さよならばかり (船の上)
真っ暗な海の上を、船はひた走る。
甲板の上に出ると、強い風のせいもあって、ただただ暗い海の中へと引き摺り込まれそうになる。
電気なんてない時代の船乗りたちには、どんな景色が見えていたんだろうか。きっと僕らの思う以上に、月の明るさが支えになったに違いない。
そんな風な船の中、雑魚寝用の二等室で、こんな文章を書いている。
旅立ちには、乗り物がよく似合う。乗用車だとちょっといまいちだが、電車に飛行機、夜行バスなんかもいい。
そしてもちろん、船も。
ああいう乗り物たちは、僕らの思惑なんかまるっきり関係なしに、定刻が来ると出発する。
たぶんその辺から、流れる時間と無力な自分を感じたりして、どこか切なくなるんだろう。その辺がいいのだ。
自分では、追いつけない存在であるというのもいい。
例えば、別れのシーンで去って行く人の移動手段が徒歩だったとする。そうすると、残される側がその気になって走れば追いついてしまうのだ。
それよりやっぱり、僕らにはどうしようもないスピードで、どうしようもない場所へと運ばれて行く方が、別れらしさが出ると思う。
最大の別れというとやっぱり「死」になるんだろうんだけど、それに近ければ近いほど、感情が動くんだろう。
ただの別れであっても、今後付き合うことがないのなら、それはお互いにお互いが死んだようなものだし。
僕も、これから何度も、小さな死に遭うことになるんだろうなぁ。
ところでなぜ船に乗っているのかというと、もちろん移動するためなのだが、つまり、あれです。明日から都民になります。
ひとり暮らしも都会暮らしも初めてなのですが、うん、頑張ります。
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