お世話になりました。
「春から新しい子達が何人か入るみたいだし、来年度からは自分で頑張ってくれる?」
勤め先の事務員さんからの、やんわりとした"退寮通告"
そこからはじめての家探しが始まった。
当時付き合っていた彼女にその事を伝えると、
「そっかー、なら1人より2人で住む方がなにかと楽かもねー。」
隣県に住んでいた彼女とは週に一度のペースで会っていた。
確かに一緒に住めば交通費も抑えられるし、毎日会える。
「宜しくお願いします。」
当時の僕には願ったり叶ったりだった。
そこからは、しっかり者の彼女のお陰であれよあれよと物事が進んでいった。
「角部屋、二階以上、東向き、独立洗面台、お風呂トイレは別、キッチンはガス、喧嘩した時ように寝室は2つ!」
家具や家電もまとめ買いをして、あっという間に2人の同棲生活が始まった。
親御さんの了承を得るために持っていった菓子折りの包み紙が、手汗で湿って不恰好になっていたのは今でもよく覚えている。
近くに高い建物もなく、リビングの窓からは近所の川が見え、四季折々に表情を変える景色を楽しんでいた。
家事などのルールもいくつか作り、あまり大きな喧嘩も無く、日々楽しく過ごしていた。
そんな生活も2年目に入ったある日、僕は彼女に前々から伝えようと思っていた事を伝えた。
「海外に行きたいと思ってる。」
返事は早かった。
「ずっと知ってたよ。うん、応援してるね。」
この意味が
"私は一緒には行けません"
と理解するのにさほど時間はかからなかった。
それからまた暫くして、彼女から一件のメールが届いた。
件名 : お疲れ様!
本文 : まとまった休みがとれたから、親と旅行にいってくるね。久しぶりに親孝行してきます。
お世話になりました。
旅行から帰ってきたら今後の事をどうしようかと話そうと考えていた。
その数日後の仕事帰り、
「ただいま〜。」
普段から家にお互いがいなくても、毎日いってきますとただいまは言っていたが、その日は自分の声がよく響くことにすぐに違和感を覚えた。
(まさか!)
僕に責任を感じさせない為の彼女なりの最大の配慮だったと今となっては思う。
あの時しっかりと向き合ってたらまた違ってたのかな。
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