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ダブルクロス The 3rd Edition/海ノ幽霊
神無島。
東京から南東に700km余り離れた小さな離島でわたしは生まれ育った。
海と、森と、神社があるだけの、なんの産業もない小さな島。島に住むひとはみな互いの顔を知り尽くしていて、全員が大きな家族のような、そんな小さな社会。
人より少し怪我の治りが早い、いつの間にかいなくなる、小火の現場にひとりでいた。そんな些細な“人との違い”を見咎められ、同年代の子どもたちに爪弾きにされたわたしは、孤独な子供時代を過ごした。
「それは神さまから授かった力なのだよ。きみは“神の子”なんだ。つらいなら、うちで過ごすといい」
神無大社の神主からそう誘われたわたしは、放課後や休日を大社の境内で過ごすようになった。そうしてある日、そこでひとりの“ともだち”とであったのだ。同い年ぐらいの、少し不思議な格好をした女の子。何年生かとか、どこに住んでいるとか、名前はなにか、とか。訊ねるわたしにただ不思議そうな瞳を向ける彼女を、わたしは“つばき”と呼ぶことにした。
つばきとは、半年ほども一緒に遊んだだろうか。お手玉に、かくれんぼに、花冠作り。
ある日、いつものように境内を訪ねたわたしに、つばきはいつものようにこう告げた。
「よく来たなあ。待っておったぞ。忍」
一面の赤。
その後のことは、よく覚えていない。いつもより早く帰宅して、食事も摂らずに部屋に閉じこもり、高熱にうなされ数日間寝込んだわたしは、快復した後、両親にこう頼んだ。
「東京の中学に進学したいの。私立の中高一貫校。全寮制だから、しばらく島には帰れないけど。頑張って、いっぱい勉強するから。いいでしょ?パパ、ママ」
高校時代に見つけたアルバイトは、厚労省所轄のとある財団法人の現場職だった。そこで初めて、レネゲイド、とか、オーヴァード、という言葉を教わった。バイト時代の実績を買われて、大学卒業と同時にその団体に就職した。初任者研修を終えて配属と同時に小さな事務所の所長職(支部長、という大仰な役職でよばれているのだ)に就いたわたしは、雑談混じりにかつての上司、エリアマネージャーの先輩支部長に子供のころの体験を話した。
「ちょっと七沢、あんたそのまま島を出てきたの?」ええ、まあ
「その後、島には帰ったの?」いえ、7年前に両親の葬式で一度だけ
「……それって、どうみても要監視対象だよね。来週から夏期休暇でしょ?悪いことはいわないから、一度帰って確かめておいで。いつの間にか島民全滅、とか、嫌でしょ?」
こうしてわたしは、久しぶりに神無島に帰ることになったのだ。
週4便しかないフェリーには、驚いたことにわたし以外の乗客がいた。
深山翡翠氏(あるくさん)は、ある人物から頼まれた調べ物、とやらで島に向かう「便利屋」を名乗る男性。あんななにもない島でいったいなにを調べることがあるのやら、と思わなくはないが、お仕事ご苦労様、としかいいようがない。せめてグァムやハワイだったらよかったのにね。
もうひとりは冬海音子ちゃん(ニバサンドさん)。わたしが島にいたころはまだ学校に上がる前だったはず。12年ぶりに見る彼女は、すっかりお姉さんになっていて、かつての“おとちゃん”の面影はまるで残っていなかった。なんでも島の中学を卒業して、東京の高校に進学したそうだ。
「薫ちゃん(らきさん)と……えーっと」
「夏馬」
「ああ、そうそう。2人はどうしてるの?今も島?」
「薫は、ええ。あの子は大社の跡取りだから。でもね、あったらきっとびっくりしますよ。跡継ぎなんかまっぴらごめん、わたしも島を出るって、お父さんと盛大に喧嘩中で、いまや島一番のギャルですから」
そうなんだ、それで?音子ちゃんは夏休みで里帰り?と訪ねたら、彼女はこう教えてくれた。
「ううん。夏が、亡くなったって。薫が連絡してきたから」
音子ちゃんと薫ちゃんと夏馬くんは同い年の3人組だった。同学年は他にいなくて、前後の学年の子供もいなくて。4つか5つのころの3人はいつも一緒に遊んでいた。薫ちゃんのお父さんが神無大社の神主さんだったら、大社の境内で遊ぶ三人をよく見かけていた。
「え?病気かなにか?」
「いえ、海で、溺れたそうです。小さい子を助けて。それで、明日お葬式」
「そう……なんだ」
「そうだ、忍さん。泊まるところはどうするんです?ご実家、もうないですよね?うち、来ますか?」
「……ええ、そうね。他にいくところもないし、今さら民宿ってのもね。お世話になるわ」
久しぶりに帰った島は、昔のままだった。人間だけが少し年をとって。7年前に、両親ともども焼けてしまった実家がもうないだけで。後は本当に昔のまま。大丈夫、なにもない。あんなのは、12年前の、臆病な小学生のわたしがうなされたただの悪夢。このまま何日か逗留して、東京に戻って、先輩に「やっぱりなにもありませんでした」って報告して。
夏馬くんのお葬式の帰り。港のそばの突堤で展開された派手なワーディングの気配。
ジャーム!?
人気のない夜の道路を海に向かって駆け出した。
ダブルクロス The 3rd Edition「海ノ幽霊」
GM、シノノメさん
話の建て付け上本編には書けなかったんですけど、音子(ニバサンドさん)と薫(らきさん)の負けヒロイン争奪戦とか、一番報われなくてしんどい枠の薫ちゃん(らきさん)の明暗動静・緩急自在具合に隣で見惚れちゃったスーパープレイとか、飄々と落ち着いて、しかも最後まで依頼主と依頼の内容をそらっとぼけ通した深山さん(あるくさん)とか、ミドルシーンてんこ盛りでドラマが盛り上がるシナリオを回してくれたシノノメさんとか、とても楽しいセッションでした。