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トーキョーN◎VA AXLERATION/トーキョーN◎VAゴッドファーザーズ

 エリン(ニューロ/ハイランダー/ミストレス、taroさん)が姿を消してから4ヶ月が過ぎた。それ以前から、ノゾミのおむつ替えやミルクにお風呂、ひととおりの世話はできるようになっていたけれど、最初はとにかく苦労した。いろんなものがしまってある場所や、消耗品の補充、自分の身の回りのこと。探偵事務所の事務仕事や依頼人との交渉事。あたしはほんとになにもできないただの小娘だったんだ。そう思い知らされた4ヶ月だった。
 水沢さんのところを出て、事務所を構えて独り立ち。そんな風に思いこんで粋がっていた4ヶ月前の自分の後頭部を思い切り叩いてやりたい。すべてエリンがいたから回せていたことだったのだと今ではよくわかる。
 そうはいってもエリンはもういないのだから、自分でやるしかなかった。もちろんいろんな人に助けてもらいながらだけどね。
 ケトスさん(トゥルシオ・ケトス、イヌ/カブトワリ/カブト、らきさん)は相変わらずぶっちぎれた正義の味方野郎だけど、それでもなんだかんだと仕事を回してくれる。支払いは渋いしすぐ値切るし、ごねて踏み倒そうともするけど、最近は交渉のコツ?みたいなのもわかってきた気がする。ただ、あの人が事務所に来ると、必ずあとから厄介なのが押しかけてきて、ドンパチが始まるので正直鬱陶しい。というか窓だの壁だのの修理で完全に赤字じゃん。今までエリンはそこら辺をどうやって請求してたんだろう。
 小川さん(小川政俊、クグツ/タタラ/カゲ、momoさん)は新設された後方支援課7班の班長になったそうだ。元いた研究所への移動願いは何度出しても受理されないらしい。有能だし、成果も出てるから、上司の人も離したがらないんだろうなーと思う。ノゾミが今の形であたしと暮らしていられるのも、そもそもあの人のおかげだし、小川さんがいろいろと立ち回ってくれなかったら、あたしとノゾミはいまごろそれこそ千早の研究所のどこかで実験台にでもされていたに違いない。
 あのとき小川さんがかけてくれた言葉。あれがなければ今のあたしはいない。あそこできちんと頭を下げられたあたしも、まあまあ偉いと思うけど、下げさせてくれた小川さんあってのことだよね。
 あたしと同い年の娘さん(JKとは聞いてたけど、同い年とは知らなかったんだよ。あたしは学校とかいってないからね)は彼氏と別れて、新しい恋をしているらしい。あいかわらず映画にはいってくれないってぼやいてた。せめてお返しにアドバイスを、と思ったけど、あたしにもJKの気持ちはわからないから。小川さん頑張れ!と思うけど、具体的にはなにもできないね。
 エリンは……そんな人間が実在したのかどうか。それすら今はわからない。人に訊いてもネットを漁っても、記録はおろか、痕跡すら発見できない。事務所が発行した請求書は全部あたし名義になっているし、受け取った側もエリンなんか知らないって。
 最初に出会ったときから、何でもわかっていて、何でも知ってて、すべてを見透かしたような胡散臭いやつだったけど、あいつはきっとすべてをわかって、観察していたのかもしれない。あたしを回収するべきか、それとも抹消するべきか、あるいは。極端の過保護で過干渉だったあいつが、躊躇いもなく姿を消したのはなんでなのか、今もよくわからないけど、それは次に会うときに本人に訊けばいい、そう思う。
 ノゾミはあっという間にハイハイを覚えて、昨日ついに掴まり立ちができるようになった。太一郎もかわいがってくれている。デレデレのおじいちゃんだね、あれは。
 かわいい妹分だから、あたしが責任をもって、この子を育てる。そうしていつかエリンが見つかったら、二人で挨拶にいこう。あいつは最後にこう言った。
「すべての真実が、あなたのうちに宿らんことを」
ノゾミと二人で、望みに向かって歩をすすめる。その果てに、すべての真実があるのなら。そこでエリンが、あの傲慢な拍手で出迎えてくれるんじゃないか。そんな風に今は思う。
2x56.11.3 山崎アユミ

トーキョーN◎VA AXLERATION「トーキョーN◎VAゴッドファーザーズ」
作、RL:HORYIさん

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