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ブギーマンズ・ゲーム
あの時、スタジアムに登場したラガムたちを迎えたのは、大地が揺れたと錯覚するほどの凄まじい喝采だった。
虚無の荒野が広がる魂には、それが響くことも、火が通うようなこともない――少なくとも、彼ら自身はそう考えていた。
……だが、どうだ。
平らかな心に真新しい太陽が浮かび上がったかのようだった。
「これは苦しいな」ソーマが苦笑気味に言った。歩を進める度、獣じみた肢体を構成する漆黒のフレームがギチギチと音を立てた。「これじゃあ、道はあったんだって思っちゃうじゃないか」
そう寂しげに零したソーマは、いま、躰を千々と引き裂かれ、辺りに散らばっている。
「――まさか覚悟してなかったなんて言うんじゃねぇだろうな」
瓦礫と炎の向こうで闇が身じろぎした。
「命がけってのはオレたちのアドバンテージだぜ。それを――」
「違う」ラガムは撃鉄を打つように言った。「そういうことじゃない」
「けッ――。まさかテメェがこんなしょうもねぇヤツだとはな」
闇から、そいつが姿を現した。
人体と鋼鉄をシェイクして多脚戦車に成型したかのような壮絶な姿だった。その躰は露悪的とも戯画的ともつかない皮肉に包まれつつも、隠しきれない憤怒と憎悪を臭い立たせていた。
「放たれなかった核弾頭ミサイル」煮えたぎるような声音だった。「それがテメェのひり出たクソ穴だろうが。全部全部灰にするために、何もかも、何もかもキレイにするために生まれたんだろうが」
「黙れ」ラガムは、今度こそ怒りを込めて言った。「オマエの感傷を押し付けるな」
ラガムが相対する怪人は、内戦の狂気が都市ネットワークに焼き付いて生じた、恐るべき暴力の化身だ。
ラガムはソーマと同系統のフレームに力を張り、ナイフを構えた。
そいつは巨大な顔に突き出た、口吻とも砲身ともつかない器官を蠢かせて応じる。
炎の緋と夜の黒を映していたナイフの切っ先が、白く閃いた――
【続く】