弁護士は顧客の何を解決するのか?
BtoBのWebサイト制作・活用支援をされている稲田エイジさんの次のツイートに触発されて、表題の課題に改めて向き合った。
前記事にも書いたように自分は、目に見えて紛争が生じてから相談される弁護士を脱皮したい、中小企業経営者から「これも念のため確認しておくか」くらいの感覚で相談される弁護士になりたいと試行錯誤している。
では自分は、想定顧客である中小企業経営者の何を解決する弁護士なのだろうか?
守秘義務の関係で詳しくは書けないが、顧問先の新規事業に関する対応で、自分でも誇りに思っている経験が2つある。
1つは、既に社内では進めることが決まっていた事業で、取締役から「念のため弁護士に確認してこい」と言われたからと営業部長さんが持ってこられた。既にチラシも完成していた。
著作権法違反で業界団体から訴えられることになり、会社に決定的なダメージを与えることになるから、この事業は中止すべきだと伝えた。
「クライアント企業が求めているのはダメ出しではなく、どうすれば事業を合法的に問題なく進められるかという助言だ」とは弁護士会の研修でもよく言われる。しかしグレーゾーンにすら入っていないときに明確にNoを突きつけるのも顧問弁護士の重要な役割だ。
この相談の数ヶ月後、同種事業をやっている他社が業界団体から提訴されたとの報道があり、あのときハッキリさせておいて良かったと胸をなで下ろした。
もう1つは、顧問先が考えているとおりのやり方では、現行の知的財権侵害にはならないまでも、利害対立する団体が必ず何らかの方法で提訴してくることが予想されたケース。
そこで新規事業の内容を少し変更して貰った。こちらもやはりその数ヶ月後、自分が予想したとおりの手法で同業他社が提訴されたとの報道に接した。
中小企業の場合、より大きい取引先が用意したひな形の契約書をそのまま使用せざるを得ないことも多い。取引先に意見を伝えて改訂してもらえるとしても、その程度は僅かだろう。しかし一つか二つでも変更させることに成功したら、その分だけリスクヘッジになる。
そもそも不利な契約を締結させられたときに、その契約書のどこがどのように自社にとって不利なのかを経営者が認識しておくことで、取引先とどこで喧嘩してはいけないのかが分かり、それはそれでリスクヘッジになる。もちろん、そんな内容の取り引きはしないで欲しいと伝えることもある。
少し気になった程度で、いつでも直ぐに國本の携帯に連絡してくる顧問先社長がいる。彼は自分と同世代ながら海千山千で極めて勘が良く、電話してくるときにはすでに自分なりの方策と結論を持っている。それに対する自分の回答の8〜9割は「それで良いと思います」だ。
考えている方策が弁護士の視点からも間違ってないと確認できることで、経営者は安心して事業を進めていけるのではないだろうか。
最終的に裁判になったらどうなるのか?という結論から逆算するのは、弁護士独特の思考のひとつだ。上記の経験も殆ど、訴訟その他裁判になった場合を各種想定し、そこから逆算して弁護士としての自分の意見を顧問先に伝えている。
その上で裁判で勝てない、或いは勝てたとしてもダメージが大きいと想定されるなら、できるだけ穏便に収束させる方法を提案する。
逆に話し合いをしていても埒があかないなら、裁判という終局的紛争解決手段の利用を提案する。なお、個々の弁護士ノウハウではあるが、「勝つこと」以外を目的とする法的手段活用法も実は色々ある。
弁護士の仕事はあくまでクライアントの最善の利益を実現することであり、裁判に勝つことすらその手段の一つに過ぎない。
日常的に自分に連絡を取ってもらうことで、紛争やトラブルに巻き込まれる可能性を極小化する、トラブル発生の目があってもその火種が大きくなる前に対応してしまうことが出来たなら、中小企業は本来の事業に専念できるし、事業そのものも自信を持って進められるので、それなりのメリットを提供できていると自分では考えているのだが、どうだろうか。
自分は弁護士として顧客の何を解決してるのか?
不安を解消し後顧の憂いを無くして事業に専念できるバックアップをしている、では答えになっていないだろうか。
自分としては顧客に「安心」という商品を売っているつもりである。
中小企業経営というある意味いばらの道を進むための「護身術」を経営者に伝えることも、自分の仕事だと捉えている。それは次に記事にて。