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そのときわたしたちは-その6

友人指定のレストランも田んぼの中。水牛と並んで自転車を漕いで、貸切のように人気のないレストランに到着した。

在住20年、ほぼネイティブの彼女オススメの料理を堪能しながら、いろんな話をした。

お隣同士だった時の思い出話、子供の進路について、最近のそれぞれの状況。アーティストの彼女は少し浮世離れしていて、ホイアンの安全さも相まって特に中国の様子も気にしていないようだった。対岸の火事という感じでいてくれて、それがとてもありがたかった。

食後は彼女のアトリエお邪魔して、ここ数年実物を見られなかった彼女の作品たちを堪能させてもらった。素晴らしい作品の数々。しあわせな時間。


アトリエをお暇してホテルに戻って各自自由時間。1月とはいえ暑いので、日中動くと体力を消耗する。この国の人々は朝早くから動き、昼食を食べたら昼寝をする。日が暮れてから活動再開。私たちも当然それに倣う(笑)

翌日はダナンに移動するので、夜も出歩かずホテルのレストランで夕食を済ませた。

中部のレストランなのにハノイ名物のブンチャーが美味しすぎて一同驚愕する。翌日出発前も食べてしまったほど。

食後に夫とホテルのスパでマッサージを受けた。

予想外の対応に追われ続けて夫も疲れていた。リゾート感満載の個室で足マッサージを受ける。ベトナムの足マッサージは、腰の方までしっかりやってくれるのでオススメです。

どこかで施術を受けている男性たちの英語が聞こえてきた時、マッサージをしてくれていた女性が私たちにwhere are you from?と聞いてきた。日本だよ、というと、この時期日本人が来るのは珍しいですね、という返事。

いつもなら今中国に住んでるから旧正月で来てるんだよ、と言う夫が黙って笑っていた。


翌朝、まだ眠っている娘たちを置いて夫と旧市街へ。最後にお土産を買いに。

テト3日目ともなるとだいぶお店も開き始めていた。ホイアンにしかお店のないチョコレート、ハノイで買えなかった割ってしまったバチャン焼きのお皿など。ハノイの友人の洋服屋の支店で本帰国の時に買い損ねたマントを買えて満足して戻った。

後日この友人にあなたのお店に行ったよ、とメールしたら、お礼の言葉とともに「春頃上海にポップアップストアを出したいと思ってるんだけど、いい場所知らない?」と聞かれた。

場所はいくつかあると思うけれど、コロナの影響でどうなっているかわからないよ、と答えると、「きっと大丈夫だよ、また連絡するね!」と返ってきた。

結局その話はまだ実現していない。


昼食後にダナンへ移動した。

ダナンでお気に入りだったホテルが無くなってしまったので、海岸沿いの新しいホテル。目の前が海!けれどもものすごくどんよりした天気で寒かった。

「泳げないね〜、これじゃ」と娘たち。やっぱり南国でも1月は寒いんだよね、ごめんね。

食事する場所を探しがてら街の方に出かけた。ホイアンと違って少し都会のダナンには、韓国人旅行者の姿が目立つ。みんな旧正月で遊びにきたんだろうか?


以前に来たことがあるという勘だけで立ち寄ったビルの中に、日本人オーナーでおいしいと評判のピザ屋があったのでそこに入った。

ピザもパスタもとても美味しい。そしてどことなく見覚えのある内装。。

と思っていたら、長女の同級生のご両親が手がけていた。本当にどこに行っても知人友人の影が見つかって面白い。

そこから歩いてスーパーへ。旅先でスーパーに行くのが大好き。その土地ならではと思えるものを買ってみたり、地元の人に混ざってみたり。

ハノイにもあった大きなスーパーであれこれ見て周り、隣のカフェで一休みした。

私たちの席の横に白人の家族がいた。おとうさんおかあさんとおんなのこ。女の子はまだ赤ちゃんで、おとうさんとお話ししているおかあさんが気に入らない。わたしとあそんで、とずっとご機嫌斜め。おかあさんはお父さんに相槌を打ちながら女の子をあやしてご飯を食べる暇もない。

女の子がこちらをみた時にナンパしてみた。顔であいさつ。じっとみてる。娘たちとみんなで手を振ってみた。にっこり。

おかあさんも気がついて、こちらに会釈してくれた。よかった、不快ではないみたい。それからしばらく女の子と遊んだ。おとうさんもおかあさんも食事を終えて、サンキューと言って去っていった。

「よかったね、いい人たちで」と言うと、

「そうだよ、下手をしたらウィルスを持ってる危険人物と思われたかもしれない。迂闊に知らない人に声をかけたらいけない」と返ってきた。

そう言い出したらお互い様ではあるけれど、私たちはやっぱり中国から来た負い目がどこかにあって、なんとなく皆黙ってしまった。

でも子どもたちの前でそんなこと言わなくても。いや、やめよう、喧嘩になる。


そんな風に思いながらホテルに向かって静かに歩いていたら、薬局の看板が見えた。

あ、もしマスクがあったら買っておこうかな。中国ではもうだいぶ手に入りづらくなっていた。

なんの気無しに立ち寄った薬局だったけれど、中に入って驚いた。商品の半分が空。そしてその上に「口罩没有(マスクはない)」の貼り紙。

マスクは。。と聞く間もなく、No mask と返ってきた。ベトナムではまだ感染者は出ていないのに。観光客がみんな買っていったのだ。

薬局を出てふと隣の洋服屋を見ると、なんと店頭の平積みの洋服を退けて医療用の不織布マスクの箱を並べているところだった!

あーもうこういう所が大好き!転んでもタダでは起きないバイタリティ!

マスクいくら?と聞くと、オバチャンがうーん。。一箱モッチャムバームオイギン!と言った。13万ドン。約800円。ここでは結構なお値段だ。きっと売れそうと思ってすごいふっかけたんだろう。

私の後ろで聞いていた中国人が、那吗很贵!と叫んで去っていった。確かに高い。でも私たちは今マスクがほとんどないし、中国に戻っても手に入るかわからない。


私はOK、でも3箱買うから一箱100万ドンにして、ね?!と言った。ふっかけすぎたと少々しょんぼりしていたオバチャンは目を見開いてうんうんうなづいた。交渉成立。

洋服屋からホテルまでの道すがら、出会った韓国人旅行者達が、私とは比べ物にならないくらいの量のマスクを持って歩いていた。

これは何かあったな、と思う。韓国人はいつも情報が私たちより早い。


部屋に戻ってテレビをつけた時にその理由がわかった。街中がさらにどんよりとして見えた。


ダナンで感染者第一号。

速報が流れていた。