【エッセイ】包丁を握る私もそこで見ててよ

土曜日、弟が彼女を家に連れてきた。弟が選んだ彼女だ、ぜったい可愛くていい子だという確信はあった。私はひとりひらすら不安がっていた。

精神障害という理由があれども働いていないという事実は私にとって大きな引け目で劣等感だ。毎日どこかしらの時間で思う。「どうして父も母も姉も弟も立派に勤めているのに、私だけが毎日遊び惚けるか昼寝をするかばかりしているんだろう」って。世界中の人たちがそれを許したって私だけは私を許さない。私は常に私に包丁を刺しているから痛いし泣きたいし周りに縋りたいと思う。逃げても逃げても、包丁を持った私は追いかけてくる。

実家という空間にいるだけでもそんな気持ちになるので、親友と遊んでるときなんてひとしおだ。でも同時にすべてを忘れられるくらい楽しい。支離滅裂なことを言っている自覚はあるけれど、実際そうなのだから仕方ない。

彼女ちゃんが家に来たときは昼ご飯ができるまで自室で執筆作業をしていた。リビングではすでに母、弟、彼女ちゃん、それからうちのイヌで空間が出来上がっていた。正直まずったなと思った。まずそもそも出来上がった空間に後から入ることは個人的にめちゃくちゃ難しい。同じような感覚を持ってる人はきっといるし想像できてると思う。それであってるよ。
初めからリビングにいればよかったな~と後悔するも時すでにおすし🍣。でも私はここですごく今更なことにも気づく。

「ぜったい彼女ちゃんがいちばん緊張してるやん……」

相変わらず自分のことしか考えていないアホであった。普通に考えて初めて彼氏の実家にお邪魔して昼ご飯と夕ご飯をごちそうになるって、緊張しない方がおかしい。これはいけない。ここで私は舵を逆に切った。包丁を持つ私は邪魔なので蹴とばした。ごめんけど今はかまっている暇はない。

リビングでは母と弟とイヌ、それから彼女ちゃんが団らんしていた。私はあいさつをして、あとはひたすら彼女ちゃんが必要以上の気を遣わないようにできる範囲で自然に振舞った。彼女ちゃんもそうかは知らないけど、私なんかは気を遣われすぎると逆に申し訳なくなってへこむからそうならないように。

イヌの散歩にもみんなで行った。帰り道で母と弟とイヌが先を行くので私は彼女ちゃんと色んな話をしながらゆっくり歩いた。ずっと頭の中で舵を切る私が「可愛すぎるいい子すぎる天使か?」と喚いていた。うるさい。わかってるわい。天使だ目の前のこの子は。あと「私より大人やん」とも言った。それもわかってるから言わんでいい。
夕飯のときスケッチブックの絵日記を見せてもらった。めっちゃ可愛かった。やっぱり天使だった。

部屋で執筆作業してたらいつの間にか帰ってしまっていたから、またおいでよ~って言えなかった。次のときでいいや。

包丁を持つ私もごめんよ。また刺せばいいよ。

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