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【長編小説】星風紀行 第一章 一節 太陽を掴む平原Fin

 大人たちが家の外で談笑している頃、アーチェスとマチルダは寝室の2段ベッドで寝支度をしていた。

 先ほど料理で使った火を使い、鍋にたっぷりと水を入れてお湯を沸かし、そのお湯に厚手の布を浸したもので2日洗えなかった汗をぬぐい取るところだった。

 マチルダの方が明らかに流した汗が多いことを自覚しており、アーチェスから先に未使用のお湯を使っていいよと自分の番を譲った。

 やがて2人とも2日に及ぶ汚れをぬぐい取った後、1段目のアーチェスと2段目のマチルダ、場所は違っていても同じように仰向けに寝転んだ。

 真夏の夜であっても灼熱の真昼とはまるで別世界で、爽涼な風が開放した窓から扉へとそよそよと流れて行き、疲労した小さな2人を眠りの世界へと誘おうとする。

 窓の下からはキィキィと虫の声が聴こえ、緩やかな風に吹かれて窓の建付けが時折カタカタと鳴る、そんな静かな世界で2人はぼんやりと上を向いていた。

 いくら心地よい空間が広がっているとはいえど、朝を迎えて風邪をひいてしまっていてはかなわないため、寝る直前には1段目にいるアーチェスが窓を閉める。

「マッチ、起きてる?」
「起きてるよ~」

 アーチェスが呼びかけるとすぐに返事がきたため、アーチェスは話を続ける。

「スーさん、嬉しそうだったね」
「うん。わたしもこんなことになったの初めてだったからわくわくしたよ」
「……都の外には何があるのだろうね」

 アーチェスがぼんやりと呟いたその一言にマチルダはむくりと身体を起こし、上の段からアーチェスが寝ている下の段へ顔を出す。

 アーチェスは重力に従ってだらりと垂直になっている姉の髪型に驚きながら「どうしたの?」と問いかける。

 マチルダはにっこりと笑って「そっちに行っていい?」と2段目から階段も使わずに飛び降りて弟の隣へと寝転がる。

 危ないなと思うアーチェスを他所に、
「都の外に……興味が湧いた?」
 そう続けるマチルダの表情は降りて来る前と異なり微かに寂しげな色が見えていた。

「興味と言うか、僕たちがいるところとは違う世界が広がっているのかなって、ちょっとね」

「それを興味って言うんじゃないの?」

「そうだね。もっと大きくなったら行ってみたいとは思ったよ」

 アーチェスはマチルダの方は向かず、遠くを眺めるかのような目で上のベッドの裏の木目を見つめながら話を続ける。

「外にも人がいて、僕たちとは違う生き方をしていて。でも確かに同じように『ありがとう』っていう言葉もあって―うまく言えないけれど、スーさんを通じて何かが広がってるような気がしたんだ」

 そのように語るアーチェスの横顔をじっと見つめていたマチルダはアーチェスの腕にひしとしがみつく。

「アーチェスがどこに行っても、ずっと一緒だよ?」

 アーチェスは自分が一人で遠くへ行ってしまうかもしれないというマチルダの寂しさを汲み取って、彼女の方に身体を向けて若草色の頭を撫でる。

「うん、その時は一緒に行こう」

 マチルダは安堵したように力を緩めて、すうと一呼吸する。

「アーチェは、たった一人の家族……」

 最後まで言いきらず、マチルダは静かに寝息を立てた。

 アーチェスは抑えつけるように強く髪の毛をもう一撫ですると、マチルダを起こさないようにゆっくりとベッドを出て、窓を閉じた。

 夜天の下、虫が奏でる子守歌。

 空に瞬く3色の星が、寄り添い眠る幼子たちを見守っていた。


次回


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 ゆっくりなペースで1か月投稿した『星風紀行 第一章 一節 太陽を掴む平原』はこれにておしまいです。

 タグにファンタジー小説とありながらファンタジー要素はマーサの老齢に反した美髪、アーチェとマッチの髪色に非凡な体力、ウリムトの怪力くらいしか一節では描かれませんでした。

 物語は一節の夏から二節は秋へと季節が移り替わりますが、ここから一気にファンタジー要素が増します。

 会話も多めなお話なので、タグに「ライトノベル」を追加しようかと思っております。

 いつも目を通してくださる読者様、「スキ」や「フォロー」をしてくださる方々に支えられ、ここまで続けられたことを心から感謝いたします。


 私事でありますが、PCの新調や年末の大掃除を始めるので、次の更新は少し遅れると思います。

 ご迷惑をおかけしますが、どうかご容赦くださいm(__)m


 すっかり寒気も厳しくなってまいりましたので、皆々様も体調の管理にはくれぐれもお気を付けください。

 重ねて稚拙な文章表現ながらいつも時間を割いて目を通していただき、心から感謝いたします(*- -)(*_ _)


                      2024/12/16(mon)
                      鳥街 陽蓮



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