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川
2024年3月27日 23:23
「きみは、花を育てられる人だから」 彼はそう言って、煙草の火種を潰した。振り返らずにドアを閉めた背中の残像だけをぼんやりと眺めながら、「正確にはリトルシガーっていって、葉巻の一種なんだよ」なんて笑った彼の、薄い唇を思い出す。細くて茶色いブラックジャックは、骨張った白い手によく似合っていた。 鎖骨に薔薇のタトゥーを彫っているくせに、彼は花を育てられない人だった。水をやりすぎて、いつも腐らせて
2023年11月9日 23:28
大学の心理学部に入学して二年。毎週金曜日、実験心理学の授業のあと、羽藤先生の研究室に入り浸ることは私の日課になった。廊下を歩きながら、今日の授業で学んだ「心理的リアクタンス」について頭のなかで反芻する。やってはいけないと禁止されたことほどやってみたくなる、やりなさいと強制されたことほどやりたくなくなる、外的な理由によって失われた選択肢を魅力的に感じる、といった現象を説明する概念が心理的リアクタン