中小事業経営者のためのミニマム法律知識シリーズ4:事業者はクーリングオフ出来ません

 今回はやや番外編的な内容です。最近、中小事業者を狙った怪しげな商品やサービスが目につくので、それに対する注意を呼びかけるものです。

 現在はクーリングオフという言葉が定着し、広く知られるようになっています。クーリングオフは消費者契約法もしくは特定商取引法に基づく制度です。しかしながら、事業者が事業のために結んだ取引や契約には、これら法律は基本的に適用されません。したがって、その取引が詐欺であることを証明できたようなごく例外的場合を除き、酷い内容の契約を締結してしまったとしても事業者はそれを覆すことが出来ません。

 こちらの論文に消費者契約法の適用が争われた様々な事例が紹介されていますが、事業者が「被害」に遭ったケースでは殆ど救済されていません。

 https://www.kokusen.go.jp/research/pdf/kk-202012_4.pdf

 消費者契約法が使えなくても、特定商取引法によってクーリングオフ出来る場合もあります。しかし特商法も「営業のために若しくは営業として締結するもの」には適用されないので、やはり多くの場合事業者は救済されません。

 まさにそこに目を付けた業者が跋扈しています。実質的に個人と変わらないような中小事業者に対し、ウェブサイト構築やマーケティングと称した商品ないしサービスを高額で売りつける手口が目につきます。実質的には悪徳商法ですが、商品やサービスを実際に提供する以上は犯罪でもなければ違法でもありません。いち消費者としての取引であればクーリングオフが使えますが、たとえ中小事業者でも、その事業に役立つからと勧誘されて契約を結んでしまうと消費者契約法や特商法の適用はされません。近時は、信義則など民法の一般条項と呼ばれるものを適用して代金請求を制限した裁判例も出ているようですが、それでも請求額を減額しているだけで、取引の無効や取り消しを認めているわけではありません。

 結局、口車に乗せられて契約させられてしまうと法律でそれを覆すことは難しいので、よくよく気をつけて下さいという今回は注意喚起でした。未経験のサービスを利用する場合には、信頼できる知人友人が既に利用している業者などを頼り、飛び込みで営業に来た業者はなるべく避けるのが無難かもしれません。
 ともあれ、不当な取引に引っかかってしまった場合には、まずは弁護士にご相談下さい。クライアントのために何か方法はないか、被害をより小さく出来ないかと寄り添って考えることが弁護士の仕事です。

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