アナザーヘッド
夜空に首が舞い上がった。広がった髪が月のステージに軽やかな舞踏の影絵を描いた。
ユーリはひどく美しいものを見たような眼差しを天に向けながら……その口からは悲痛な絶叫を迸らせていた。
路地に倒れ込んだ少年の潰れた芋虫みたいな背を、幾つもの嘲笑が囲んでいた。それは実際に闇に浮かぶ笑顔で、ハロウィン仮装みたいな蛍光フェイスペイントを施した者たちだった。
ユーリは震える手を闇に差し伸ばした。
刹那の滞空を終え、首はただの石くれみたいに淀んだ闇に失墜していく。
……ぱしっ、と首が何者かの腕に収まった。
「誰だテメェッ!」光る笑顔が怒声を発した。
闇が、むくりと身をもたげた。
月光が明かしたその姿はあまりに異様だった。
本来首がある位置には――あるいは、ない位置には――巨大な陰茎が鎮座し、天にそそり立っていたのだ!
ユーリも、判を押したような笑顔の列も、あんぐりと口を開けてそれを見上げた。――と、
「オレは、オレの運命の女を探してるんだ」
低く、くぐもった声がした。怪人は抱きしめた頭部の髪を撫でた。
ハロウィン集団は恐慌をきたした。そして、決死隊の突撃じみて怪人に鉄パイプや消防斧で躍りかかった。
その先頭にいた男の笑顔が翳った――直後、鉄槌の如き肉茎の一撃が、彼の頭を胴に沈めた。
続く、舞い踊る魚影のパレードみたいな笑顔の群れも、鎖付き鉄球のような拳の打擲で撃墜され、足でプレス機じみて踏み砕かれ、陰茎に薙ぎ払われた。
ユーリは呆然として、ただ、ぶるんぶるんと揺れる怪人の頭を目で追っていた。
……しばらくして怒号が止み、光が消えた。
怪人がユーリへ足を向けた。
「……あ」ユーリはようやく現実を修繕し、怪人が脇に抱えた首を見た。
ユーリの眼前に異形の頭が垂れた。「――躰はどこにある?」
「それ、姉なんです」ユーリはどこかずれた表情と声で応じた。
それは問いの答えになっていなかったが、怪人はユーリにそっと首を返した。