【BJJ教則頻出英語解説シリーズ第二弾】 The guard Retention Anthology: Around and Under-Lachlan Giles, Ariel Tabak 

 ラクラン・ジャイルズと言えば、既にフィジカルとスピードに優れたオールラウンダー全盛になっていた2022ADCC本戦において、一昔前のガード主体スタイルで大健闘する姿に自分は大興奮しました。現代柔術の象徴たるケイド・ルオトロに破れはしましたが、その勇姿に感激しました。
 自分が感銘を受けたのは、やや時代遅れのスタイルで若いトップコンテンダーに挑む姿でした。が今年、ラクラン一門のリーヴァイ・ジョーンズがCJIで準優勝することで、ラクランスタイルでも世界の頂点に立ちうることを示してくれました。感慨ひとしおです。

 ラクランスタイルの特徴の一つである無限ガードリテンションを解説する本作は、環太平洋圏を代表する軟体ガードの名手アリエル・タバックとの共作となっています。直近アジア選手権で大浦マイケ選手の超弩級パスを完封したあのガードリテンションです。アリエルは2024パンパシフィックでAOJのホープ、コール・アバテのパスアタックも完封しています。

 國本のgeekyな試合観戦録を延々述べていても仕方ないので、本題に移ります。

 冒頭、ラクランとアリエルが本作のコンセプトを早口でベラベラ喋ってます。大事なことを話してるけど、そこで出てくる英語はBJJ教則頻出英語を紹介するという本シリーズの趣旨からはやや離れるのでここは飛ばし、具体的実演がある18分47秒のGeneral Concepts Principles And Strategy から始めます。この単元の最初に、ラクランが考えるガードリテンション一般(general)のコンセプトが提示されます。ていうか、一般コンセプトだけで19種もあるんやけど。

1.Layers of Guard

 layer は日本語になっているレイヤーと同じ「階層」のこと。ガードにもレイヤーがあって、一番遠くて安全な足(の裏)レイヤー(sole feet)レイヤーに始まり、knee line レイヤー、hand レイヤー、arm レイヤーとそれぞれのフレームに応じたガードを階層ごとに分類しています。ここで面白いのはラクランが、Could be like this(こんなのもあり得る) Could be here(こんなんもある)という表現を使っているところ。これは仮定法(現在)という用法。受験英語文法の最難関部分でその名称からして難しいけど、この場面でラクランが使ってるように実は「こういうときは〜」と想定してる場面だと表現する用法に過ぎず、BJJ教則で出てくると難しいこと考えなくてもすんなり理解できると思います。
 なおラクランとアリエルは通例に従って、技の受け手のことをopponentと呼んでいます。

2.Seated vs Lying Down

 シットガードと寝転んだガードの使い分けについて解説する単元。タイトルではlying down(寝転んだ)と表現してますが、アリエルがSpine Guard Play Position(スーパインガード・プレイポジション)という表現も使っています。spine は背骨のこと。ダナハーも寝転んだ状態のことをSpine Guardと呼びます。
 Establishing Guard : ガードを作ることをこのように表現してますね。いかにも英語的な表現だなと思います。
 I'm going to be much better off : トップの相手にグリップを作られたら寝転んだ方が良いと説明しているところで、この表現が出てきました。崩れた I'm gonna ではなく I'm going to を使っていますが、やはり be going to はBJJ教則頻出です。
 グリップ作られたときに何故寝転んだ方が良いかというと、 I can engage all four my limbs (自分の四肢を全て使うことができる)からとのこと。ここでengageを使うのも英語ネイティブならではだなと思いました。続けて、I can pummel my feet, I can frame with my hands, I can make grips (足を差し込めるし、手でフレームを作ることもできるし、グリップも作れる)と言います。出ました pummel my feet !!
 pummel はラクラン教則で最頻出の用語です。人によってはトップから足回しで自分の脚をより良いポジションに差し込む場合にも使うようですが、ラクランはガード状態から自分の四肢を相手の体のインサイドに差し込む行為を指します。
 ところで initiate(〜し始める、始動する) 、メンデス教則解説でギイ特有の表現かもと書いたけど、アリエルも普通に使ってますね。
 このあたりからengage とdisengage という表現が度々出てきます。自分もしくは相手のどちらかがグリップを作ってる或いは互いに接触している状態をengage 、それらがない状態をdisengage と表現しているようです。様々な考え方とスタイルがあることを前提に、ラクランとアリエルはdisengage状態ならシーテッドポジション、相手とengageしたならレイダウンポジションを取ることにしているそうです。ただガードが得意な2人は、実戦ではdisengage状態でもレイダウンで待ってたりするので、あくまで基本コンセプトという趣旨なのでしょう。

3.Postures that deny your opponent the pass

 deny は否定、拒否のこと。何を拒否するかというとパスそのもの、或いはyour opponent が pass に繋がる space を occupy(占領、支配)しようとすること。パスしたい相手は自分の身体のcore(中枢部分)をコントロールできるspaceをoccupyしてこようとするので、それをさせないpostureを取る必要がある。ただそのpostureは、This isn't just one particular posture. (一種類ではない)。続けて、正確に聴き取れてるかどうか分かりませんが、概ねこう言ってます。
 Keeping your knees to your chest which is good one in very short minutes of time but depending on what type of guard passes are getting for. Putting on knees to chest could actually leave you vulnerable position(時間がない場面では膝と胸を付ける姿勢は良いことではあるが、その良し悪しは相手が使ってくるパスの種類による。かえってパスされやすい状況に居着くことにもなり得る)。
 この中で汎用性が高く、他のBJJ教則にも出てくる可能性が高い表現は、depend on(〜次第、〜に依る)、leave(〜のままにする、〜の状態に放置する)、vulnerable(バルナラブル、脆弱な状態)です。なお、ここのcouldも仮定法でしょう。
 そのため、Occupying the space they want to pass into に対しては、
1. Face your opponent :相手とface(向き合う)
2. Knees to shoulders (around and through) :自分の膝肩を近づける
3. Legs extended (under) :担ぎに対して脚を伸ばす
状況に応じてそういった posture(姿勢、体勢)を取る必要があると言ってます。
1. Face your opponent
 例えば担ぎパスに対して腰を外に逃がして脚を回す実演、ラクラン曰くYou are able to face him and get much better chance and recovering my guard。be able to faceは「向き合うことができる」。recover my guardはそのままの意味、「ガードに戻す」ですね。
 例えばニースルーなどthrough the leg passに対しては、脚を大きく回すことによって again I wanna make sure that I am facing him and get to be much easier to retain guard(この場面でもやはり相手に向き直ることでガードに戻すことが容易になることを確認しておきたい)。ここではガードに戻すの「戻す」を、recover ではなく retainを使っています。
2. Knees to shoulders (around and through)
 In terms of occupying space(スペースの占領に関して言えば)、BJJ教則を理解する上では必須ではありませんが、in terms of~は英語ネイティブが好んで使う表現です。
 
If Ari pushes down on my feet, it flattens my hip on the groundのflatten(フラットにさせる)もBJJ教則頻出です。理由は説明するまでもないでしょう。
 Kind of forces Ari over the top allows me to start pummeling to get good position.の allow は頻出というわけではないけど「〜するのを許す」という動詞の使われ方として面白いので、紹介しておきます。
3. Legs extended (under)
 相手にパスするスペースを拒否するpostureの3つ目は担ぎパスに対して脚を伸ばす姿勢、More bringing my knees to the chest, more giving him space to pass aroundと比較級が使われています。almost opposite posture(膝肘くっつけるのと殆ど反対の姿勢)、I want to flatten my back on the ground my hip extended (背中をフラットにして腰を伸ばしたい)、it's impossible to pass underneath that gap unless he's able to move and change my position(私のポスチャーを変えられない限りパスするのは不可能)あたりが、やや興味深い表現だなと思いました。  

4.(Having) Small part of your body on the ground

 リテンションするためにマットに付いてる身体面積を最小にする姿勢を解説しているだけなので、この単元では特に難しい或いは特有の表現はなかったと思います。

5.Hip Distance  

 冒頭、bunch different way of (いくつもの方法)という表現がありました。bunchの原意は「束」。沢山ある、幾らでもあるというときにbunch of を使うのも、英語ネイティブあるあるです。
 High pummel actionもラクラン特有の表現だと思います。ガード状態で自分の足を脇下など相手のインサイドに差し入れるのは内側からが多いところ、外側ないし上側から差し入れることをラクランはhigh pummelと呼んでいます。
 anytime you feel be jammed(行き詰まったと感じたときはいつでも)も面白い表現ですね。そういうときは腰をアウトサイドに移動させると良いと言ってます。
 slight invert motion(少しインバートする動き)も面白い。slight、slightlyは「ほんの少し」の意味です。 

6.Framing : Importance of frame

 purpose of frame(フレームの目的)は、そのまんまの意味です。preferenceは、ここでは「好ましい」くらいの意味で使っていると思います。
 we do have to compromise little bit sometime(ときには若干妥協しなければならない)のcompromiseは、日本語では「妥協」がニュアンス的に近いでしょう。膝は常に胸にくっつけているのが理想だけど、グリップを取りに行くときなどは隙間が少し空いてしまうのも仕方がないと説明する場面で使っています。
 スパー解説でtorsoが出てきました。日本語でも胴体だけのマネキンをトルソーと呼ぶようですが、まさに「胴体」のことです。

7.Leg battle and Positioning

 suitable foot positioning for a particular movementという表現が出てきました。suitableは「適切な」という意味です。
 ここまで来て今さらなんですがラクランとアリエルは、トレアナやブルファイターなど足の外側を回るパスのことをAROUND、担ぎパスなど相手の脚の下から攻めるパスをUNDER、ニースルーなどインサイドから攻めるパスをTHROUGHと分別しています。本作の対象はガードリテンションの一般原理と前2者で、THROUGH PASS対策は続編で取り扱うことになってます。が、3種類とも説明している場面もそこそこありますね。

8.Shin Angle for Pummeling

 もはや新しい体の部位単語は出てこないかと思いきや、shin(すね)とforearm(前腕)が出てきました。とはいえ、shinはシンガードとかシントゥシンなど、そのまま日本のブラジリアン柔術用語になっているのでお馴染みですね。forearmもfore(前)のarm(腕)なので、そのままではありますが。
 かかとをヒールと呼ぶのも日本語化してるので、ここまでは説明を省いてきました。が、よくよく考えるとheelのように末尾に来るL音は、日本語話者には非常に聞き取りづらい音です。heelやschoolのようにLが末尾に来て子音のみで終わる場合、日本語の「る」ではなく「う」に近い音に聞こえると思います。heelは「ヒーウ」、schoolは「スクーウ」だと覚えておいた方が良いというのが私見です。
 chopもたびたび出てくるけど、ラクランは足で切る動作をするのが特徴的なだけで日本語のチョップと同じだから、これは説明不要ですね。

9.Arm battle and positioning

 手でフレームを入れるときに肘が曲がってたらダメですよという説明で、collapseが出てきました。collapseは建物などの「崩壊」を意味する言葉ですが、BJJのフレームが潰れるときにこの単語を使うのは言い得て妙ですね。
 outstretched
(限界まで伸ばされた)がたびたび出てきますが、これも実演とニュアンスで分かりますね。
 pay attention(注意する)、similar principle(似た原理)は平易な言葉ですが、教則頻出かなと思うので触れておきます。
 lean in (倒れる、もたれかかる、傾ける)は文字にすると馴染みあるけど、口語で出てくると意外と聞き取りにくい言葉かなと思います。ラクランは担がれたときに背中と後頭部をしっかりマットに付ける場面で、この言葉を使っています。
 tilt(傾ける)も同様かもしれません。rotate my spine(背骨を屈曲させる)との言い換えとセットで出てきました。
 placeが出てきました。このplaceは名詞の「場所」ではなく、動詞の「置く」「設置する」です。自分の足をフレームとして相手の肩に置く場面で使っています。
 This much distance can make huge difference(たったこれだけの距離が大きな違いを生む)は、如何にも英語ネイティブな表現です。hugeはダナハーも好んで使います。bigやlaegeに比べて「巨大な」というニュアンスがある言葉です。
 力を逸らせることをdeflectということ、この教則で初めて知りました。
 prevent,preventing(防ぐ、妨げる)を紹介するのを、ここまで忘れていました。
 another gi specific frame(道着特有のフレーム)という言い方が、面白いなと思いました。
 これまでも何度かconcern(関心事である、心配事である)が出てきました。When double under pass concerns(ダブルアンダーを仕掛けられたとき) という言い方が、BJJ特有で興味深いところです。
 reinforce(補強する)が出てきました。足がピンされようとなったときに腕や肘で自分の膝や脛を支えて防ぐ場面です。

10.The Off Balance

 相手をoff balance(崩)してマットに手を付かせることを、ラクランはmake the postと表現しています。postに「手を突く」という意味があるからですね。
 bring out forward(前方に崩す)という表現も出てきました。簡単な単語の羅列だけど、こういうのは自分の中からは出てこない。
 プレッシャーを受けているときにそれを他方向に逸らしてリテンションする技法につき、ラクランはlowedcollapseoff balanceと解説しています。low(低くする)って動詞もあるんですね。その際、引く(pull)んじゃなくて、むしろフレームで押しておいて(pushing away)、そこから一気に力を抜いて相手をcollapseさせるのだそうです。このシークエンスをラクランは後の場面で、”You tried frame, tried frame, and then everything draws in, and I change angle, and off balance”と言い換えています。
 off balanceした後に自分の体の向きを転換して相手に入力するベクトルを変えることをchange the planeと表現しています。このplaneはもちろん飛行機ではなく、「水平方向」のことです。
 ここで、as much as possible(可能な限りの全力で)という表現が出てきました。これもBJJ教則でよく聞く気がします。 
 スパー動画、ここまで来てまだ新しい身体部位の単語が出てきました。butt(尻)です。メンデス教則の記事でhipは身体前面も含むので「骨盤」のニュアンスと書きましたが、他方buttは正真正銘「お尻」です。どうでもいい話ですが「お尻探偵」の英訳はButt Detective です。

11.Outside vs Inside Positioning

 preferenceが再登場。今度は「好み」の意味ですね。インサイドレッグポジション、バタフライガードが好きな場合には、という文脈です。
 なお、実演観てたら分かりますが、片襟片袖ガードはCollar Sleeve Guardです。
 entanglement(もつれさせること)が出てきました。Leg Entanglementの例(such as)としてシングルX、Xガード、50/50ガードが紹介されています。

12.Not let them hug your head

 いわゆる「枕を取る」ことにつきhug your head、hunch your head、connect the headと3種類の表現をしています。
 頭や首を抱えられると相手を突き放すのが難しくなることを、this is much more likely to stick と表現しています。stickは名刺なら「棒」ですが、動詞だと「接着する」「ピン留めする」「動けなくする」などの意味があります。その形容詞形がsticky(粘着質)です。冒頭のケイド戦動画で解説がラクランのガードをstickyと評していました。なお、粘着シールはsticker(ステッカー)です。

13.Not letting your leg get pinned

 one directionという言葉が何度も出てきます。もちろん歌手グループのことではなく、「一方向」の意味です。
 preemptiveは「先制して」「予め予測して」という意味です。前の単元に出てきたときは必ずしも必要ないかと思い触れなかったのですが、ピンされそうになったらすぐに脚や体の向きを変えて対応しましょうということで、この単元では中心的テーマになっています。ここでもまたchange the plane(向きを変える)が使われています。

14.Never hip escape

 リテンション場面では上足のエビを使うな(ただしハーフガード除く)という、最近よく言われてるあれですね。ラクランが言うところのHigh Pummelや下足のエビを使う場面など、オルタナティブを示してくれているところがラクランらしいなと思います。英語で特筆すべき単語や表現はありませんでした。

15.When to Sit-up Escape

 新しい英語表現としては、exposing myself(パスやバックテイク、サブミッションに自ら晒してしまう)くらいでしょうか。

16.Don' t let your spine twist

 upper-body(上半身)、lower-body(下半身)は見てのとおり、聞いてのとおりでしょう。 
 下半身が捻られたとき、upper-body has to followのfollow(ついて行く)の用法が日本語話者にはやや馴染みないかもしれません。そう言えば、ここまでsolely も何度か出てきました。solelyは「〜だけ」「単独で」の意味で、上半身だけとか片足だけとか言う場面で使われています。

17.Legs in alternate planes

 もはやBJJ教則頻出単語なのかどうか分かりませんが、extreamly(めっちゃ、ものすごい)やobviously(明々白々に)みたいな大げさな副詞は、いい大人が日常会話で使うことはあまりない気もするので、BJJ教則特有と言えなくもないかもしれません。
 we can manipulate which way returning の manipulate は一般的に「操作する」と訳されますが、この場面では「選択する」「コントロールする」のニュアンスが強いと思います。

18.Elbows on the ground

 retain guard and maintain yourselfのmaintainは、メンテナンスの動詞形なので、この文脈では「パスられない状態をキープする」みたいなニュアンスです。 

19.Late stage retention

 pretty desperate to retain guardという表現が出てきました。desperateは「絶望的」という意味の形容詞で日常用語としては大げさですが、ダナハーもしょっちゅう使うので、BJJ教則では頻出と言えるかもしれません。 

【さいごに】

 本教則の第1章が、以上になります。第1章だけで1時間40分、全8章で約11時間の長大教則です。これが世界的ベストセラーになっていることが、ブラジリアン柔術という世界の特異性を物語っているのではないでしょうか。
 本教則は英語ネイティブによるものであるため、ギイ・メンデスのものと異なり、ノンネイティブにとっては難しい或いは馴染みない表現が続出し、どうしても解説も長くなってしまいました。國本の英語力では正確に聴き取れなかったところも多々あります。抜き出した英文に誤りもあるやもしれませんが、ご容赦下さい。
 このシリーズの趣旨はBJJ教則頻出英語単語&表現を紹介することであって教則そのものを紹介することではないし、ラクランが好んで使う言葉は殆ど出尽くしたと思われるので、本教則の記事はここまでに留めます。

以上

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