レンズ越しの世界に描く夢
楽しい夏休みが終わり、暑さも次第に和らぎ始めた9月下旬のことである。
大学生になって初めての夏休みを終えた私の足は、重い。この長い休みの間に何かに取り組んだわけでもなく、プールや海で青春を謳歌したわけでもない私の足は、とにかく重かった。
大学生になって、何か自分の人生に変化をつけたかったのだが、サークルに入るでもなく、バイトをして貯めたお金で1人、旅をすることもなかった。
ここまでの私を例えるなら、変化球を覚えることのできなかった、ただの直球しか放れないダメ投手である。
後期始めての講義に行くことはなかった。なんせ足が重いもので。
何か生活に変化をつけたいとは思っているのだけれど、何をすればよいのか分からない。
特に友達が多いわけでもないし、運動神経もよくない。頭だって。
私が他の学生に勝っている点があるとすれば、それはバイクを持っていることくらいだ。他の学生は大抵、徒歩かバスか車かで通学しているのだが、私は違う。
バイクには高校生の時から憧れていたため、すかさずバイクの運転免許を取った。バイクで登校した時には、マイノリティーな私に視線がよく集まる。
その時ばかりは、少し満足感を得ることができる。
「折角だからこのバイクでツーリングでもするか・・・」
私のマンションの近くに海があるため、とりあえずそこを目指して運転することにした。部屋で長い間だらだらしていたため、とっくに日が傾き始めていた。
また明日にしようかと思ったが、もう着替えも済んだし、今から諦めるのは気持ちが悪い。
バイクにまたがり、エンジンをかける。バイクに乗っている時だけは優越感に浸れる。
10分程運転し、海に着いた。辺りには人影がなかった。時間的にもその現状に頷ける。
夕日が丁度海に沈んでいるのが見えた。1人で眺める夕日はいつぶりだろうか。もしかしたら初めてかもしれないな。
そして、何の変哲もない夕日と海のマッチングが、唐突に私の心を揺さぶった。
なぜこれほどまでに、私の心を揺らすのだろう・・
その夕日は文字通り、私にとって色んな意味で特別なものとなった。
自然の風景に魅了されたのは初めてだった。この気持ちと光景を記録にも残しておきたい。
すかさずスマホで写真を撮った。思いのほかよく撮れている。
もしかして才能あるのか?なんてことを本気で考えながら、家路についた。
単純な私はすぐにネットで適当なカメラを買い、写真を趣味にしようと決めた。
突然の思い付きではあるけれど、誰かを魅了できる変化球を手に入れられるかもしれない。
あの大投手も、不意な思い付きから誰もが舌を巻く変化球を覚えたのだから。
写真が、私の人生を変える変化球であればいいなと、単純な私は夢を見る。
カメラ越しの、あの世界に。
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