ブラジリアン柔術ユーザーの多様なニーズと道場スタイルのマッチ・ミスマッチ〜個人的ブラジリアン柔術練習体験記
今日はいつもとうって変わって、趣味のブラジリアン柔術の話です。
ブラジリアン柔術の業界には出稽古(ビジター)という制度が普及しており、出稽古料(ビジターフィー)を払えば、所属外の道場でも練習に参加することが可能です。
そのため、大阪市内中心部にある自分の所属道場には、ほぼ毎日のようにビジターが訪れます。自分自身も出張等を利用して、様々な道場で出稽古してきました。他道場の指導方法・練習方法は、自分が日常普段触れているものとは異なり新鮮で、多くの学びがあります。と同時に、所属道場の指導方法・練習方法についても新たな発見があります。
日本においてブラジリアン柔術の道場は、練習会サークルを除き、会員制の習い事ビジネスです。会費を払ってくれる会員を集客し、顧客である会員に指導と練習機会を会費の対価として提供する事業です。キッズクラスも増加傾向にはあるものの、顧客会員の多くは大人です。仕事や家庭に忙殺されている多くの日本社会人にとって、趣味の柔術に割ける時間は限られています。
会費制ビジネスである以上、継続的な新規顧客獲得と既存顧客の継続の両方が事業の存続に不可欠です。既存顧客である会員の離脱を防ぎ、その継続性を高めるためには提供されるサービスの満足度が高いことが必要となるでしょう。
様々な道場での練習を経験して、ここがベストだな、この指導法が最高だなと思ったことは正直言ってありません。それぞれにメリットとデメリットがあります。
サービス提供を受ける側の立場でそれらを何度か体感し、指導方法や練習方法は顧客会員のニーズとマッチしていることが重要なのではないかと考えるようになりました。ブラジリアン柔術を習う人のニーズは多様であり、その人のライフステージや習熟段階によっても変化していきます。ひとつの道場がありとあらゆるニーズに対応することは不可能です。であれば、各道場はそれぞれの強みを生かしてある程度限定したセグメントのニーズに応えることに集中することで収益力を強められるのではないか、顧客層が重ならない道場が共存することでブラジリアン柔術業界のパイそのものをより大きくしてくことが可能なのではないかと思うのです。
という観点視点からの以下、個人的ブラジリアン柔術練習体験記です。
(1)トライフォース大阪
出稽古体験記に入る前に、ものさしになる自分の所属道場のことを書かなければなりません。大阪府の中心にある大阪市のさらにど真ん中にあります。最寄り駅は大阪メトロ堺筋線堺筋本町駅と御堂筋線本町駅です。アクセス抜群な上、英語サイトがあるため、日常的に外国人ビジターが訪れるのが特徴です。
①クラスカテゴリー
TF大阪では、トライフォース柔術アカデミー標準ベーシックカリキュラムを練習する「ベーシッククラス」と、担当インストラクターそれぞれが考案した技術と練習に取り組む「レギュラークラス」(他道場ではオールベルトクラスと呼ばれる)の2種が実施されています。週に1度だけ「ノーギクラス」も開催されてますが、内容がイレギュラーであるためここでは説明を省きます。その他の直営道場で実施されている「アドバンスクラス」「マスタークラス」は、2023年9月現在はまだ大阪では開催されていません。
②準備運動
準備運動の強度が軽いことは、TF大阪の大きな特徴だと思います。池袋の本部道場でもほぼ同じだったので、トライフォース直営ジムでは共通なのでしょう。
レギュラークラスではインストラクター次第でやや強度が高いこともありますが、それでもまあしれていると個人的には思います。他方ベーシッククラスでは、準備運動の強度を高くしないよう本部からの指示が徹底していると思われます。ブラジリアン柔術特有のムーブと準備運動には色々ありますが、ベーシッククラスで行われるのはいわゆるエビ、逆エビ、後ろ受け身&テクニカルスタンドアップ(柔術立ち)、肩ブリッジ、肩抜き前転&後転等と種類は少な目です。これらとストレッチを行ったらすぐにテクニック指導に入ります。他道場でよくある下からの腕十字やニースルーパスなど基本テクニックを繰り返す「打ち込み」は、ベーシッククラスでは行いません。準備運動の後はすぐにテクニック指導に入ります。
レギュラークラスの中には、基本テクニック打ち込みのあるクラスもあります。そちらはインストラクター次第です。
③テクニック指導方法
ベーシッククラスの指導は、トライフォースのベーシックカリキュラムです。これは全国共通です。
レッスン1〜30までの30講、各レッスンで5種のテクニックを学びます。インストラクターがテクニック1種を説明するごとに、2〜3人で組んだ会員がそのテクニックを交代で掛け合って練習します。会員同士の組み合わせは、会員任せではなく、体格や経験などを考慮して必ずインストラクターが行います。テクニックそのものの種別にもよりますが、60分のクラスで5種ものテクニックを練習するため、インストラクターの解説を聞いた後、それぞれがそのテクニックをパートナーに掛ける回数は少な目です。3人で組んだときには、2回だけしか打ち込み出来ないことすらあります。
ベーシッククラスは、月曜から日曜まで毎日開催されています。月水金日がレッスン1なら火木土がレッスン2、その翌週は月水金日がレッスン3で火木土がレッスン4という周期でカリキュラムが回っていきます。したがって15週でレッスン1から30が一巡します。そのため、例えば月水金と練習参加できる会員なら、月曜日に習ったテクニックを水曜日に復習し、金曜日にさらに深めることも可能です。たとえ週に1回しか来られない会員でも、カリキュラムが4ヶ月弱で一巡するので、ずっと通っていれば何度も同じテクニックを学ぶことが出来ます。
ベーシックカリキュラムのインストラクターには、厳しいインストラクター検定試験を合格した人だけがなれます。テクニックを正しく実践できるのみならず、解説も標準通りでなければなりません。そのため、どのインストラクターのクラスに参加しても指導方法は基本的に同じです。ただ、その日の参加者の習熟度も見ながら、各インストラクターが少しだけそれぞれの観点での解説を付加するので、月水金或いは火木土と異なる曜日の異なるクラスを受講すると、同じテクニックの理解がより深まる面白さもあります。
ベーシッククラスではスパーリング(柔道で言うところの乱取り)は、行われないもしくは特定の場面からスタートするシチュエーションスパー(限定スパー)のみ実施されます。TF大阪ではスパーリングは希望者のみが行います。そのためベーシッククラスでは、限定スパーが行われても、殆どの会員は見学しているだけです。
他方レギュラークラスでは、インストラクターがその日のために考えてきたテクニックを2種指導して、残り時間はスパーリングというのが標準的です。
TF大阪ではベーシックでもレギュラーでも、クラス中はスパーリングの組み合わせは必ずインストラクターが指名します。会員同士が互いに申し合わせてスパーリングすることはありません。
④小括
以上のカリキュラムの結果ないし効果として、会員に多種多様なブラジリアン柔術への取り組み方を認容する、そして初心者が練習に参加し継続することのハードルをとことん下げていることが、トライフォースの最大の特徴だと思います。
準備運動で難しいムーブが出来なくて後ろめたい思いをすることもなければ、体力のない人がついて来られなくなることもない。週に1回だけでもベーシッククラスに継続的に参加していれば、そのうちそれなりの動きが出来るようになります。スパーリングを強要されることもないので、必ずしも強くなる必要すらないのです。スパーリングに参加する時期も、各会員個人の判断に委ねられています。
他方で、強くなりたい会員、上手くなりたい会員は自主的な取り組みが不可欠です。準備運動の強度は軽く、打ち込みやスパーリングもクラス内でやらされることはないので、さらなるレベルを目指すには各自がクラス外で自主的に試行錯誤しなければなりません。そのためTF大阪ではクラス後のオープンマットの時間には、多くの会員がスパーリングのみならず技の研究や打ち込みにいそしんでいる姿が見られます。
(2)パトスタジオ
①クラスカテゴリー
國本は、今から4〜5年ほど前(青帯になった頃)にベーシッククラス&オールベルトクラス、昨年はノーギクラス、先月は白帯+オーバー40クラスとノーギクラスに参加させて貰いました。現在のベーシッククラスに参加したことはありません。
②準備運動
トライフォースに比べると、準備運動の強度はかなり高いです。体力がいるというよりも、ブラジリアン柔術特有のムーブを身に付けるためのメニューの種類が多いのです。初めて出稽古に伺った際には、ベーシッククラスでは息を切らせながらかろうじてやり切ったものの、オールベルトクラスの準備運動では自分には出来ない動きも多々ありました。ベーシッククラスでも白帯クラスでも、ブラジリアン柔術の上達に必要なムーブをがっつり準備運動として行うので、これを毎回行っていれば誰でも上手く強くなれると思います。
③テクニック指導方法
自分が参加した中で印象強いのはノーギクラスです。60分のクラス時間内ではスパーリングは行いません。スパーリング時間はクラス後に設けられています。
そのためクラス中は、インストラクターがテクニック解説を行った後、参加者がパートナーと互いに技を掛け合う時間はTFに比べると長めに取ってあります。國本個人の好みで言うと、現在はこちらの練習方法の方が気に入っています。
というのも、クラス内で自分がパートナーに技を掛ける回数が数回程度だと、クラス中にその技に習熟することはまずありません。そのため、その技を身に付けたいと思えば、クラス後に練習仲間を捕まえて引き続き同じ技の練習を繰り返す必要があります。しかし会員はそれぞれ練習したいことがあるので、必ずしも練習仲間とやりたいことが合致するとは限りません。その日クラスで習ったことを復習できないまま帰宅すると、数日後には記憶が薄れており、その技を身に付ける機会が遠くに過ぎ去ってしまいます。それに対しクラス内で習ったばかりの技をクラス中に何十回も練習出来るなら、それなりに頭と体がその技を覚えてくれるのです。
ちなみに、かつて参加した橋本知之さんのノーギセミナー、最近参加したアイザック・ドーダーラインのセミナー、米倉大貴さんのセミナーがいずれもインストラクター解説後の打ち込み時間をたっぷり取るものだったため、いずれも自分にとっては大変満足度の高いものでした。
なお、未だ未経験のベーシッククラスは、チャート図に従ってシチュエーションごとに必要とされる判断とテクニックを学ぶものとなっているようです。しかも奇数日がトップなら偶数日がボトムという風に、その週のテクニックが日替わりでセットとなっています。月水金、火木土と続けて参加すれば同じ内容を習える点はトライフォースと同様だと思われます。ブラジリアン柔術には、相手の状況や対応に応じて自分がなすべきことには定石があります。しかし自分のようにセンスに恵まれていないタイプには、その定石を自然に身に付けることは困難です。がむしゃらに練習していても身に付きません。そのことを自覚しつつも自分が身に付ける手法が分からなくて途方に暮れていたところ、昨年出稽古に伺った際に、ベーシッククラスのチャート図が掲示されているのを見て、自分がずっと求めていたのはこれだったんだ!と直感しました。
④小括
たった3度の出稽古経験なれど、自分のパトスタジオさんへの印象は「アスリートでない会員が誰でも必ず着実に上手く強くなれる道場」です。やや強度は高いかも知れないけど、ブラジリアン柔術に必要とされるムーブを毎回クラスで行うことで、各自のバックボーンや身体能力に関係なく、誰でも基礎能力が向上するでしょう。チャート式のベーシックカリキュラムに学べば、誰でも比較的短期間でブラジリアン柔術の定石を覚え、それを自分の身体で実践できるようになるでしょう。
練習場所が巣鴨と大塚の2拠点あるとはいえ実質単独ジムであるパトスタジオが、毎大会多数の入賞者を輩出するのもむべなるかなという感じです。国内外の第一線で活躍するアスリート選手も多数所属しているので、技術の見本にも事欠きません。
あえてトライフォースとの比較でデメリットを取り上げるなら、初心者や白帯にとっての練習強度が高いことでしょう。柔道その他スポーツのバックグラウンドがなくて週に1回程度しか練習に参加できない人にとっては、準備運動についていけるようになるだけでも結構な期間がかかるかもしれません。マットの端から端まで行うタイプの準備運動だと、後ろが詰まってくるので初心者は後ろめたい気持ちを抱きがちです。他方で、仕事や家事をやりくりしてやっとこさ参加できるクラスでしっかり練習して効率的に上手く強くなりたい人にとっては、ピッタリの道場だと思います。他道場との掛け持ち会員さんも増えていると聞き「そらそうやろな」と率直に思いました。
(3)一心柔術
東京都大田区のJR蒲田駅前にある道場です。館長の後藤さんが米国でブラジリアン柔術を始められたため(茶帯までは米国在住時に取得)、英語での指導も行っているのが特徴です。
①クラスカテゴリー
総合格闘技道場でブラジリアン柔術も教えているところは多々あれど、ブラジリアン柔術メインの道場でMMAその他様々な指導を行っている点もユニークです。
ウェブサイトによると、ビギナークラスでは基本動作及びテクニックの指導を行い、スパーリングは行わないようです。
自分が参加したのは(一般)柔術クラスです。準備運動の後、基本的な動作とテクニックを幾つか教えて貰った後、会員さんたちとのスパーを行いました。
②準備運動
道場の端から端まで使うものではなく、その場に止まって行う軽めのものでした。トライフォース大阪のベーシッククラスで実施しているものとほぼ同じだったと記憶しています。
本場ブラジルの道場にも様々なタイプがあるところ、準備運動で体力を消耗しないことでクラスでの集中力を維持するという考え方もあると聞きました。後藤さんの系列もそのタイプなのかもしれません。
③テクニック指導方法
後藤さんご自身は、試合に出場することを重視されています。出稽古に伺った際も、紫帯昇格後に勝てない時期が続いて悩んでいたところ、インストラクターにそれでも試合に出続けるんだと助言されそれを実践し続けた結果、黒帯に到達したとおっしゃってました。
ところが後藤さんが米国で学んでこられたブラジリアン柔術がそういう系統なのか、自分が普段習っている柔術に比べてとてもクラシックなものだと感じました。自分がTF大阪で学んでいるブラジリアン柔術はもっぱらIBJJFルールでポイントを獲得し、試合に勝つためのものです。スポーツ化された競技に準拠したトレーニングです。一心柔術では、TFで習ったのと同じ技術でもグレイシー柔術の原点であるヴァーリトゥード(何でもありルール)も想定した解説も加えられます。この日はTFで言うところのキックコントロールを習いましたが、ヴァーリトゥードやMMAでの使い方も解説されたことで、技術そのものへの理解がより深まりました。自分はここ最近、競技BJJを想定してシッティングガードから着実に相手を自分のガードに入れる方法を試行錯誤していますが、一心柔術では立っている相手が自分の頭部に対し左右の回し蹴りを放ってくることも想定したシッティングガードを習いました。
インストラクターによるテクニック解説後の打ち込み時間は、やや長めでした。前述のとおり、この練習方法は自分好みです。キックコントロールのやり方使い方、そこから横に抜けられたときのガードリテンション数種を習いました。普段と異なる角度からの解説であった上にパートナーとかなりの回数を打ち込むことが出来たので、大変満足度の高い練習となりました。
後藤さん以外にもう1人、黒帯指導者がおられました。ブラジル系あるあるの、大きな試合や大会には出ないから有名ではないけど信じられないくらい強いタイプの黒帯です。スパーで使ってる技は自分でも知っている基本的なものばかりでしたが、いちいち精度が異常に高くて、世の中にはこんなブラジリアン柔術も存在するのかと驚愕しました。あんな柔術を日常的に見て体験して学べる会員さんたちが羨ましいです。
④小括
海外からTF大阪に来られるビジターさんの柔術でも時々感じることですが、ヴァーリトゥード等も想定した昔ながらのクラシック柔術には、独特の魅力を感じます。その技術がポイントを取り合う競技柔術にも有効だったりするのです。競技柔術ルールのみ対象ではなく、総合格闘技ジムでの柔術でもなく、MMAも想定したクラシックなBJJは、その他のものとは少し違います。
また、こぢんまりとしたジムなので、後藤さんの朗らかなキャラクターも相まって、極めて家族的な雰囲気の道場でした。
群雄割拠の東京ブラジリアン柔術業界において、ここにしかない異彩を放っており、一心柔術がベストマッチするニーズや顧客が一定数必ず存在すると思います。
(4)その他
①トライフォース五反田
ヘッドインストラクター中山徹さんの特別セミナーは受講したことがあるものの、実はまだTF五反田には出稽古に行ったことがありません。なのにここで取り上げるのは、次のような理由があります。ただしあくまで伝聞情報です。
TF大阪所属アスリートに東京勤務の可能性がありました。そうなった場合、直営道場である池袋もしくは新宿に移籍するものだと思っていました。両道場には国内外で活躍するトップ選手が多数所属しているからです。ところが彼は五反田への移籍を考えていると言いました。中山徹さんの指導を受けたいからとのことでした。
中山さんがフランクかつ熱いキャラクターであることは自分も知っていましたが、普段の練習とくにスパーリング中にも会員に対し積極的にアドバイスするタイプの指導者だそうです。彼は東京に移住することになった際には、そういうウェットな指導を受けたいと考えていたのです。
TF大阪では、ヘッドインストラクターである川本先生があえてスパー中での指導を控え目にされています。上帯が下帯に対し一方的に教え魔になることを予防し、多種多様な会員の大多数が心理的安全性を保障される道場カルチャーを築くためのものだと自分は理解しています。そのようなメリットがある一方で、自分のように積極的に指導されたいタイプは主体的に上帯に教えてくれと頼みに行かなければならないデメリットもあります。自分みたいな性格の人間は、どんどん改善すべき点を指導してくれる中山さんみたいな指導者はありがたいと感じるでしょう。インストラクターの指導姿勢やジム独特のカルチャーも、顧客である会員の好みや個性との関係でマッチやミスマッチがあります。
②トライフォース天満
前記カリキュラムを提供しているTF直営道場は、格闘技経験がなく、これからブラジリアン柔術を始めたいという人にとって、最初に選ぶのに最も適している道場だと自分は考えています。ほかの点では他の道場により優れた点や個性があったとしても、未経験初心者への間口の広さという点ではTF直営が最適だと思うのです。したがってTFと競合する他のジムは基本的に、ほかの強みで差別化を図るべきだと自分は考えます。
ところが大胆なことに、未経験初心者向けという点でTF直営よりもさらに先鋭化したTFフランチャイズジムが現れました。それがトライフォース天満です。ここのメニューとカリキュラムは、基本的にヘッドインストラクターである大黒くんが考案しています。
「ビギナークラス」は、TFベーシックカリキュラム準拠です。TF直営道場のベーシッククラスと基本的に同じです。「レギュラークラス」もTF大阪のレギュラークラスと基本的に同じですが、クラス時間は30分だけにして、スパーリングはクラス後という建て付けにしています。さらにユニークなのは、週に2回実施している「テクニッククラス」です。インストラクターが解説した後、会員がそれをトライする時間と回数をたっぷり取っているクラスです。会員が打ち込みしている最中にも、改善すべき点があればインストラクターが助言します。スパーリングは行いません。
何ら格闘技やスポーツの経験がなかったにもかからず、短期間に最前線で戦えるアスリートレベルに達したヘッドインストラクターは、現在は紫帯でありながら、技術の要点を言語化したり初心者が効率的に技術を身に付ける練習方法を考案する能力に秀でており、そこに圧倒的な強みがあります。かつジムそのものも小規模で、1人1人の会員に対し個別的な指導と対応が可能です。初心者に間口を広げたTFカリキュラムをさらに未経験初心者向けに先鋭化し、丁寧な指導を好む顧客セグメントに特化したかなりラディカルなマーケティング戦略を採用しています。JR環状線天満駅前という圧倒的アクセス強者な立地条件も、このような強気で個性的な戦略を可能にしているのかもしれません。
なおTF大阪に所属したまま、彼の指導を求めてTF天満に頻繁に出稽古に行っている白青帯TF会員は、自分も含めて複数人います。
③MMAジム
自分はまだMMAジムには出稽古に行ったことはありません。しかし実は、ブラジリアン柔術を始めようというときに一番最初に見学に行ったのはブロウズさんでした。
見学先に選んだ第一の理由は、TF大阪と同じく通勤路線上にあり、帰宅途中に通うことが可能だったからです。ただもう1つの動機としては、自分自身は総合やキックをやるつもりはないものの、同じジムで練習することで総合選手と親しくなり、MMA観戦をもっと楽しめるようになるのではないかという下心?もありました。
ブラジリアン柔術だけでなく、キックやMMAもやってみたいという顧客は沢山いるはずです。そういう人たちに対しては、柔術専業ジムに比して圧倒的な集客力を持つでしょう。他方、柔術専業ジムは柔術クラスを毎日提供できるので、MMAジムに比べて、柔術だけをやりたい顧客を誘引する能力において優れています。したがって、柔術専業ジムと柔術クラスも開催しているMMAジムは主たる顧客層を意識的に分けることで棲み分けが出来ると自分は考えています。
(5)まとめ
冒頭で触れたように日本の社会人は忙しいので、今のところブラジリアン柔術道場が選ばれる第一の要因は立地、その顧客にとってのアクセスの良さだと思います。
ただ今後、ブラジリアン柔術の道場はますます増加し、それに伴ってBJJユーザーも増えていくことでしょう。そうなったとき、各道場がそれぞれその個性とマッチした顧客獲得に成功すれば、道場同士が会員獲得競争で疲弊せず、共存共栄しつつ市場と業界規模をさらに大きくしていく好循環を生み出せると思うのです。
上記の情報が、これからブラジリアン柔術を始めてみようかなと悩んでいる人、ブラジリアン柔術道場を経営しようかと考えている人、既に経営している人にとって一助になれば幸いです。
以上
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