3-4 DNAの複製②
この記事ではDNA複製の詳細な機序について学ぶ。量が多いですが頑張りましょう。
DNA複製の機序
DNAの複製は大きくわけて2つの段階からなる。
DNAの二重螺旋がほどけて、新たな塩基対合が可能になる段階。
鋳型DNA鎖に対して相補的な塩基を持つヌクレオチドがホスホジエステル結合により伸長鎖に連結していく段階。
DNA複製複合体
DNAの複製は複製複合体と呼ばれるタンパク質群が鋳型DNAと相互作用することによって進行する。全ての染色体はこの複合体が結合する複製起点$${ori}$$にあたる塩基配列を少なくとも1つは持っている(2つ以上持っていることもある)。
DNAはこの複製起点から両側に複製されていく。下の図のように裂けて複製フォークと呼ばれる部分が二か所現れる。この引きはがされた部分は塩基が対合する相手を探す状態にあり、ここを土台に新生DNAがつくられていく。
複製起点で起こる最初の現象は、DNAの巻き戻しである。DNA二重螺旋は塩基同士の水素結合や疎水性相互作用などによって結びついている。これを引きはがすのがDNAヘリカーゼであり、ATPの加水分解を利用してDNAの二重螺旋を解消する。また、一本鎖結合タンパク質が結合して再び二重螺旋を形成するのを防いでいる。
複製フォークの根本に複製複合体が居るが、これらの位置は固定されており、その中をDNAが動いている。複合体側がDNAレールの上を動くわけではない。
原核生物は複製起点を1つだけ持つ
原核生物のDNAは真核生物のそれと構造的に異なっている。真核生物のDNAは直線的なのに対して、原核生物のDNAは環状である。複製起点から複製フォークが二か所出現するのは同じであるが、終点$${ter}$$に行き着いたとき、DNAトポイソメラーゼという酵素が働いて二つの環に分離する。
また、環状DNAは複製起点を一つしか持たないが、真核生物はかなり多くの複製起点を持つ。これは原核生物と真核生物の伸長反応速度の違いに現れている。大腸菌では1秒間で1000塩基ずつ伸長して20分~40分ほどで複製が終わる。一方ヒトは1秒で50塩基ずつしか伸長しない。ゆっくり伸長している分、その代わり大量の複製フォークと酵素が必要になっている。互いに隣り合った複製起点は複製複合体によって固定され、一斉に複製される。
新しいヌクレオチドは3'末端に付加される
鋳型DNAに対してヌクレオチドが付加し、DNA伸長が起こるわけだが、その機序はどういったものになるだろうか。
1本鎖DNAにはリン酸基側の5'末端とデオキシリボースの水酸基側の3'末端が存在する。そして結合するdNTPsはリン酸基を3つ持っており、3'末端結合時にはこのうち2つが加水分解的に切り離される。この切り離されるときにエネルギーが放出され、反応が進行すし、「5'末端→3'末端に伸長する」と表現する。
反応機構は複雑で、伸長を担うDNAポリメラーゼ内に存在するマグネシウム原子を中心に遷移状態が形成されるなどするらしい。
DNAポリメラーゼによる伸長反応
DNAポリメラーゼと呼ばれる酵素が伸長反応を触媒する。この酵素は基質になるdNTPや鋳型DNAよりも大きく、4種類のdNTPを識別できる。
DNAポリメラーゼは新しいヌクレオチドを鋳型に共有結合させてポリヌクレオチド鎖を伸長させるが、結局は3'末端の水酸基がないと始めることができない。そこでプライマーゼという酵素がプライマーと呼ばれる短い1本鎖RNAを鋳型に付加する。ここを起点にDNAポリメラーゼが伸長反応をすすめていく。
このRNAはDNAとは違うので、後々分解されて代わりにDNAが挿入され、さらに別の酵素DNAリガーゼが連結してくれる。
ほとんどの細胞でDNAポリメラーゼは複数種類存在するが、それらのうち1種類だけが染色体のDNA複製を担っている。ヒトは14種類のDNAポリメラーゼが同定されており、そのうち複製を触媒するのはDNAポリメラーゼ$${δ}$$である。そのほかのDNAポリメラーゼはプライマーの除去やDNA修復に関わっている。
複製フォークでの異なる伸長様式
DNAの二本鎖はそれぞれが逆平行であることを思い出したい。片方の新生DNA鎖は複製フォークが開いていくと同時にプライマーを起点に5'→3'方向に伸長するが、もう一方は逆を向いている。そのため、伸長様式が異なる。
リーディング鎖:フォークが開くにつれて3'末端に連続して伸長する。
ラギング鎖:フォークが開いていく方向とは逆向きに伸長する。
ラギング鎖は一番最初は複製起点に向かって伸びる。しかしその間にもフォークの股は遠ざかっていき、最初のプライマーの先頭との間に何もない(本当は新生DNAが入っててほしい)ことになる。なので再びフォークの股付近にプライマーを付加し、その隙間を埋める。これを繰り返してラギング鎖が伸びていくが、「プライマー+新生DNAラギング鎖」の塊がいくつもできることになる。この単位を岡崎フラグメントと呼ぶ。
細菌においては前方の岡崎フラグメントのプライマーに到達するまでポリメラーゼⅢが伸長反応を触媒する。それと同時にポリメラーゼⅠがプライマーを除去しDNAに置換してくれる。
この反応を行っても、岡崎フラグメント同士は結合していない。そのためこれらをDNAリガーゼが連結し、ラギング鎖を完全なものにしてくれる。
これら多くのタンパク質が同時に機能し、大腸菌では1秒あたり1000塩基対が付加される。これだけ速くても間違いは100万塩基の中で1塩基未満という驚くべき正確性を担保している。
スライディングDNAクランプの機能
DNAポリメラーゼがここまで速く機能するのはなぜか。本来このような酵素触媒反応は、基質が酵素に結合し、生成物が形成され、酵素が離れるというサイクルを繰り返す。この作業をこのスピードでこなすのは無理に思えるが、これはDNAポリメラーゼによる反応がプロセッシブ(連続移動的)であることによって可能になっている。この反応は多数の基質が1つの酵素に結合し、同時に多数の重合を触媒することで解決している。
DNA複製反応はDNAがDNAポリメラーゼの中を通り抜けるようにして進行するため、この通るスピードを上げたり、途中で離れたりしないようにしたい(DNAポリメラーゼは環状ではなく手のような形をしてるのでDNA鎖から簡単に離れる)。それを実現しているのがスライディングDNAクランプである。
これはドーナツ状の複合体であり、2本鎖DNAがちょうど通る大きさになっている。またこのドーナツと鎖の間には水性の層が存在していて滑って速く動くようになっている。
この複合体がDNAポリメラーゼの背中に位置することで、DNA鎖とポリメラーゼが離れないようにしつつその移動を助けている。
実際、クランプがない場合DNAポリメラーゼは100塩基ほどを重合させると取れてしまうが、これの存在で5万塩基の重合を可能にしている。
テロメア部分の問題点
ラギング鎖の伸長にはプライマーを随時付加する必要があった。このプライマーは最終的に取り除かれDNAがそこを穴埋めすることになっているが、ポリヌクレオチド鋳型3'末端の場合はプライマーが取り除かれたのちに穴埋めするための足場がないため、相補的塩基対を形成できない。つまり、複製されたDNAはそれぞれの末端に短めの1本鎖DNAを持つことになる。この状況を感知してこの飛び出ている1本鎖(+ちょこっと2本鎖部分)を切り取る反応が起こるが、結果的に複製前よりもDNA全体が短くなっていることを意味する。
つまりDNA複製をやればやるほどDNAは短くなっていく。
この問題に少しでも対処するためのパーツがテロメアである。これは塩基の反復配列であり、ヒトの場合はTTAGGGになる。これが約2500回繰り返されており、多少短くなっても遺伝子をコードしているDNAには害が及ばないようになっている。1回の複製ごとにテロメアDNAを50〜200塩基失うこともあるため、20〜30回分裂すると染色体が分裂できなくなり死ぬのである。
では骨髄幹細胞や生殖細胞のように絶えず分裂している細胞はどうしているのだろうか。これはテロメラーゼという酵素によるテロメア部分を修復する機構によって対処している。
テロメラーゼの内部にはテロメア反復配列の鋳型RNAが含まれている。これが図のようにラギング鎖3'末端に結合してDNAの伸長が元々の鋳型DNA鎖側で起こる。
これを繰り返すことによって最終的には元の長さに戻る。
テロメラーゼの応用
テロメラーゼはヒトにおいては癌でも発現している。これが癌の無尽蔵な分裂能を支えているのだろう。しかしテロメラーゼは一般の正常細胞ではほとんど活性を持たないので、これを標的に抗癌剤を設計することも可能になる。
また、このテロメラーゼを正常細胞に導入する試みもなされている。これによって確かにテロメアは元の長さを保てるようになり、実質的に細胞は不死になる。これによって人間が不死身になれるかどうか、加齢と関係があるかどうかは不明である。