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『東京ドタバタ日記』           第五章 さらば、坂本荘、さらば中野3

第五章 さらば、坂本荘、さらば中野3

「吉村君も、結局は田舎帰えってしまうんやなぁ、なあ、吉村君。上京した時は、そうや、俺たちはあいつらとは、違うんや。東京で頑張るんや。っていうてたのではないかな。」
西村と僕は新宿東口を出て例の店の方に歩いていた。「ああ、ゆうた。優策と会ったとき。3人でゆうた。飲みながら。俺らはあいつらとは違うんや。特に西村先生はあの卒業アルバムのふてくされた顔見事でございました。あっはははは。」店の前に着いた。そうアカシアである。西村に僕が、田舎に帰ることになった話を電話でした時、東京で最後に食べたい店はどこやと聞かれ迷わずアカシアのロールキャベツやと応えたからである。僕の東京生活もここから始まったことやし。僕らは店に入って、ロールキャベツとハンバーグのセットを頼んだ。「あなたが、いなくなったら私何を支えに生きていけばいいの」とわざと西村は女言葉で聞いてきた。「やめろ、気持ち悪い。冗談でもやめろ。飯まずくなる。」
「だって、あなたわたしの事一生しあわせにするっていってくれたじゃない。」「だからおまえ、やめろ。ばかたれ。」「いやー悪い、悪い。でも寂しくなるな。遊び相手ひとりいなくなるからな。親友が転校していくみたいだ.」僕らは絶品のロールキャベツとハンバークセットを食べながらこんな話ばかりしていた。本当はお互いに寂しいのである。男の照れ隠しというものである。「今日は、おまえとご飯食べるの最後だからおまえ、おごれ。」西村は僕に言った。「おまえなぁ、普通は、おまえがおごるやろ。」と僕は言った。「俺らはあいつらとは、違うんだろ。逆のことしなきゃ。」そういって西村は笑った。「叶わんなぁ」僕は、代金払いそして、僕らはしばらく新宿の街を思い出の紀伊国屋書店とか、ぶらつき夕方、西村のアパートに行った。僕が田舎に帰る5日前の日曜日の事だった。その日は昼間アカシアとか新宿をぶらつき夜、椎名町の北の誉れで藤木たちも交えて送別会を開いてくれることとなっていた。夕方になり、いつものごとく自転車で藤木は現れ、荒川も電車でやってきた。しばらくして西村は、「さてと、メンバーも大体そろったけどもう一人大事な人が来るのであります。」僕は思い当たらない。西村以外のメンバーも分からないという顔をしている。「えっ、誰や西村。」西村はニヤニヤして言わない。しはらくして「こんばんわ。」と若い女性の声がした。西村は玄関に迎えに行き、僕らの前にかわいい背の小さな女性が現れた。「絵里ちゃーん」西村以外の男どもが一斉に声を上げた。絵里ちゃんはいわば、日芸出身の同級生である。皆知っている。「お呼びいただいてありがとうございます。」と絵里ちゃんはにっこり笑った。男どもは一斉に、にやにや笑った。どぶ川に咲いた一輪の美しい花である。「ようし、いくぞ。」と西村が号令をかけ野獣4匹と美女1人は北の誉れに繰り出したのである。予約席になっており、僕らの前には、マスターが腕をふるった料理が並んでいた。「えーと男は生ビールだけど、絵里ちゃんは、」と藤木がきいた。ここで、「私、飲めないんですう。ウーロン茶ください」なんて言う女性はまず、ダメだ。絵里ちゃんは違った。さすが、西村の彼女である。「私も生中くださーい」である。生中が運ばれ、いざ西村の号令で乾杯かと思ったが、西村が改まって「本日は、吉村君田舎へ帰るのね、わたし寂しいわ会ですが、その前にわたくし西村から大事な報告があります。」皆こいつアホちゃうかという顔で西村を見ている。「わたくし西村と、ここにいる絵里ちゃんは、近々結婚することとなりましたー。ぱちぱちぱち」絵里ちゃんは、ほっぺを真っ赤にして下を向いている。西村以外の男どもは、一斉に「えー。本当か。西村、おまえーー。」って、西村を見ている。っていうか、「俺らより、先に幸せになって、こいつゆるさん」って言う顔で見ている。「いやいや、本当であります。」「だから、今夜は吉村君、田舎に帰ってしまうのね。わたし寂しいわ、でも西村君と絵里ちゃんは結婚してしまうんだもんね。おめでとう会であります。かんぱーい」「かんぱーい」ぐびぐびぐび。男どもと絵里ちゃんも、ぐびぐび飲んだ。男どもはもう、僕の事なんかどうでもよい。話の内容は、西村の結婚の事が中心だ。僕はそれで良かった。
「なあ、西村、俺、絵里ちゃん勝浦連れて帰るからおまえら別れろ。」と僕。「そうね。吉村君の方が格好いいから、わたし勝浦に着いていちゃおうかな。」と絵里ちゃん。なかなかのノリである。絵里ちゃんと初めて会った時も、彼女も僕も全然人見知りせず、すぐに絵里ちゃんと打ち解けた。冗談を言うとぼこすか頭を、たたいてくるような女の子だった。西村にはもったいないくらいぴったりな女の子だと思った。僕の前の席に西村そしてその横に絵里ちゃんが座ってる。僕はジョッキを差しだし「良かったな。西村、絵里ちゃんこのアホ頼むで」と2人に乾杯した。西村は、珍しくまじめに「ありがとうな」といい、絵里ちゃんも「ありがとう、でも寂しくなるね。」といった。「うん、もうすぐ田舎帰るけど結婚式呼べよ。」と2人に言った。「結婚式は本当に親族だけで、あと披露宴みたいに大々的にはやらず、簡単なお披露目みたいにやりたいんだ。友達だけで肩ぐるしくなく。その時は来てくれよな。」「ああ、もちろん」そのあと僕らは終電近くまで飲み、それぞれ家路に着いた。もちろん絵里ちゃん以外の男は駅までの道で電信柱にしがみつくことは忘れなかった。こうして西村との東京での最後の夜は終わった。                                  。

           

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吉村 剛
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