「仲の町3バカトリオどたばだ奮闘記」 第3章 うれし悲しき那智中学校3
第3章 うれし悲しき那智中学校3
キッスとかディープパープルと出会った僕たちは、洋楽とりわけハードロックにどっぷりはまっていくわけだが、邦楽も聞いていた。イサオ君は、何故か五木ひろしのファンで、LPとか一杯持っていて僕にカセットに録音してくれたりした。また、ロッドスチュワートという、しわがれ声のボーカリストも大好きで、これもカセットでくれた。僕は前にも書いたが、さだまさしに、はまっており、ギターで練習もしていた。ナカシャのお姉さんが、甲斐バンドが好きで僕たちに聞かせてくれた。僕もナカシャも、これまたやられてしまって、ファンになり甲斐バンドも聞きまくった。要するに乾いたスッポンジが水を吸収するがごとく色々な音楽を吸収していったのである。今も甲斐バンドは大好きで僕の人生で一番のバンドだ。ロッドスチュワートも大好きなギタリストのジェフベックと昔からバンドを組んでいたりしたことも後々知ることとなる。中学1年生の2学期の終わり頃になると、僕は、さだまさし熱も冷め、甲斐バンドとキッス、デイープパープル中心になりまた、ギターでのコピーもこの3つに偏っていた。ある日、「俺、エレキのセット買おうと思うねん」とイサオ君がロッキンFという雑誌の裏表紙に載っている三光通販の「君もこれでギタリストだ」という広告を僕たちに見せた。アフロヘアーの兄ちゃんがレスポールモデルのエレキ抱えて、恍惚の表情でギターを弾いている広告で、レスポールモデルとアンプとシールド、教則本付きで15,000円と載っていた。「イサオ君、ほんまか、ええなぁ。で、レスポールモデルとストラトモデルどっち買うん。」と僕。「小遣いずうっと貯めていて何とか買えるんや、おれレスポールモデルで、シーちゃんもストラトモデル買ういうてたで」とイサオ君。「ええなぁ、こうたら、ナカシャとこへアンプも持ってきてバンドごっこしようら。」と僕「俺も欲しけどなぁ。金ないからしばらくガットギターでがまんかな。ナカシャは買わんの」と僕。「うーん。エレキ欲しけどなあ。どうするかわからんなあ」僕たちはナカシャとこでいつものごとくファンタグレープ飲みながら話した。2週間後の日曜日、イサオ君はバスで勝浦駅までエレキとアンプを運んできて、僕とナカシャは、勝浦駅まで向かいに行き、アンプを持ってあげた。今から「イサオ君エレキこうておめでとうお披露目セッション」をナカシャの屋根裏部屋でおこなうためである。ナカシャの部屋に着いた僕たちは、びっくりした。ナカシャのベットの脇になんとエレキが立てかけてある。ベッドにはアリアプロⅡとあり、ブラウンサンバーストのストラトモデル。約5万のエレキである。「おまえ、なんや、これ」と僕。「親戚の兄さんに安くゆずってもろた。アンプもあるで。」と壁際を指さした。「ローランドのボルト30やんかー」僕たちはこの頃やたらエレキのカタログや、アンプのカタログを見ていてかなり詳しくなっていたのである。今と違い親から買ってもらうとか、なかなかなかったんで、僕たちは小遣いをせっせと貯めてギターを手に入れたのであります。「ええやんかー」と僕。イサオ君のエレキも格好良く、ナカシャはストラト、イサオ君はレスポール、タケちゃんガットギターでセッション開始。
曲はスモーク・オン・ザ・ウオーター。ボーカル、ナカシャ。気分良くやっているとボーカルと違う声がアンプから。「エー、今日はあんまり釣れなんだのー」
ナカシャの部屋の前は港で漁船の無線をアンプが拾ってしまうのである。僕らは笑いながら、夜までセッションを続けた。 つづく。