第7章 寝ても覚めても
あの後ろ姿は忘れることがないだろう。
図書館から帰ってきた僕は、何度もあの後ろ姿を思い浮かべていた。
外は夕暮れで真っ赤に染まっているのに、夕飯も作れないほどに憂鬱だ。
カラスがかーかー鳴いているのも聞こえてこない。
これは重傷だ。
また会えるかな
図書館に来ていたから、もしかしたら同じ大学かも
会いたいな
そんな思いを巡らせているうちに僕はすっかり眠りに落ちていた。
初夏の候、いかがお過ごしですか?などと言いたくなる程、今日も暑い日差しが僕を襲う。
カーテンの隙間からいつものように僕を起こすその日差しが、季節の挨拶のようだ。
起きても昨日のあの後ろ姿が頭から離れない。
まいったな
授業に集中できないじゃないか
幸いテストが終わりに近づいているからいいものの、これがテスト1日目だったらどうなっていたことか。
でも、その後ろ姿はいつでもいいからもう一度見たい。そう思わせる後ろ姿は珍しい。
いつものパンとスクランブルエッグもどきを食べて家を出る。原付はこんな暑い日にはもってこいの乗り物だ。風を感じられるから。
それでも車には及ばない。でも、それでも、僕はこの原付にこだわろうと思った。
なぜか。それは、昨日彼女に出会ったときに乗っていたからだ。
もしかしたら、彼女が僕の原付を目にしていて、偶然僕を見かけたときに声をかけてくれるかも。なんて甘い考えがあるからだ。
ゲン担ぎならなんでもするさ。彼女にもう一度会えるなら。
大学に着くとすっかり夏使用になっている。友達の服も、エアコンも。
そういえば彼女は白いワンピースを着ていたな。こんな殺風景な大学なら目立ちそうだ。
今日の試験はマーケティング。割と得意な科目だったので、30分で解いて教室を出た。この大学は30分経って試験が終わっている学生は帰っていいシステムだ。
学生にとって有難いのか、有難くないのか。それは学生次第か。
成瀬はまだ解いていた。ちゃんと課題をしないからだよと目で訴える。
それに気づかず、必死に解いている姿がなんだかおもしろい。
駐輪場で原付に乗り、今日も何事もなく過ぎていくのかと思っていると、
部活棟の教室にあの姿を見た。
そう、あの後ろ姿だ。
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