デッドラインヒーローズ/火、猛りて
たっちゃん、いや、浅間達司から久しぶりに連絡があったのは、金曜の夜だった。
バンシーエンタープライズに中途で入社した俺を、なにくれと助けてくれた彼は、新事業開発本部に異動になってから、いろいろ難しい上司の下でなんとか頑張っている、そういう話は聞いていた。そんな彼が珍しく、会社の近くではなく、彼の家の近くで待合せたい、折り入って相談がある、そう持ちかけてきた。
聞けば、大きな借金をこさえたという。酒もたばこもギャンブルもやらない、もちろん女遊びなど以ての外、奥さんとまだ小さな娘さんをなにより大切にするたっちゃんが、なんでそんな借金を。なんとも胡散臭い話だったが、他ならぬたっちゃんの頼みだ、できるだけ力になろう。それが事の発端だった。
ヒーロー業界は広いようで狭い。セカンドカラミティ以降、有力なヒーローは激減したのだから、まあそうだろう。それでも、つい先日、新宿の大規模テロ事件で居合わせた2人と同じ事件を追うことになったのには、なんというか、因縁を感じざるを得なかった。
ゴーストガール(ミスティック、らきさん)は、広域指定暴力団「火獣組」を抜けようとしている下っ端を拾ったそうだ。根本のところで人を信用していないように見える彼女が、どうしてやつを助けようと思ったのか。正確なところはわからない。彼女がたまに話す、れいくんとかゆうちゃんの助言によるものなのか、そうでないのか。ゴーストガールは「説明」ということをしないので、そのあたりの機微はわからないとしか言い様がないのだが、彼女はそれを「お節介」と自認しているらしい。
「ヒーローはお節介だから」
ゴーストガールはそう嘯くが、お節介の原動力について、彼女はなにも語らない。
ヴィジョン・レイ(サイオン、とらさん)は苛烈な人物だ。かつてのバディを任務中に失い、その娘を引き取って暮らしているので、娘さんに危害が加わることをなによりも恐れ、厭っている。穏やかな口調と、決して激さない態度の向こうには、ヴィランに対する憎しみと容赦のない怒りが潜んでいる。
「ヴィランといえども無力化し捕縛した後は、司直の手に委ねればいい」そう考える俺は、彼からすれば「甘い」のだろう。だが、完全に制圧されたヴィランに躊躇なくとどめを刺す彼の姿に違和感、いや、恐れを感じないかと問われれば……今の俺には明確な答を出すことはできない。
犬飼が今後どうなるのか、今のところはわからない。彼の境遇を、全くの他人事としてみることは俺にはできない。「何かあれば力になる」そう言いはしたものの、彼が俺を頼ってくるかどうか。それは今の時点ではなんとも言えない。
ゴーストガールは、唐獅子を説得しようとしていると聞いた。ヴィランといえども地位も名誉もある立場に立った人物が、おいそれと節を曲げられるものなのか。俺は一般論を語るほどものを知っているわけではないのでなんとも言い難いが、自分の経験を信じてみたい気持ちは否定できない。珍しく、ゴーストガールがやる気になっているのだから、上手くいけばいいとは思う。
デッドラインヒーローズRPG「火、猛りて」
オンライン開催。GMはスーさん。