第6章 no book no life
私は大学生活にわくわくしていた。
多くの新入生がそう思うように。
ただ、私は少しだけ違っていたと思う。そのわくわくの度合いが。
なんでかは簡単に説明できる。
今までが少しだけ不自由だったから。
大学生と言えばバラ色。自由の象徴みたいなものだ。
好きな時に学校に行けるし、好きな人と一緒にいられる。
そんな生活に、私は憧れていたのだ。
家庭の関係上、いつも勉強を強いられていたし、習い事も多かった。
バイオリンから習字まで。今の時代とは少しかけ離れた習い事だといつも感じていた。
どうせならピアノとか英会話とか、そういったものがしたかったのに。
想像できると思うけれど、私の家は俗に言う経営者の家族、お金持ちだ。
父はゲーム会社の社長で、次世代型のゲームを取り扱っている。
世間でも認知され始めている。母も少し厳格だ。
だから自由になりたくて、いっぱい勉強して、都会とは離れた一人暮らしのできる大学に通えるようになった。
そんな春の日、私は読書が好きだったので、さっそく作れた友達に図書館の場所を聞いた。この近くで有名なところを。
できればミステリーが多ければいいなと思っていたけれど、さすがに友達はそこまでは知らなかった。
教えてもらったのは、山の上にある比較的新しい図書館。
大きさも十分以上に大きく、本もいっぱいありそうだ。
新しく買った自転車で、心地よい春の風を感じながら図書館に向かう。
次第に心地よい風は暑くなり、少しばかり汗ばんできた。
自分でお嬢様とは言いたくないけれど、ああいう家庭で育つと、どうしても体力がつかないものだ。
汗ばむのは嫌いだから、歩いて向かうことにした。
坂を上ると徐々に図書館が見えてきた。
近くにパン屋があることは知らなかった。後で買って帰ろう。
今買ったら眠くなってしまいそうだから。
時刻は12時を過ぎていた。
中に入ると冷房が効いており、本が読みやすい環境になっていた。有難いな。こういうことに感謝をしなさいと、親からよく言われた。
そういった点は尊敬できるのだが。
なぜか同級生に敬語を使ってしまう癖は治らなかったな。
窓際に歩いていくと、ミステリーコーナーの看板が見えた。
一気に心が昂ぶる。
側の机では男性が一人座っていた。
眠たいのか、うとうとしながら本を読んでいる。
この人もミステリー好きなのかな。
本の内容が見たくて、こっそり横を通り抜ける。
長い髪がふわりと舞った。
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