シン・ニホン
本の紹介者:江草 嘉和 https://note.com/yoshikazuegusa
こんな人に読んで欲しい
・ 一般的な感情論ではなく、ファクトとロジックで考えたい人
・ 課題解決力を鍛えたい人
・「日本」という国が好きで、少しでも良くしたいと考えている全ての人
1.衝撃
「イシューからはじめよ」の安宅和人さんの新刊ということで、期待を持って読み始めたが、期待以上に、読みながら何度も心が揺さぶられた。ここ数年読んだ本の中でも、以下の点で圧倒的だった。
① 広範囲かつ精緻なファクトとロジック
「自分を取り巻く現実を直視しないのは人の常だが、それにしても、この世の中の変化と意味合いをファクト(事実)に 基づき、全体観を持って語る 建設的な議論はとても少ない」
② 「課題」だけではなく「課題解決」を考え、仕掛ける、当事者意識
「もうそろそろ、人に未来を聞くのはやめよう。そしてどんな社会を僕ら が作り、残すのか、考えて仕掛けていこう。」
③ 過去の世代からバトンを受け取り、次の世代へ繋いでいく、社会の一員としての使命感・責任感
「日本で育つ我々の子どもだけが時代遅れの教育を受けて、これ以上この社会が立ち遅れてもいいんですか。彼らの人生とこの社会の未来に責任を取れるんですか」
*「 」内は本文より抜粋
2.本書の構成 - 秀逸なポイント
本書は一言でいうと、「日本」という国家のマネジメントの指南書である。マネジメントとは、本書では以下のように紹介されている。
(0) あるべき姿を見極め、設定する
(1) いい仕事をする(顧客を生み出す、価値を提供する、低廉 に回す、リスクを回避する 他)
(2) いい人を採って、いい人を育て、維持する
(3) 以上の実現のためにリソースを適切に配分し運用する
本書では、「データ x AI」を一つの大きな軸として、世界で起きている変化の意味合いや、日本の現状及び日本の勝ち筋、それを実現するための人材と、その人材の育成方法、そして人材育成を可能にするリソース配分を、現実的に示している。
特に秀逸と感じたのは以下3点だ。
①課題解決への道筋
雑とした問題意識の提示ではなく、精緻なファクトを示すことで、問題を細分化して特定し、課題解決への道筋を示している。
例えば、「日本の生産性は低い」という抽象的な悲観論で終わるのではなく、産業をMECEに分けて、ドイツ、英国、フランス、ドイツ、アメリカと時間軸とともに生産性を相対的に比較して、「だからココの生産性の伸びしろはある」とわかりやすく論じている。
②ポジティブ思考
①の課題解決にもつながるが、なぜダメなのかで終わらず、どうすれば問題が解決できるかということを、現実的かつポジティブに提示している。本書のタイトル、シン・ニホンの由来にもなった、映画の言葉を信じて前提としている。
「この国はスクラップ&ビルドでのし上がってきた。今度も立ち上がる」
③モデル化
どの項も、とても分かりやすい。理由の一つは、概念を分かりやすくモデル化して解説しているためだ。特に対象の要素分解が分かりやすかったので、いくつか紹介しておく。
・ 計算機 x アルゴリズム x データ = AI
・ 未来 = 夢 x 技術 x デザイン
・ 仕事 = 力 x 距離 , 力 = 質量 x 加速度
・ 母国語 + 世界語 + 問題解決能力 + デジタルxAI リテラシー
(現代のリベラルアーツ)
・ 知覚する力、生命力、人間力
・ 運、根、勘、チャーム
3.私にとっての意味合い
(1)経営者として
知らず知らずのうちに、自社のサービスに「データ」や「AI」を掛け合わせることができないか、考えることが癖になってきていたが、本書を読んで、今後さらにその思考が強まると感じた。具体的に一つサービスを思いついたので、試してみたい。
既存システム内での改善・改良ではなく、今後やってくるデータ x AIの第2,3の波に備えて、AI Ready の組織を整えていくことが、経営者としての責任の一つである。
(2)父親として
私が受けてきた教育を押し付けてしまったら、私の子どもたちは幸せになれない。これからは、「スポンジ力」より「気づく力」なのだ。
「 気をつけ」「 前ならえ」の廃止からシン・ニホンは始まる」
子どもたちには以下3点を意識して接していこうと思う。
① ファクトとロジックの重要性を伝える
② 「知覚」できる機会をつくる
③ 「異質」を褒める
(3)社会人として
本書を通じて感じたのは、安宅さんの社会に対する責任感と愛情である。
やり過ごすこもできるのに、それを是としない。
「臭いものに蓋をすることなく、知恵とリソースを投下すべき問題をむしろ表に出し、解決を進めるべきだ」
「未来は目指すものであり、創るもの」
私もよりよい社会を主体的に実現する一員でありたいと思う。
最後に
安宅さんがどんな想いでこの本を書いたのか、もっと知りたくなり調べたところ、編集に関わった方のNoteを見つけた。
「知的誠実」に一切の妥協なく取り組まれた安宅さんのメッセージがヒシヒシと伝わった。
「誰もが、なぜあのとき、自分たちは仕掛けなかったのか、見て見ぬ振りをしたのかと気づくときが来るだろう」
メッセージを受け取った一人として、私も仕掛けていきたいと思う。