よねの尋問について、追記

昨夜の記事、一点書き忘れていたことがありました。その補足というか追記です。よねの変化についてです。

第2週の明律大学女子部編、登場したばかりのよねは大学を抜け出し、裁判傍聴に向かいました。後を追いかけた寅子が共に傍聴したのは物品請求事件、離婚訴訟中の妻が夫に対して形見の着物を返還するよう求めていた訴訟です。妻の請求が認められないのはおかしい、不正義は正されるべきだと主張する寅子に対し、よねは否定的でした。男女不平等を規定する法律が間違っているけど、それが現実である以上はどうしようもないんだというのが、よねの主張です。その後、穂高教授の指導の下、女子部で検討がなされたけど、よねの考えは変わりませんでした。
よねらが明律大学法学部に進学した第4週、手形法の授業の場面がありました。16話です。授業の後、図書館に集まって花岡らと議論をしています(こっそり小橋もいる)。そのとき「間違って日付でも支払い責任はあるんじゃない?」と実利的に考える寅子に対し、よねは「いやないだろ。手形法理としてはやむを得ん」と法律の形式面を重視した反論を行います。
このように学生時代のよねは、社会の不公正に怒りを表し、不平等な法律を変えるべきだと考えつつも、その時々の法律や判例についてはそれが現実だという諦念も強く持っている人物でした。

第23週111話、最後の準備手続を経た後の裁判官室における合議の場面、「日本にもアメリカにも賠償責任があることを法的に立証するのは難しいと思う」と部長の汐見が言います。

同じく111話、雲野弁護士死去を受け、「俺も無理だと思う」と岩居弁護士が弱音を吐きます。4年超にわたり原爆訴訟の準備手続に取り組んできた岩居弁護士は、誰よりもその難しさを分かっています。よねと轟も既に経験を経た弁護士なので、この裁判の難しさを重々承知しています。しかし、よねは言います。
「いったい彼らは、いつまで耐え続けなければいけないんだ?」
「やりましょうよ、岩居先生」

口頭弁論が始まってから更に1年半が経過した鑑定人尋問において、よねは国側の鑑定人に対し、次の反対尋問を行いました。

よね:いくつかの国際法に「戦闘における不法行為を行った国には損害を賠償する義務がある」と定められています。この義務は国家間にのみ発生するのでしょうか。
嘉納:国際法の原則では、不法行為による損害賠償は被害者個人ではなく国家が請求することとなっています。
よね:では日本国民個人がアメリカに対して不法な戦闘行為による損害賠償を求めても不可能であると?
嘉納:日本国は米国に対する損害賠償請求権を平和条約第19条において放棄したとの解釈ですので、法的には不可能だと考えます。
よね:主権在民の日本国憲法において個人の権利が国家に吸収されることはない。憲法と国際法及び国際条約の規定と法的にはどちらを上位に考えればよいとお考えですか?

従来の一般的な考え方に依れば、嘉納教授の言うとおりでしょう。しかしながら、よねは戦後新たに手にした日本国憲法を掲げ、旧来の法律界の常識に果敢に立ち向かいます。そこにはもはや、現行法や従来の判例がこうだからと悲観するかつてのよねは存在しません。

よねはよねらしさを変わらず貫きつつ、まさにタイトルどおり翼を得た虎のように大きく変化したことが如実に描かれたのが、昨日の112話でした。それは山田よねという弁護士の類い希なる部分であり、そこは見落とせません。

鑑定人尋問の1年半前、初回口頭弁論の直後、よねはすれ違いざま寅子に言いました。
「意義のある裁判にするぞ」
よねは有言実行の人です。寅子はどう応えるのか。

以上


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