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「仲の町3バカトリオどたばだ奮闘記」 第2章 町立 勝浦小学校  7


第2章 町立 勝浦小学校  7
 
小学校1年生の秋の雨がよく降るある日、いつもなら午前中に仕事から帰ってきて、昼ご飯を食べてテレビを見たり今日買ったまぐろの帳面付けをしているお父ちゃんが僕が学校から帰ってきてもいなかった。「ただいま―、あれ、おとうちゃんどっかいったん。」「ああ、タケちゃんお帰り。おとうちゃん今日まだ帰ってきてないんや。連絡もないし。何しやるんやろねー。」あまりお母ちゃんは、おとうちゃんが遅いのも気にしてないみたいだった。「なぁ、今日もタコちゃんとナカシャと僕の部屋で遊ぶで」「あいよ」しばらくしてナカシャとタコちゃんがやってきた。その後しばらくしておとうちゃんが帰ってきた。「どしたん、遅かったやん。」おとうちゃんは、市場へ出かける格好のままで、長靴を脱ぎながら言った。「正やん亡くなったんや、さっき、自分の車の事故や」「えっ、ほんまかん。カズちゃんタケちゃんの部屋におるで」「悪いけど今すぐ家へ連れていったってくれ」「わかったよ」おかあちゃんが僕の部屋にやってきて「カズちゃん、おかあさん、用事あるんやて、おばちゃんもカズちゃんのおかあさんに用事あるさかいっしょに帰ろか」「えっ、今おもろいとこなんやけどなぁ。わかったよ、タケちゃん、ナカシャまた、明日ね。」「ああ、バイバイ」カズちゃんはおかあちゃんに連れられ帰っていった。僕はおとうちゃんに呼ばれた。「カズちゃんのお父さんが車の事故で亡くなったんや。」「亡くなったってどういうことや」「死んだんや」「うそやろ。」「ほんまや、おとうちゃん今病院にずっとおったんや。今日はさとる君に用事あるってもう帰ってもらいな。」「わかったよ」僕は信じられなかった。「ナカシャ悪いけど用事できたんで今日は帰ってくれるか。ごめんよ」「ああ、ええよ。また明日ね。」「うん。」ナカシャは、帰っていった。当然ナカシャには、タコちゃんのお父さんの事は言えなかった。僕もナカシャもよく遊んでもらい、タコちゃんや妹のマキちゃんが誕生日の時は、お父さんが腕を振るい大タコ焼きパーティーを開いてくれたりした。僕らはお父さんのタコ焼きが大好きだった。2日後、僕たち1年4組の生徒全員は担任の古田先生に連れられ小学校の近くのお寺に行った。タコちゃんのお母さんとタコちゃんと妹のマキちゃんが一番前に座っており、お父さんの写真が飾られていた。僕たちは、順番に紅葉みたいな小さな手で焼香をし写真に向かって手を合わせた。僕の番の時、座っているタコちゃんの方を見たが、僕はすぐに眼をそらした。子供心にもタコちゃんの顔が見えなかったのである。お父さんの告別式が終わる前に僕たちは学校に戻り家路に着いた。告別式の最後までいるとタコちゃんが僕たちと直接顔を合わせることとなると古田先生は思ったんだろう。その日から2日後いつものようにタコちゃんとナカシャが「タケちゃんいこー」って学校に行くため誘いに来た。いつものように学校に向かい授業を受けた。「はい、今日の授業はこれでおしまいです。」「きりーつ、れい。」「さようなら」僕たちは、帰る支度をしていた。「田村君、こっちへおいで」古田先生がタコちゃんを教室の前の方にある自分の机の方に呼んだ。先生は、腰をタコちゃんの背の高さまで落とし面と向かって小さな声で語り掛け、そのあとゆっくりと立ち上がり、「がんばるんやで、負けたらあかんで」と言いタコちゃんを抱き寄せた。後ろから僕は見ていたが、古田先生の肩が震えていた。   つづく。
 
 
 
 
 

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吉村 剛
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