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久しぶりの雪化粧、新卒時代を思いだす。

カーテンを開けると真っ白な世界が広がっていた。
しんしんと降りそそぐ雪とは対照的に、だんだんと明るくなる空。
外はいつもよりも静かで、澄んでいた。

雪景色をみるのは3年ぶりくらいだろうか。
とてもなつかしい。

家のまえの道路は雪と氷で覆わていた。
その道路を車がそろりそろりと通りぬける。
とても慎重に運転していた。

そんな風景を見ていたら、新卒時代のとある日に記憶がタイムスリップした。

あの日もおなじような朝だった。

行きかう車はとても慎重に運転をしていた。
あたり一面は銀世界。
空気はとても澄みわたり、息をするとふわっと白いもくもくが。

あれは確か、入社して2年目の冬だった。
その日は会議の予定があり1時間かけてとある街へ日帰り出張へ行くことになっていた。

運転が苦手なわたしは「うわ〜、さいあく。」と思いながら出社。

職場では上司が「今日出張だよね?社用車は冬タイヤになってるから、あとは安全運転でね。」と声をかけてくれた。

わたしは心のなかで「いくら安全運転でも、どうしようもないことってあるんですよ……」って言い返した。

運転したくないあまり、おなじ街へ出張のひとがいないか聞きまわってみたが、残念ながら誰もいなかった。

仕方なくわたしは社用車に乗りこみエンジンをかけた。
どうにかテンションをあげようと、スマホで大好きな音楽をかける。

通常は1時間かかる道のりを、この日は余裕をもって1時間半まえに出発した。
けれども、どの車もとても慎重に運転しているからかなかなか前進しない道中。

そうこうしていると信号が赤に変わった。
わたしはゆっくりとブレーキをかけた。
だが残念ながら車は止まってくれなかった。

ロックされたタイヤはなす術もなく、赤信号をそのまますーっと進入した。

わたしの心臓は最高潮にドクドクと鳴っていた。
やばいっ!!!
そう思った。

すると幸運なことに、交差点へ進入する車が止まってくれた。

わたしはただただ赤信号をすーっと通りすぎたのだった。

その後のことはあまり覚えていない。
確かサイドブレーキをあげて無理やり止めたように記憶している。
前方には車があったから、ただただ必死だった。

奇跡的に無事故でこの危機を乗り越えたわたしは、再び車を走らせた。
会場までの道のりはまだ半分もある。

わたしはさっきよりも更にのろのろと運転をした。
着いたときには大幅に遅れてしまっていた。

とはいえ、遅れてもどうってことない会議だったから問題はない。

だったらどうしてこんな日に行かねばならなかったのか?

正直わたしは行きたくなかった。
ただレジュメを読みあげて質疑応答をほんの少しするくらいの内容なのだから。

けれどもわたしは、「行きたくない」という主張ができなかった。
「運転に自信がないから、誰かかわりに行ってくれませんか?」とも言えなかった。

選択肢などないのだ。
行くしかないのだ。
だってこれがわたしの担当する仕事だから。

万が一のことがあったらもう諦めるしかない。
出発前にわたしはこう覚悟を決めていた。

いま考えると「どうにかできなかったのか?」と本気で考えてしまう。
たいして重要ではない会議のために、そこまでのリスクを背負う必要がどこに?

でも現実での答えはただ一つ。
行くしかない。

行かないという選択肢はないのだ。
いくら無駄に思えても、出席することに意味がある。そうみんなが思っていた。だから「行かない」という選択肢を提案することはできなかった。

これは、わたしが会社員を続けていくことに自信をなくしてしまった一つのエピソードである。

それを何年もたったある雪の朝にこうして思いだすだなんて……

よっぽど怖かったのだろう。

また、あのときの自分と今朝のドライバーたちを重ねていたのかもしれない。あの人たちは職場へ向かっているはずだ。しかもほとんどの確率で夏タイヤだ。

ドライバーの皆さんが、どうか事故なく今日を終えられますように。

なお、あの時わたしが咄嗟にとったサイドブレーキを使って止まるという方法はどうやら良くなかったらしい。会社に戻ってから上司がそう教えてくれた。(たしかポンピングブレーキで対応するのが正解だと言っていた)

いくら安全運転を心がけてもどうしようもないことだってある。
いまはもっぱら歩く専門になったけれど、歩行者とて近くを走る車には要注意したほうが良いだろう。

日本各地で猛威をふるう寒波。
どうやら今夜も冷えこみそうだ。

いつも読んでいただきありがとうございます☆