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学園祭シーズンになると思い出す・・・

ボクとパソコンとの関わりはかなり古い(だって、今年 61歳になる訳なので当たり前の話ではある)。 4歳年上の兄貴が大学に入ってすぐに、貯金を叩いて当時相当高額だったパソコンを購入した。それを傍目に見て、兄貴の目を盗んで密かにいじったりしていたのがボクとパソコンの関係の始まりである。ボクはまだ中学生だった。
高校時代は、部活にバンドに(受験勉強も一応したっけ)と忙しくしていたのでパソコンとの関係は大きく進展しなかったけれど、大学に入学したのを機に、今度はボクが貯金を叩いて上記の兄貴のパソコンを中古で下取りした。 その時をきっかけに本格的にパソコンとボクの関係性が始まった。

譲り受けたパソコンは、日立べシックマスターレベル3。 メモリ空間はたったの64kbytes。しかもその大部分を ROM が占めていたし、64Kbytes をフルに使うには追加の RAM カードを購入する必要があったので、自作プログラムのために使える空間は10kbytes くらい、メモリを増設しても 30Kbytes ほどじゃなかったかと記憶している。

大学に入ってすぐにパソコンサークルに入った・・・というか有志の何人かと大学生協の職員さんでサークルを立ち上げ、メンバーのうち1人が所有していた当時の最新機である NEC PC-8801 とボクのレベル3をメンバーの下宿や大学の教室に持ち込んでいじっていたのを覚えている。 サークル活動と言っても何人かで集まって BASIC で「あーでもない・こーでもない」と言いながらプログラムを作っている程度だったのだけれど、秋の学園祭に向けてパソコンを使って何かできないかという話が持ち上がった。 色々なアイデアがあがったのだけれど、結局実現したのは「パソコン入門教室30分 100円」と「パソコン性格診断&恋人リサーチ 各々 100円」となんとも可愛らしいもの。 ただ後にこの「パソコン入門教室」に参加したサラリーマンの方からパソコン家庭教師と言う美味しいバイトの話が舞い込んだり、「パソコン性格診断&恋人リサーチ」はその後数年にわたってボク達のパソコンサークルの学園祭での目玉企画になっていく。

その「恋人リサーチ」の話。
ボクが大学生だった 1980年代には「個人情報保護」なんて概念は全くなかったし携帯電話もない。 電話と言えば家庭に一台のいわゆる「家電」ぐらい。 そんな状況なので、例えば「パソコン性格診断」や「恋人リサーチ」の基礎情報として、アンケート形式のいくつかの質問と一緒に、実名、性別、年齢、住所、電話番号 を記入してもらう事に対しては、ボク達も、また記入する側のお客さんも、全くの抵抗がない時代であった。
性格診断用には、その方の性格を割り出すための質問(この内容も市販されている書籍から頂いてきたものなのだけれど)があり、それに全て回答すると「あなたの性格は・・・・」と言うような診断書がプリントアウトされてきて、それを提供することになる。 ただし、この質問は実は「恋人リサーチ」と共有されており、それらの質問への回答により相性の良いと思われる相手が探し出されると言う仕組みになっている。

つまり、「恋人リサーチ」なんて興味がなくても、「性格診断」を実施した人のデータはその本人に何の断りもなく「恋人リサーチ」の元データとして使われる仕組みになっている。 今思えば無茶苦茶な話ではあるが・・・。
なので、この「パソコン性格診断&恋人リサーチ」を最初に実施した学園祭の初日では、何せ元データがほぼゼロの状態なので恋人リサーチは全く機能しなかった。そこで、学園祭初日は学園祭に出展している他のサークルのメンバーに頼み込んで「性格診断のアンケート」に回答してもらい、個人データを躍起になって集めて回った。
その結果、初日の夕方ぐらいから「恋人リサーチ」もなんとなくそれなりのリサーチ結果(相性の良いお相手)が得られるようになってきた。 で、2日め3日めと日にちを追うごとに個人データは増え続け、学園祭終了後には胸をはって「恋人リサーチ」と言えるぐらいのデータが集まっていた。

そうなると、1回の学園祭で終わらせるのは勿体無いということになり、2年目の学園祭でも前年の個人データに追加する形でデータを蓄積しつつ「恋人リサーチ」企画を継続したし、さらには自分の学部の学園祭だけでは勿体無いということになり、他の学部の学園祭でも実施したりしているうちに集まった「個人データ」の量は有に千人レベルに達していた。 ある日、自分が下宿していたアパートに戻ってご飯を食べていたら、隣の部屋に住む若夫婦の会話が漏れ聞こえてきた・・・ 「この前さぁ、○○大の学祭でさぁ、恋人リサーチやったらさぁ、なんか結構若い男の子が見つかったんだよねぇ・・・」

当時、パソコンを使ってそんなことやってるのはボク達だけだったので、なんだか自分たちが遊びで始めたことが、学外の普通の人たちにまで広がっているんだなぁ・・・なんて感動したのを覚えている。

その後、この恋人リサーチは数年に渡って継続されていたが、3年生だったか4年生だったかの学園祭の前に、他の企画の準備していたサークルのメンバーの一人が、この恋人リサーチの個人データの入ったフロッピーディスクを間違えて初期化してしまっことにより、本企画は終了してしまうことになった(当時のフロッピーディスクは8インチで、1枚当たりの値段も高く、貧乏学生のボクたちは、自分が作ったプログラムを保存するために、1枚のフロッピーを何人かで共有していた)。 ただ、特に「個人情報がどうのこうの」と騒がれている昨今の状況から思えば、非常に平和的な終わり方だったような気がしている。

で、そのデータを消去してしまったメンバーが準備していたのは、複数台のパソコンをシリアルケーブルで繋いで情報をやりとりするというある種のネットワークを構築すると言うものであった。
当時、他のメンバー1人とボクとの間で2台のパソコンをシリアルケーブルで接続して2人のユーザーが対戦型のゲームをするというプログラムを作成していた。ゲームそのものは単純なものだったが、2台のパソコンをで繋いで2人が別々のパソコンを操作しながら対戦できるというところと、繋いだ2台のパソコンの片側をコンピュータ、もう片方を人間が操作しながら対戦できると言うのがミソだった。
また、それとは別に「恋人リサーチ」を実施するのに、データを入力するパソコンとリサーチ結果を出力するパソコンを別々にした方が効率が良いと言う話になり、このためにも複数のパソコンを接続してデータをやりとりする必要が出てきた。 だったら、対戦ゲーム用のPCも、恋人リサーチ用のPCも、同じ一本のケーブルにつないで各々がデータをやり取りできた方が良いんじゃないの? と言う話になり、独自に小さなPCネットワークを作るという話に広がって行った。
1984年ごろの話なので、Internet が USA で産声を上げるかどうかというタイミングだった頃に(自慢じゃないけど)ボク達が作ろうとしていたネットワークは相当先進的なモノだったはずである。 ただ、その動機が「恋人リサーチ」を効率良くするためというのが情けないところではあるが。

で、結局、上述の「過去データの誤削除事故」と、対戦型ゲームの内容に凝りすぎてプログラムがメモリに乗り切らないサイズになってしまった(これがせいで、オプションで売られていた追加のメモリ 16Kbytes を貯金をはたいて購入したのだけれどそれでも入りきらなかった)ことで、恋人リサーチも対戦型ゲームも実現しなかったので、このネットワークも陽の目をみないまま、学園祭は終わってしまった。

最近になって当時のことを思い起こしてみると、例えば「恋人リサーチ」は今で言うところの「マッチングアプリ」の走りだった訳だし、ここ10年ぐらいで世に出て来た複数台のデバイスをネットでつないで対戦するゲームなんてモノをインターネットがない時代から試行していた訳なので、BASIC が動く 8bits パソコンが主流だった時代としてはボク達ってかなり先進的なことをやっていたんだなぁと感慨深い気持ちになってしまった。

当時はとにかく BASIC でソフトを作ることが楽しくて、できたプログラムで一儲けするなんて発想はほとんどなかったのだけれど、当時のメンバーの中にビジネスセンスに長けているやつが居たら、ボク達のその後の人生も大きく変わっていたのかもしれないなんて思う反面、まぁ、そうならなかったのは当時のメンバーが凡人集団だったという事なんだろうなぁ・・・と思う今日この頃なのです。

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