混濁日記 2020.0601-0607
#日記 #小説
2020.06.01
同居人の声が遠くから聞こえる。けれども何を言っているかよく聞き取れない。まるで水の中にいるみたいだ。それから体へ振動が伝わってきて世界が揺れはじめる。気づくと同居人が自分の名前を呼んでいる。そこでようやく自分の意識を取り戻した。
どうやら自宅らしい。一体いままで自分は何をしていて、いま何時なのか。取り戻された意識が急速に活動し始め、情報を集めだす。聞くともう6月1日の夕方らしい。覚えているもので最新の記憶は5月の最終週だからあれから1週間たっていることになる。自分の身に何が起こったか尋ねると同居人は覚えてないのかと言いながら話してくれた。
聞いた話だと赤羽6号から送られてきたメディアのうち、映像メディアに特殊なものが入っていたようだ。同居人が帰ってきた時点で自分は食い入るように何かの映像を見つめたまま食事もとらずに夜遅くまで起きていたらしい。次の日からいそいそと何かを用意し始める。様子がおかしいので呼びかけてみても返事は上の空。4日目あたりでさすがにおかしいと思ったのか検索履歴を見たところ薬品の通販サイトや手製の爆発物をつくる方法を調べていたらしい。そこでダンボールを漁って、原因である可能性の高い問題のメディアについてのドキュメントを見つけて自分を戻すために動いてくれていたらしい。
該当のメディアはどうやら見たものの脳に働きかけ、特定の人間に要人暗殺をさせる催眠のようなものをかけるメディアらしい。恐ろしく低い確率のはずだが自分はその条件に合致してしまったようだ。今見るとメディアに添付されている書類に説明と状況を理解している誰かを同伴させて様子を見てもらうように警告文が書かれている。ある小説を持った暗殺者からヒントを得て作られたメディアらしい。つまり特定のメディアは人の脳に働きかけて洗脳しうるのではという仮説を元に。まさか自分が合致してしまうなんて赤羽6号も考えなかっただろう。受け渡しの際に注意された記憶がいまさら甦ってきた。
会社には高熱が出てしばらく出社できなさそうであることを自分を装って同居人がメールしておいてくれたそうだ。とにかく体中があちこち軋み、体重が2倍になったかのように体が重い。3、4日は療養に集中する必要がありそうだ。同居人に謝罪と礼を言い、風呂に入ってベッドに潜り込んだ。目を閉じるとすぐにテレビの砂嵐のようなものが脳内で発生し、意識をかき混ぜて暗いところへ連れて行くのが分かった。
2020.06.02
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