第三章 あなたのことは必ず
月野から薦められた本を長時間読んだ僕は、一時限目が始まる頃に目が覚めた。
完全に寝坊していしまった。
最悪だ...
幸い試験があったわけではないのが不幸中の幸い。
だが試験前の大事な授業を休むのは痛かった。
成瀬が同じ講義だったから、今度ノート見せてもらおう
でもあいつ、ちゃんとノート取ってるのかな?
心地よく疲れた体をなんとか起こし、大きなあくびをしてみる。
遅刻したのに気分がいい。
面白い小説を読んだ次の日は、大体こんな気持ちになる。
昔からの決まり事だ。
朝はいつも通り食パン一枚と、
卵を簡単に焼いたものだけ。
もはやスクランブルエッグとも言えない、卵焼きと中間の状態だ。
そんな軽い食事を済ませ、どうしたものかと考える。
というのも、講義は一時限目しかないのだから、
大学に行く必要がない。
ここで勉強するのも集中力が切れる。
かといってコーヒー店に行って
意識高そうに勉強するのも、得意ではない。
仕方がない
少し遠いが図書館に行こう
今日も25度を超えるという予報が、
部屋の隅で光を放っているテレビから聞こえてきた。
そういえば電気も付けていなかった
少しぼーっとしてるなぁ
そこまで服には関心がないので、
いつも通りの白いシャツに軽い通気性のよいジャケットとジーンズを身にまとい、部屋を出る。
僕の他に誰もいないのだけれど、「行ってきます」は
必ず言うようにしている。
いつか一緒に住んでくれる、誰かのために。
原付に乗って図書館へと向かう道のりは、割と好きだった。
少し山の上にある図書館へは、長い坂道を登らなくてはいけない。
ただ、その脇は見晴らしがいい。
この地域全体を見渡せる。夜には星も綺麗だ。
どうか、ここは観光名所になりませんように
そんな所有欲が心の隅に少しだけ輝いている。
まるで家のテレビのように。
図書館に着くと、まだそれほど人はいなかった。
それもそうか
まだ10時前だもんな
図書館には勉強スペースが珍しく設けられている。
学生にとっては有難い。
そこに向かうまでの廊下で、前を歩いている女性に目がいった。
後ろ姿だからわかりづらいけれど、僕には誰なのかが分かる。
髪の長さや背丈から想像したのではなく、その背中から誰なのかが分かるのだ。
寝坊してみるのも悪くないな。
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