ちゃんと悲しむということを忘れない

もう何年経つだろう。
あの日も2月の今頃の日付だった。
珍しく大雪が降った冬だ。

アパートの前に分厚く積もった新雪をかき分け、
まだまだ降り続ける空を見上げていたら、
今ある悲しみを忘れられる気がした。
周りはしんと静まっていたし、
真夜中なのに雪の反射で明るかった。

想いが通じ合えない悲しみを、
あの時初めて知ったのだろう。
確かあの日はライブで演奏した日で、ピアノを弾いてる時間のみ、心が軽かった。
他の時間は魂が抜けたようでいながらも、
苦しんでいる心だけが取り残されたようだった。

あの時も、周りの人たちが助けてくれたな。
ギリギリになるまで助けを求められなかったけど、もうどうにでもなれと連絡したら、案外スムーズに事が進んだ。

「死にたいという気持ちが抑えられないんです。
頭の中を暗い気持ちがぐるぐるしてて、
『死んじゃえ』ってもうひとりの自分が言ってくるんです。何度も何度も。」

今ある自分は、過去の自分だ。
変わった、というけれど、同じ人間だ。
でも確かに乗り越えてきた。
乗り越えさせてくれたのだ。
人は成長する。経験する。蓄える。
色んなことを感じ、考えて自分をアップデートさせていく。
色んなことが私を作ってきた。
支えてきた。
もう会えない人もいるだろう。
でも、私は幸せを祈っている。

雪の降る日に平安を祈ろう。


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