米国商業用不動産:止まらない延滞率の上昇と不良債権増加
米国商業用不動産の延滞率上昇と不良債権増加が止まらない。
銀行が保有する商業用不動産ローンの2024年Q2時点の延滞率は2.01%(オフィス部門の延滞率は7.2%)、不良債権比率は1.75%へ上昇し、2024年10月時点において、不良債権は1,000億ドルを超え、潜在的な不良債権も2,600億ドルを超えた。
今後も厳しい状況が続くだろう。主な理由として以下があげられる。
・商業用不動産価格の下落から担保割れの物件も多いこと
・金利の高止まりにより、ローンの借換えが困難になっていること
・オフィス部門では在宅勤務の定着に伴う需給悪化が続いていること
商業用不動産価格は、直近横ばいが続いているものの、ピークから約20%下落しており、現在は2016年初頭と同水準である。すなわち、2016年以降の商業用不動産の多くが元本割れである。
また、NBER(全米経済研究所)によると、CMBSにおける試算では、商業用不動産市場全体で14.3%、オフィス向けで44.6%が担保割れという(2023年12月時点)。
米国の商業用不動産ローン約6兆ドルの内、CMBSは約10%を占めるに過ぎないため、CMBSが市場全体を映す鏡とは言えないものの、担保割れの物件が多いのは事実だ。2023年12月以降も商業用不動産価格はおおむね横ばいのため、状況はあまり改善していないだろう。
次に、金利の高止まりによる悪影響については、借換えを行うと、不動産収入で債務返済をまかなえなくなる物件が多く存在する。(商業用不動産ローンは住宅ローンと異なり、基本的により短期間で借換えを行っていく。)
同じくNBER(全米経済研究所)の資料では、借換えを行った場合、DSCR*が1を下回ると想定される割合は、市場全体で17.2%、オフィス向けで24.3%となっている(2023年末時点)。
こちらは、今年に入ってFRBによる利下げが始まっているため、状況はやや改善している可能性はあるものの、コロナ以前の金利水準に戻るのは当面先になりそうだ。
参考までに、以下赤丸はLTV100%以上(担保割れ)かつローン借換え後DSCR1以下(収入<返済)という救いようがない物件が、市場全体で4.5%、オフィス向けで14.4%あるということである。よく考えれば、2016年以降の物件は、不動産価格は下がる、金利は上がるという泣きっ面に蜂の状況のため、こういった物件が出るのもやむを得ない。
最後に、在宅勤務の増加によるオフィス需要の悪化については、最近では、Amazon、DELL、Metaなど、各社がオフィス回帰の動きを強めるものの、在宅と出社を組み合わせるハイブリッドワークが根付いたことを考えると、オフィス市場がコロナ以前に戻ることは少なくとも短期的には難しい。
事実、空室率の上昇も止まらない。MOODY’Sによると、主要都市平均で20.1%と過去最高である。
サンフランシスコやオースティンの空室率は27.7%のようだ。ベイエリア26.4%、シアトル25.8%、デンバー24.6%がそれに続く。従って、苦境が続く米国商業用不動産市場のなかでも、特にオフィス部門は、需要の減退から構造不況に陥っているため、解決にはより時間を要する。
低インフレ、低金利、オフィス勤務という長年の経済前提が崩れた。高金利はインフレ抑制に役立つが、商業用不動産や家計債務などの経済の急所を突く。今後も商業用不動産ローンの償還は2028年まで高水準で続くと予想されているため、高金利による借換えで立ち行かなくなる物件もますます多く出てくるだろう。
おそらく現在の好景気を維持したまま、インフレの低下基調が続き、FF金利を下げ続けることができれば、オフィスなどの一部セクターを除き、商業用不動産問題は霧散する。金利が下がれば投資機運の復活により不動産価格は上昇し、低金利によりローンの借換えもうまくいき、コスト低下により収益も上がるからだ。
しかし、景気後退による金利の急低下となれば、失業者の増加、オフィス需要の低下、空室率の上昇、商業用不動産価格の下落、担保割れ物件の増加、不動産の投げ売り、そしてさらなる不動産価格の下落と、負のスパイラルに陥る可能性がある。
トランプ次期大統領もまずはインフレ抑制につながる政策を実行し、FRBが金利を下げられる環境作りをすることを優先すべきではないか。減税、関税の引き上げ、移民の強制送還は、実行するにせよ、インフレ低下後が良いだろう。かじ取りを誤ると、高金利に耐えられなくなった商業用不動産や家計債務が火を噴き、招かざる景気後退に突入する。