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1-5 減数分裂

 有性生殖に備えて染色体の数を半分に減らす過程が減数分裂である。大きな特徴は

  • 2回の核分裂が行われ最終的に4つの細胞になる

  • しかしDNAの複製は1回しか行われない

  • 有糸分裂とは違って減数分裂で生じた細胞は互いに異なり、親細胞とも異なっている

 これらに加えて覚えておきたいのが

  • 半数体の細胞は1組の完全な染色体セットを持つ

  • 減数分裂の過程により子孫の遺伝的多様性が促進される


第一減数分裂

第一減数分裂は以下の2つの特徴がある。第一に、相同染色体が全長に沿う形でそれぞれ対合することである。この対合は通常の細胞分裂である有糸分裂では見られない。第二に、分裂するタイミングで、相同染色体がそのまま分裂することである。

相同染色体の対合(前期)

 減数分裂は細胞周期の間期の後から始まる。まずは有糸分裂と同様にS期でDNAの複製が行われ1対2本のDNA鎖からなる姉妹染色分体が形成され、コヒーシンにより束ねられている。
 そしてここからが有糸分裂と大きく異なる点で、相同染色体が全長にわたって対合する。これをシナプシスといい、前期から中期の終わりまで続く。
 2本のDNAがコヒーシンによって1本の染色体にまとめられており、さらにその相同染色体同士がまとめられている。なのでこれは四分子、または二価染色体と呼ばれる。ヒトの場合染色分体は96本になっている。この対合も対合装置と呼ばれる、タンパク質によって形成される装置によって促進されている。

キアズマ

 相同染色体同士はどのような機構で繋ぎ止められているのだろうか。姉妹染色分体はコヒーシンによってまとめられているが、相同染色体同士はキアズマという交差構造によて繋がれている。

 このキアズマはタンパク質ではなく、あくまでも交差構造であることに注意したい。
 この構造によって相同染色体間で遺伝情報の交換が促進され、構造が解消されることにより乗り換えが完了する。

図1

 この前期の現象が起きるにはかなり長い時間を要する。有糸分裂は全体で1時間ちょっとなのに対し、ヒトの場合第一減数分裂の前期だけでも1週間ほどかかる。卵になる細胞では、前期は女性の早期胎児の発生中に始まり、数十年後、月に一度の卵巣周期のあいだに終わるくらい長い。

分裂の準備期間(前中期~中期)

図2

 相同染色体の対合により乗り換えが発生したのが前期であった。その後、紡錘体が形成され、微小管が染色体の動原体に付着して分裂の準備に入る。
 一度ここまでの染色体の変遷をたどってみる。まず23種類の核型からなる染色体が存在し、相同染色体も含めて46本存在していた。それがDNA複製により倍になり、2本1対染色分体としてコヒーシンよって一纏めにされていた。
 有糸分裂ではここから染色分体が分離したが第一減数分裂ではどうだろうか。上の図にあるように、ここでは染色分体が分離することはなく、そのままどちらかの極に移動する。そしてどちらの相同染色体がどちらの極に移動するかはランダムである。
この後は有糸分裂と同様に紡錘体と動原体の働きで徐々に赤道板付近に移動している。この時点で、相同染色体はまだキアズマによって結合されている。有糸分裂のとき、分裂する直前まで染色分体対をコヒーシンがまとめていたのと同様に、第一減数分裂ではキアズマがその役割をになう。

相同染色体の分離(後期)

 上でほとんど大事なことは述べたが、後期に相同染色体がキアズマの解消によって分離する。

核膜の再形成(終期~間期)

 生物種によっては核膜が再形成される終期が存在する。加えて、染色体が部分的にほどけることもあり、これを間期と呼ぶ。しかし、いままで登場した間期とは別なので、英語ではよく知られる方をinterphase、ここで登場する間期をinterkinesisと呼んで区別する。
 終期がない生物種は直ちに第二減数分裂へ移行する。

第二減数分裂

 第一減数分裂では相同染色体の分離が行われたが、第二減数分裂では染色分体の分離が行われる。ここでは染色分体を束ねているコヒーシンの分解でセントロメアが分離し、極へと移動する。この点においては有糸分裂と非常に似ているが、以下の点で異なっている。

  • 有糸分裂の前に行われたDNA複製が、第二減数分裂では行われない。

  • 有糸分裂で分離される姉妹染色分体は複製されたものなので遺伝的に同一であるが、第二減数分裂では乗り換えが起こっているため同一ではない(乗り換えが起こっていない場合は遺伝的に同一)。

  • 第二減数分裂における染色体の数は有糸分裂における数の半分である。

 第二減数分裂で4つの核が生じる。図2から分かるが、すべての核は半数体であり、お互いに遺伝情報が異なる。この差異は乗り換えと相同染色体のランダムな分離によるものであることは強く意識したい。

 もう一つ大事なのが第二減数分裂の過程において染色体の数は変化しないということである。図2にあるように、23本2セットが23本1セット×2細胞になるだけであって、全体の本数は変化しない。

独立組合せ

 相同染色体のランダムな分離は独立組合せと呼ばれることもあるので覚えておこう。ヒトにおいては23種類の染色体が存在し、それがランダムに分裂するため組み合わせは$${2^{23}=8388608}$$通りの組み合わせが生じる。これに加えて乗り換えによる遺伝的な入れ替えがあるため、組み合わせの数は飛躍的に増加する。

減数分裂でのエラー

不分離

 細胞分裂の過程では時々エラーがおこる。例えば第一減数分裂で相同染色体の対が分離しないとか、第二減数分裂や有糸分裂で姉妹染色分体が分離しそこなうなどがある。これを不分離と呼び、種々の疾患を引き起こす。この結果として、細胞内の染色体数が予定されていたものとは異なる。これを異数性といい、染色体数が不足したり余っている状態を指す。(厳密には特定の染色体の増減のみに適用される語彙である)

図3

 染色体異数性の原因の一つにコヒーシン不足が考えられる。この結束バンドがあるときっちり両極に分離されるが、結ばれてないと両方の相同染色体がちゃんと分離する確率は50%になってしまう。相同染色体同士が結ばれているからこそ、「こいつらは別々にしなきゃいけない」と認識してくれるので、それがないと1対2本の相同染色体はランダムに振り分けられることになる。そのため50%で同じ方に振り分けられてしまう。
 異数性の具体的な例がダウン症である。21番染色体が第一減数分裂で不分離を起こした場合、配偶子が半数体ではなく二倍体になるものが出てくる。ここで正常な配偶子と接合子が形成されると「21番染色体の三染色体性(トリソミー)」という状態になる。逆に染色体を持たない配偶子と正常な配偶子が接合子を形成した場合、「21番染色体の一染色体性(モノソミー)」と表現する。

転座

図4

 染色体の一部分が切断され別の染色体に付着するエラーを転座と呼ぶ(図4)。このエラーに関しても受け継いだ場合ダウン症を引き起こす可能性がある。

三染色体性や一染色体性はヒトでは全妊娠の10~30%という高い割合で起こる。この受精卵から発生する胚はほとんど出産に至らず、生まれたとしても高確率で1歳未満で死んでしまう。21番染色体以外の異数性は胚性致死を引き起こす。全妊娠の20%ほどは妊娠初期2か月で自然流産となるが、原因はほとんどこれにある。

有糸分裂と減数分裂の違い

 もしも核が余分な染色体を持っていても、実は有糸分裂は正常に進行する。これは染色体同士の独立性によるもので、多かろうがどうにかなる。しかし減数分裂においては相同染色体の対合が必須になるので、異常を引き起こす。そのために三倍体や四倍体などの生体は不妊を引き起こしやすい。(これらを合わせて倍数体polypoidと呼ぶが、正常な二倍体は"狭義では"ここに含まれない)

 農業においてはこの三倍体や四倍体はよく見かける。例えば、小麦は六倍体になっており、これは二倍体の小麦三種類を自然交配させた結果である。また、種無しスイカは三倍体であり、不妊の性質を逆に利用している。


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