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映画 坂本龍一「OPUS」に寄せて

至福の体験だった。
音楽ライブの映像は、途中で飽きが来るものと覚悟して望んだが、完全に裏切られました。

映像は終始モノクロ。
同じスタジオで、セリフは数ヶ所。
坂本龍一の演奏とカメラワークのみ。
そんな制約の中で、豊穣な表現をぶつけられ続け、前のめりで、背筋を正し鑑賞しました。

癌に侵されながら、体力を振り絞って撮影に臨み、苦悩の表情から絞り出すように表現された繊細な旋律

坂本龍一の顔からは、未練、到達、諦観、至福、時に辟易まで読み取れる

指捌きは慎重で繊細、最後のタッチの後の残響音を掴むような指仕草

映画でありながら、やはりアート作品なのだ。音と映像、坂本龍一自身の表情や仕草、周りの空気もまとい、初めて成り立つ作品。

旋律の向こう側に、私たちの心はモロッコのカスバへ、清朝最後の城へ、服好きの妻を亡くした画家の住処へ、時と場所を縦横無尽に往来する。

あえてミステイクの曲を採用している。何度か弾き直しの中で暗雲漂うような音の重なりの中から急に晴れ間が見えるかのような遷移。坂本が一言「もう一回やろうか」。しかしこれが採用され、ひとつの作品になったのも良い。

この作品は、坂本龍一の辞世の句である
そして何よりも残された私達への最後のギフトである。

最後にこの一文で締められる
"Ars longa, vita brevis"
(芸術は長く、人生は短し)


まさに、氏の尽きない表現への希求が現れている

長きに渡り、豊かな表現で私達の生活に彩りをくれた氏に感謝の気持ちを抱きながら、葬儀に参列した気持ちで最後まで堪能した。
心からご冥福をお祈りしたい


(補足)
坂本龍一音響監修の109シネマプレミアム(歌舞伎町)で鑑賞した。4500円というプライスも驚くが、映画鑑賞の体験を通り越した満足感はお釣りがくるものだった。

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