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「中身がスカスカな人」そういうあなたは?【物理】

言葉や行動に重みがない人のことを揶揄して「あいつは中身がスカスカな人間だ」などと言ったりします。

人格を否定するような言葉であまり好きではないのですが、では他人にそういった言葉を投げつける人は果たしてどれくらい中身が詰まった人間なのでしょうか。実際に考えてみます。


人間の身体は水が約6割を占めており、残りはほとんどタンパク質や脂質といった有機化合物です。
水はご存知H2O、水素原子2つと酸素原子1つでできています。
有機化合物というのは炭素を中心とした化合物の総称です。炭素以外の様々な元素と結合して作られますが、基本的には水素、酸素、窒素がほとんどです。

つまり、人間は大体「酸素」「炭素」「水素」「窒素」で構成されています。

この4つの元素に次いで多いのが、カルシウムやリンといった主要ミネラルと呼ばれる7種類の元素で、ここまでの11元素を合わせると質量比にして身体の99%以上をも占めています。

これらの元素の多くは原子単体で存在しているわけではなく、前述のとおりタンパク質や脂質といった分子の形で存在していますが、その分子が作られるときの結合の仕方はというとぴったりと密着しているわけではありません。
また、その分子どうしも隙間なく体内に箱詰めされているわけではありません。

つまり人間の身体をスーパーミクロな視点で見てみると、隙間だらけなのです。


さて、どれくらい隙間だらけなのか、仮にそういった結合間の距離や分子間の隙間などを全部無視して、ギュッとひたかたまりに集めることができたとした場合、その大きさ、つまり人間の身体の“中身”はどれくらいになるのでしょうか。実際に計算してみます。


原子は陽子と中性子と電子で構成されます。

電子は陽子や中性子と比べるとさらに小さく1000分の1とかそれくらいの大きさしかなく、かつ1つの原子に陽子と同じ数しか存在しないので今回は無視してしまってよさそうです。

陽子と中性子は物質の最小単位ではなくもっと細かく分解できるのですが、一旦ややこしいのでそれぞれ1つの球と考えるとします。
その大きさは計測方法にもよりますが大体どちらも同じくらいで、半径1フェムトメートル(=10^-15m=0.000000000000001m)程度と言われています※1

つまり陽子or中性子1個あたりの体積は大きめに見積もってこれくらいです。

4π/3 × (1×10^-15[m])^3 = 4.189..×10^-45 < 5×10^-45[m^3]


ここでちょっとだけ話がそれます。

一般的な炭素原子1つには陽子と中性子がそれぞれ6個合わせて12個含まれており、この炭素を12g量り取るとその中には全部で6.0221367×10^23個の炭素原子が存在します。
(このめちゃくちゃでかい数はアボガドロ数と呼ばれ、ミクロを扱う化学や物理の世界ではこのアボガドロ数=6.0221367×10^23個を1セットとした1molという単位を使ったりします、鉛筆12本で1ダースと言うのと同じノリです。)

陽子と中性子合わせて12個の原子が12gで6.0221367×10^23個ということは、逆に言えば原子1gの中には6.0221367×10^23個の陽子or中性子が存在していることになります。つまり重さから陽子と中性子の合計数を出すことができるということです。

これを踏まえて話を元に戻すと、体重60kgの人間に含まれる陽子or中性子の数は多めに見積もってこれくらいになります。

(60×10^3[g]) × (6.0221367×10^23[個]) = 3.613... ×10^28 < 4×10^28[個]


陽子or中性子1個あたりの体積はさっき求めたようにざっくり5×10^-45m^3だったので、人間1人分を構成する原子と中性子の体積は以下で求まります。

5×10^-45[m^3] × 4×10^28[個] = 2×10^-16[m^3] = 200[μm^3]


つまり、原子間の結合の距離や分子間の隙間を無視して、物理的な相互作用も一切考えず人間を構成する粒の大きさだけを考えてギュッと1つにまとめると、だいたいお米1粒の1000000000000分の1くらいの大きさになってしまうということが分かりました。
私たちの身体は詰まっているように見えてほとんどスカスカですなのですね。

「中身がスカスカな人間だね」と言われたら、「あなたもスカスカですね」と返して全く差し支えはなさそうです。

おしまい。

(計算間違いなどあったらご指摘ください...!)

aso


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