バ〜ニラ、バニラッ高収入ぅ〜な話

フリーライブなどに出ていると、嗚呼、今日のお客さんは笑わない日だ、という時がある。

もちろん、出演している我々芸人の実力不足ということもあるけど、そのライブの空気感というか、友達(出演芸人)に呼ばれたけどそもそもお笑いが好きではない人が来ているとか諸々の理由が重なって笑えない空気感になっていることがある。

そんなある日、笑いがなかなか起こらないバトル制のフリーライブがあったのだけど、出番2番手ぐらいの芸人さんがお客さんにブチギレてしまった。

「おい!なんやねん、笑えや!こっち一生懸命やってんねんから、笑えや!お前ら何しに来てんねん?笑いに来たんちゃうんか!?笑えや!!」

心からの叫びだったのだろうけど、その声は虚しく、いや、逆にお客さんはどんどん引いて笑わなくなってしまうという悪循環を起こしてしまった。

あと、出番2番手でキレてしまうのは時期尚早すぎる気もする。

うん、絶対に早いと思う。
まだお客さんだって見始めたばかりなんだから見る大勢みたいなものになれていなかったに違いない。

だけど、その芸人さんがキレてしまったが最後、もう、笑える空気になるわけもなく、お客さんは萎縮とも苛立ちとも取れる空気となり、そのあと舞台へと出て行く芸人は片っ端からスベることとなった。

舞台へと出ていく芸人たちの表情を見ていると、死を決して戦場へと向かっていくような切迫感さえある。

気のせいか、槍を持ってる人もいた気がするし、いない気もする。

そんな中、一人、二人、三人…とバタバタと倒れていき、とうとうオレの出番がやってきた…。

もちろん、例に漏れずそのあとに出たオレのネタ中もお客さんの笑い声なんて聞こえるわけもなく、よく芸人が話す「クーラーの音が聞こえた」どころの話ではないレベルでお客さんの吐息の音さえ聞こえてきた。

もしかして、お客さんたち瞑想してる?とも思うほど静かだった。

すると、ネタを披露するオレの耳に吐息とは別の音が外から聞こえてきた。

「バーニラッバニラッ高収入〜♪」

大爆音の宣伝車。

いつもこの宣伝車が通ると、「爆音だな」と思っていたけれど、今日ほど「爆音すぎる」と思ったことはない。

オレのネタを遮るほどに、「バーニラッ、バニラッ高収入〜」というフレーズが鳴り響いている。

なんだったら、オレのネタの音響なのではないか?と疑ってしまうほどに鳴り響いている。

それでも、オレはネタをやめるわけにはいかないわけで、なんたって、フリーライブにはエントリー費というものを払っているし、この日のライブはお客さんの投票で上のライブに出れるかどうかが決まってしまう。

だけど、その宣伝車の爆音は止まらない。

サビではないメロディ部分までしっかりと聞き取れてしまうほどだった。

「V(ブイ)・A(エー)・N(エヌ)・I(アイ)・L(エル)・LA(エルエーッ)、バニラッ!!V・A・N・I・L・LA、バニラッ!!」

今まで気にもしていなかったサビ以外の歌詞までハッキリと聞こえてきた。

しかもなんなんだ、この語感にしっくりと響く耳心地の良いリズムは、、、

気がついたら、ネタとは全く関係ないところで、「バニラッ!」と手を挙げて叫びそうになってしまっていた。

まずい、このままだとネタがバニラに喰われてしまう!!

そんなことを思いながらネタをやったからか、リズムネタをやったあとぐらいに汗だくでネタを終えていた。

帰りしな、笑わないとわかっていても笑ってくれなかったという現実はズシリと響くもので、重い足を引きづり肩を落としながら帰っていると、オレの後ろからまたあの宣伝車が爆音をがなり立てて走ってきた。

やたら小気味の良いリズム、耳に残るフレーズ、、、騒音問題に発展しないとも言えない爆音、、、

オレはその宣伝車を見ながら、小さくつぶやいた。

「バニラッバニラッ高収入〜」

ネタってのは、こうやって口ずさみたくなったり、耳に残るような強烈なインパクトを残さないとダメなんだろうな。

気がついたら、YouTubeでその宣伝車の曲を検索し、聴きながら帰る自分がいた。

終わり


【ライブ告知】

✨2/19(月)✨
『ピンハネ』
開場:18:45開演:19:00(20:30終演予定)
料金:1000円
会場:中野シアターかざあな
MC:マカロネード(ネタあり)
阿弥阿弥、エザワぴーく、高橋丈太郎、ど〜ぶる、太り気味honey、前川正樹、よせやい太郎

※ネタ1本+ショートネタ+企画!

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