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美術館女子系企画系若者をおだやかに受け入れる養老天命反転地

Yahooニュースで「美術館女子」企画が炎上しているとの記事を読みました

なるほど、これは確かに美術館の魅力の発信というより、モデルの女の子が主体の写真集みたいだし、コメント欄も様々な批判であふれていました。

これを読んで真っ先に思いを向けたのが、美術館がない我が町(岐阜県養老町)において、圧倒的な集客をしている「養老天命反転地」の事。

故・荒川修作さんとマドリン・ギンズさんが作った体感型のアート・建築として、世界中からアートファンが訪れるいっぽう、カラフルで不思議な空間や造作の数々が「映える」ということで、近年若者がたくさんやってくる。

この「養老天命反転地」のある養老公園を遊び場として育ち、その建築時からずっと見てきた地元民の一人として、わたし自身がこの壮大な作品から何を感じ受け取っているか、その感動と思いを語るのは多くの時間を要するのでやめておくけれど

そのコンセプトや芸術性や、荒川修作さんについて気にしていない(たぶん知らない)若者達が押し寄せ、映え写真撮影に夢中な姿を、とても嬉しく微笑ましく思って見ている。

彼らは この養老に古くから受け継がれる歴史も、もともとは観光の中心であった養老の滝の事も知らない。

でも、ただ 面白い 映える 撮りたい と思ってやってきては 彼らなりにめいっぱい楽しんで、SNSに投稿し、それが宣伝になってまたたくさんの人が来るというループを作ってくれた。

今はこうして多くの若者を中心に人が訪れるスポットになったが、養老天命反転地も不遇の時代がありました。

岐阜県の芸術行政事情を素人なりにお伝えすると、養老天命反転地ができた同じ頃、県内にはいわゆるハコモノと言われるような巨額の税金を投じて作られた施設がいくつかあった。

それは前知事がアートとハコモノ作り両方が好きだったという事と、それができる時代性があったということが大きかったと思う。

日本のシリコンバレーに!とITの拠点として作られたソフトピアジャパンセンター(岐阜県大垣市)もその一つで、建築には500億円以上が投じられ、館内外のアートワークについては当時、現代と伝統、大御所と若手、地域作家と県外作家というバランスを考慮しつつ約6億の予算でさまざまな絵画やモニュメント等の作品が購入・設置された。

オープン当初は最先端として賑わったものの、今では全国の文化施設と同じように、老朽化や来館者・稼働率減少に伴って運営は厳しく、指定管理者の努力を上回る時代の変化にさらされている。

養老天命反転地も同じようにオープンした当初は話題を呼んだものの、地元の人自体もその価値やコンセプトをさほど理解できず、やがて「なんか変わったものがあるにはあるが、よく知らん。」と関心を寄せられることもなく、最初は手厚く説明をしてくれた学芸員さんも予算の都合上か、いつの間にかいなくなり、だんだん寂れて来館者は激減した。

それを 若者が行ってみたいと思い、子供連れがはしゃいで体感し、喜べる場所に再びしてくれたのは、SNSと映えのミーハーな世間の流れです。

もちろん、建築やアートを愛する人、じっくり鑑賞して荒川修作さんの世界を理解したいというお客様もいらっしゃいますが、割合でいえば圧倒的にSNSや撮影目的の若者が多いのです。

東京・三鷹の天命反転住宅はじめ作品管理や著作管理をされている荒川修作事務所の社長様やスタッフの皆様と、縁あって何年か前から交流させていただいているのですが、荒川修作事務所の皆様も若い人たちが単純に遊んでる喜んでいるのを好意的に捉えていらっしゃるようです。

ただ、「荒川さんが生きてたら、この若者たちをみてどう思うんでしょう」ってほほえむ社長様らの笑顔や言葉に甘えているわけではないし、映えだけで賑わって良しと思っているのでは当然無くて、本来の天命反転地のコンセプトや魅力をどのように伝えるのか、また地域としてどうやってアート行政に関わり、次の世代が鑑賞できる素養を育てていくのかという課題は常にありますし、そういう話題になるとお互いに想いが溢れて止まりません。

わたしも 作品作りに勤しむアーティストの端くれとして、イベント会社の企画を嘆き、そこに丸投げしてやったフリをしている行政を批判するだけの自分がどうしても嫌で、恥ずかしくて、去年から地域作家仲間に声をかけて養老天命反転地ではじめてのグループ展を企画するなど、行動に移し始めました。

もちろん それがすぐ効果的な結果を出すということではありませんが、それでもわたしたちのグループ展に来た住民が「何十年ぶりに来た」「こんな面白いところだったんだ」「若い子たちが多く来てるの知らなかった」とたくさんの反響があり、地域に生きるものとして、「高尚」「わからない」「難しい」を超えてみんなで関わっていく方法をこれからも考えて、そして実際やってみるということを諦めたくないと思っています。

アイドル企画があってもいいし
作品を深く理解できる企画があっていい
とわたしは思います。

音楽だとわたしはクラシックが好きで、JSバッハが宇宙一素晴らしいミュージシャンだと思っていますが、現実としていま売れているのは米津玄師さんとかヒゲダンとかだし、わたしもそうゆうかっこいい曲も好きです。ミーハーです。星野源さんが養老天命反転地に撮影で来てくださったのも自慢です。

業界における女性の地位の低さやジェンダーの問題は美術界に限ったことではありません。

ですので 今回 美術館女子の企画がけしからんと思い、ほんとうに地域の美術館と芸術教育を憂うのであれば、もう一度ご自身ができることを考えていただきたいと思います。

前述のソフトピアジャパンセンターに関しても、指定管理者の一員としてこの春までお仕事させていただいておりましたが、館内のアートワークを鑑賞して巡る「ソフトピア現代アートツアー」を企画したところ、とても好評でした。

嘆き 批判すること以外にも(それが悪いとも思いませんが)
例えちいさくとも
私たちにはできることがまだまだある
そう思いませんか(^^)

炎上問題の本質は、美術館がアイドルに頼らざるを得ないほど文化施設としての運営の難しさに直面していることと、芸術を楽しむベースが育たない社会のあり方と、そして
一人一人にもっと力があることをすっかり忘れてしまっている、そういうところじゃないでしょうか。

最後に宣伝させてください(笑
今年も養老天命反転地で地域作家によるグループ展を行います。どうぞよろしくお願いします。

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