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小説

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一次創作の小説をまとめました。
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#ショートショート

短編小説『花を育てられる人だから』

短編小説『花を育てられる人だから』

「きみは、花を育てられる人だから」

 彼はそう言って、煙草の火種を潰した。振り返らずにドアを閉めた背中の残像だけをぼんやりと眺めながら、「正確にはリトルシガーっていって、葉巻の一種なんだよ」なんて笑った彼の、薄い唇を思い出す。細くて茶色いブラックジャックは、骨張った白い手によく似合っていた。

 鎖骨に薔薇のタトゥーを彫っているくせに、彼は花を育てられない人だった。水をやりすぎて、いつも腐らせて

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短編小説『いつもじゃない』

短編小説『いつもじゃない』

 スマホのアラームを止めて数分後、起き上がると大きく伸びをしてベッドを抜け出す。裸足で踏むフローリングはいつも他人行儀で、ひんやりと冷たい。キッチンでグラス一杯の水を飲んで、トーストを焼いた。お決まりの朝食を食べて、意味もなくスマホの画面をスクロールする。今日もいつも通りの休日か。窓越しにベランダを見ると、セキレイが物干し竿に止まっていた。いつも通りじゃない休日、もいいかもしれない。

 私はクロ

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短編小説 『きらいなピンク』

短編小説 『きらいなピンク』

 ピンクのクマのぬいぐるみ。ピンクのハートのネックレス。ピンクのショルダーバッグ。二十才の誕生日に届いた、ピンクベージュの三つ折り財布。私が幼いころにお母さんと離婚したお父さんは、いつまでも私のことをピンクが好きな女の子だと思っている。誕生日になると毎年決まって届く段ボール箱、そのなかに入っていたピンクのプレゼントは、今ではほとんど押入れの奥。久しぶりに引っ張り出して眺めると、ピンクはピンクでもそ

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短編小説『先生の左手』

短編小説『先生の左手』

 大学の心理学部に入学して二年。毎週金曜日、実験心理学の授業のあと、羽藤先生の研究室に入り浸ることは私の日課になった。廊下を歩きながら、今日の授業で学んだ「心理的リアクタンス」について頭のなかで反芻する。やってはいけないと禁止されたことほどやってみたくなる、やりなさいと強制されたことほどやりたくなくなる、外的な理由によって失われた選択肢を魅力的に感じる、といった現象を説明する概念が心理的リアクタン

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短編小説『ファインダー越しの背中』

短編小説『ファインダー越しの背中』

 高校二年生の夏休み。所属している写真部は、箱根へ一泊二日の撮影旅行へ出かけることになった。風景を撮るもよし、人を撮るもよし。自由に撮影をして、夏休み明けに学内展示を行うことになっている。

 三年生の先輩方はこの旅行をもって引退する。佐良先輩と過ごせる時間は残り少ない。写真部はもともと小規模で、今回の旅行に参加するのも六人。二年生の女子部員は私だけで、一年生は不参加。

「箱根、たのしみですね」

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『いつか見た夢』収録|『防波堤の夜明け』

『いつか見た夢』収録|『防波堤の夜明け』

 毎晩飲んでいる薬とアルコールをちゃんぽんするいつもの夜、ふらっと散歩に出かけてはたと気づいた。仮にも二十代の女が深夜に出歩くもんじゃない。

 私とその男——青年とも少年とも形容し難い人物とは完全に目が合ってしまった。端麗な顔立ちをしているその男はにっと笑って、「やってんねぇ」と楽しげに言う。とんがったふたつの犬歯が特徴的だった。

「お姉さん、こんな時間に出歩いたら危ないよ」

「あなたも大概

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短編小説『休みのち、ソフトクリーム』

短編小説『休みのち、ソフトクリーム』

 心身のバランスを崩して隠居するようになってから1年が経った。ここ数か月で体調がやっと安定してきたのでまずは外に出ることから始めようかと、散歩に出かける。

 誰にも会わないし、身だしなみを整えるのはおっくうだ。働いていたころは毎日フルメイクしていたのにと思いながら深めのバケットハットをかぶって、ぼさぼさな髪の毛もくたびれた顔も隠してしまう。

 ここは、家から10分程度歩いてゆるやかな坂を下ると

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