりね!」
「うらやましいわー!」と3人は声を合わせた。

「奈々美さんは好きな人とかいらっしゃるの?」
まだ続くか。
「いないわ」
「ええー!人を好きになった事とかあるのかしら?」
「ちょっと失礼よ!」
「ないわ」

「ええー!!」3人はお互い顔を見合わせて笑った。
「どうしてそんな事があるのかしら?」

知らないわ。そんな事。私は嫌われないように生きていくので精一杯なのよ。

「恋はしたほうが良いわよ!でも出来る人と出来ない人がいるのかしらね」と凛子さんは高らかに笑った。

珍しく、ひどく腹の立つ出来事だった。


絵理は彼との間に子供が生まれた。名は「文」(ふみ)。
文は9歳になった。

「おばあちゃんのところ、お母さんは行かないの?」
「行かない」とそっけなく言った。

 今日はお盆で、絵理は会社が休みだ。
しかし、文はおばあちゃんの事が嫌いではないのだ。とても可愛がってくれた。
 でも奈々美(絵理の母親)はいつも絵理を見る度に「親不孝娘」、「親の気持ちをさっぱり理解しようとしない」とぐちぐち言ってくる。
また、特に絵理の容貌に関して「だんごっ鼻、頭が大きいからバランスが悪い、人様に自慢できるような娘じゃない」と親族にさえ話していた。
 文からしたら絵理は美人だ。授業参観に絵理が来たらクラス中から「良いなーふみちゃんのお母さんきれいだね」と言ってくれるし、鼻高々だ。

「まあまあ、文ちゃん、よく来たねー!」
奈々美は笑顔で文を迎えた。
「お母さんはいないんだけど」
「要らないよ、あんな子」とむっとした。
「でもお母さんからとらやの羊羹だって」文は紙袋を奈々美に手渡した。
「まあ、何もないよりはマシだね。ありがとう、文ちゃん、持ってきてくれてー!」とまた笑顔になった。
居間に行くと大量のお菓子が置いてあり、
「文ちゃん、はいオレンジジュース」
「どうもありがとう」

奈々美は文を大変可愛がる。でも不思議なのだ。文の顔は絵理にそっくりなのだ。
「ねえ、お母さんの昔のアルバムってある?」
「あるわよー」と1冊持ってきた。

そこには美少女がいたのだ。

「すっごくかわいいじゃない!」
「..そうなのよ。」
「でもいつもおばあちゃん、お母さんの事『だんごっ鼻、頭が大きいからバランスが悪い、人様に自慢できるような娘じゃない』とかひどい事言うじゃない。何で?お母さん美人なのに」
「...絵理は小さいときから『ロシア人形みたい』って周りから言われて、私も高い服買って一所懸命可愛くしようとしていたのよ。
で通りすがりの人に『まあー、かわいい!お人形さんみたいね」って通りすがりの人に言われて『えへっ』って笑った時、私が高校の時嫌いだった高飛車の女にすごくそっくりだったの。
 だからその時から、私はああ、この子を甘やかしたらあの女みたいになると思って、一切絵理を褒めないようにしたの!」

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文はお母さんに今日の事を伝える前に先ずお父さんに伝えようと思った。

「ねえ、お父さん」
「んー?」

「お母さんもお父さんもそれぞれのおじいちゃんとおばあちゃんが大嫌いなんだよね」
「うん、そうだね」
「お互い好きになったほうが良いなあとか思った事はないの?」
「ないよ。僕たちは自分の両親が嫌い。でもただそれだけじゃない?」

そうか、と文は思った。

「親が絶対じゃないしさ。僕も親になったけど。ただ自分が我慢したくない。自分のやりたい事をする。お母さんを見るとそう思うだろ?」とお父さんは笑った。

「そうだね」と文は答えた。
絵理が買い物から帰ってきた。
「あら、文帰ってたの?おばあちゃんとお夕飯食べなかったの?」
「うん。お母さんとお父さんと食べたくて」と文が言うと、絵理はちょっと顔を赤らめた。
「じゃあ、お夕飯パスタにするね。」

「ねえ、お母さん」
「なあに?」
「わたしお母さんとお父さんのこと大好きよ。いなくなったら悲しいからね」
「...何言ってるの、この子は急に…」
と絵理は顔をぷいと向いて、夕飯の支度を始めた。

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