あなたの見る月は綺麗ですか_

第二章 今日も日は昇る

あ、あの背中は...

20メートル後ろからでも、彼の背中は分かる。

身長は平均的だから、後ろからは背中や髪で誰なのかを判断するのが一般的だけど、
彼の背中だけは、よく分かる。


いつも見ているからかな…
そうだ、紹介したい本があるんだった


「あの、榊君はこのミステリー好きですか?」


それから数秒程いつも通り話して、いつも通り別れる。

読んだことあったんだ
じゃあ今度は読んだことないようなミステリー、紹介しなきゃ
今日はサークル来るかな?聞けばよかったな

今日は私も彼も試験がある。

私は芸術文化学部だから実技が多いけれど、彼は筆記がメイン。

大変なんだろうなと思いながら、自分の心配も頭の片隅でしてみる。
デッサンは苦手だ。どちらかというと、動いているモノを目で押さえて、
それを書く方が得意だ。

ある一つの例を除いては...


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ようやく試験が終わった。

一応サークルには顔を出しておこう。美術部もあるから、一瞬だけ。


サークル・部活棟と学生の間で読んでいる建物は、木で出来ている歴史のある建物だ。

その雰囲気が私は好きで、その近くに植えてある大きな桜を、
建物と一緒に描くことがよくある。

例の如く、木が動いているところを描くのは得意だ。


ミステリーサークルの部室に行くと、
(サークル室と言った方がいいのかな)

彼はいなかった。

それもそうか
試験忙しいもんね


少しだけ本を読むことにした。まだ美術部の開始時刻には余裕がある。
といっても、試験期間中だからそこまで人は来ないだろうな。

彼に紹介した本を、もう一度ゆっくり読み始める。
やっぱりいいなと、改めて思う。
導入の部分や言葉遣いが。


そんな懐かしい思いに浸る、ある日の夏の昼過ぎである。


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結局ミステリーサークルの部室にずっといた。

部員は誰も来なかった。試験期間中ということもあるが、何より部員自体が少ない。

今年入った新入生を合わせて10人にも及ばない。

でも私はそれでいいと思っている。
ミステリー好きな人が、この場所に来てミステリーに浸って帰っていくならそれで。


すっかり夕方になってしまった。
ゆっくり読んでいたせいか、1章を読む間に日が暮れていた。
ゆっくりにも程がある。

私は基本的にバスで通学している。でも夏は特別で、自転車で通学している。

わざわざ大学の下に置いて、階段を上がって大学に来ているのだ。

なんでそんな手間なことをするのか。

勿論、風を感じたいから。


今日も夏独特の風を感じながらアパートに帰る。
この時間が本当に好きだなと、夏が来るたびに思うのだ。

家に着くころには夜かな

空にはうっすらと月が見える。
朝には日が昇ってくる。

そんな当たり前の毎日が来ればいいなと、心の中で思うのだ。




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