浄化のエピタフ
どこまでも続く白砂の丘陵と、宇宙を堕としたような昏い青空、そして太陽だけの世界。
その上を一人の少年が決然と歩んでいた。
少年は焼け焦げた棺桶を鉄鎖で引き摺っていた。ザリザリと白砂に皺を寄せる。
「どこへ行くんだい?」
いつの間にか、少年の横に、錆びついたベンチと、そこに腰を下ろすタキシードの男が生じていた。
「火葬です」
「その棺桶かい?」
「はい。母の遺体が入っています」
「重そうだ。とても一人で運べるとは思えない」
炭の粒子が鼻腔を突き、男は鼻をひくつかせた。
「ええ、重いですよ。母が好きだった本も詰め込んでるんです」
少年が微笑むと、男も笑い返した。――あの棺桶にはもう何も入っていない。
「君は救われたいって思うかい?」
「え?」少年は困ったように少し首を傾げた。その表情があまりに人間的で、男は思わず胸元の十字架を弄った。
「んっと……その、よくわからないです」
「そうか」男は立ち上がった。踏みしめた白砂は、まるで灰のように乾いていた。「……君の名前を教えてくれないか」
「ああ、ぼくは」きっと答えようとしたのだろう。だが、少年は照明を落としたみたいに急に表情を失った。
男は祈るように眼を閉ざした。……そして、撃鉄を引き起こすように瞼を開いた時、世界はずっと小さくなり、どす黒いほどに赤く染まっていた。
畳敷きの其処は和室というものだろう。部屋を灼くのは世界が終わったみたいな夕陽と、アイコンの焦げ臭いにおい。それに、血と、便と、首を吊った女の死体。きっと別々に起こった出来事が一つの部屋に短絡して熱を発していた。
「ここが君の墓標だ」
男は少年を見た。――少年だったものを。
「ああ……また蠅だ。蠅と蛆が湧いて……」
それは焼け落ちつつある目口に悲しげな笑みを崩壊させながら、業火のような悲鳴を燻らせた。その焦土に絶大な虚無を飽和させていく。
「……私が消し去ろう」
そう言うと、男は歯車仕掛けのような誠実さで、胸元から銃を引き抜いた。
【続く】