本が紡ぐ、甘い思い
家の近所の川の橋を渡り、細い道を行ったところにわりと新しめの古本屋がある。本を囲む環境は新しいのに、本自体は古びている。そのどこか不釣り合いなところにちょっとした魅力を感じている。
この古本屋はカフェも併設されているため、よく足を運んでいる。本を買い、そのままカフェで読むことができる。
今日も2冊ほど本を買い、またいつもの席で本を読む。ジャンルはミステリーでも自己啓発でもコメディーでも、何でもよかった。私はただ、この空間で静かに本を読みたいだけなのだ。
もちろん、本の内容は頭に入っている。自分に酔うためだけにこの本屋に来ていては、店主に対して失礼極まりないのだから。本たちにも失礼ということは言うまでもない。
いつもの席からは来店する人も本棚も、よく見える。別に見たいわけではないのだが、この席に一度座ってしまったからには席を変えたくないのだ。スポーツ選手でいうルーティーンと似たような感じか。
小1時間ほど、有名小説家の本を読みふけっていると、男性と女性が店に入ってきたのが見えた。まだ幼そうだ。幼いといっても中学生くらいなのだが。
本棚の前に行き、何か話しながら本を選んでいるように見えるが、私にはよく聞こえない。時に店主に相談しながら本を選んでいる。よほど本の選定が重要なのだろう。
男性の方は退屈そうにあくびをしながら、辺りを見渡している。それを見た女性はやや怒っているようにも見える。店主はそれを見ながら微笑んでいる。
なんとも微笑ましい光景だ。私はしばし笑顔で彼らを眺めていた。
30分程で本の選定は終ったようだ。何のために本を選んでいたのかは結局分からなかった。2人は店主にお辞儀し、店を後にした。
その瞬間、本の表紙が少しだけ見えた。
そういうことか。
そういえばこの本屋はその時期に合った本をよく置いていたな。
外は雪が降り始めていた。2月も中旬に差し掛かっている。
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