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損得勘定
𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす
結婚なんて、若いときじゃなきゃできないのよ。分別がつく歳になったら結婚なんてできないんだから。これは樹木希林さんの言葉である。これには同意せざるを得ない。人生には損得では測れない物事がある。
キルケゴールの著書に『あれかこれか』とい本がある。彼はこの本ゆえに実存主義の創始者といわれるのだが、内容はじつは結婚についての二つの立場を対比したものである。いま読んでみるとなかなか面白い。
あれかこれかの判断に迷ったとき、それぞれのメリットとデメリットを紙に書き出してみるという方法がある。列記してみて、メリットの方が多ければやる。デメリットの方が多ければやらない。しかし、この方法で結婚の是非は判断できない。
たとえば、自分の趣味がガンプラ作りだと想像してみてほしい。そして、ガンプラを作るメリットとデメリットを箇条書きにする。メリットもたくさんあるが、きっとデメリットもたくさんあるだろう。オタクだとバカにされるとか、収納スペースに困るとか、お金がいくらあっても足りないなどである。もしかしたらデメリットの方が多いかもしれない。それでもあなたはガンプラをやめようとは思わないはずである。
結婚も同じである。損得で判断したら、結婚くらい割に合わないものはない。それでも私は結婚を後悔したことはない。損得よりも大事なものがあるとわかるまで結婚できないとも言えるし、希林さんの言うように、損得勘定を覚えてしまったら結婚できないとも言える。私はここで、大人になること(erwachsen)と畸型に育つこと(verwachsen)を対比してみせた、ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』を思い出さずにはいられない。
私はお酒を飲まない。そう言うと、「もったいないねぇ。人生の半分を損しているよ」と言う人がいる。しかし、酔っ払ってマンションの部屋を間違え、CMを降ろされた俳優もいる。まあ実力があればいずれ復帰できるだろうが、世の中にはお酒で人生の半分を失う人もいるのである。
12月に講演会で久しぶりに養老先生にお会いした。ご存知のように、先生は去年がんで入院されている。8月の蟲展でお手伝いしたときはだいぶお加減が悪そうなときもあったが、いまはむしろ若返ったのではないかと思えるくらいお元気に見える。とはいえ、さすがにもうタバコは吸ってないだろう。そう思ったら甘かった。一緒に行った友人が「先生、隠れて電子タバコ吸ってましたよ」と教えてくれたのである。先生にとってタバコは、損得では語れない大事なものらしい。
𝐶𝑜𝑣𝑒𝑟 𝐷𝑒𝑠𝑖𝑔𝑛 𝑏𝑦 𝑦𝑜𝑟𝑜𝑚𝑎𝑛𝑖𝑎𝑥
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